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世界編
107の1.不気味っ!
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ん? 寝ちゃった?
よっぽど疲れたのかしら。でもこんなところで寝られちゃあ、いい迷惑だわ。侍女か従者を呼んで運んでもらわなきゃ。
シンの様子を見た私は、そう思いながら立ち上がって扉の外に控えている誰かを呼びに行こうと思った。
様子を伺いつつ側をすり抜けようとした瞬間、左手首をガッと掴まれた。
「え?」
振り返って斜め下を見ると、シンが俯いたまま私を掴んでいるのが見えた。
「ちょっと! びっくりするじゃない! 具合悪いなら休んだ方がいいからさ、誰か呼んでくるから離してよ」
びっくりしてバクバクする心臓を鎮めながら、シンに向かって話しかけた。けれど、それに対する反応はなく、掴まれた状態がしばらく続く。
「離してって言ってるんだけど? 聞こっ、きゃあっ!」
文句を言ってるうちに、急に手首に激痛が走り、悲鳴をあげた。
見れば、関節が変な方向へと捻られて、腕がちぎれそうに痛みを訴えている。
私はなんとかこの痛みから逃れるため、体を曲げてシンの胸の中へとすっぽりと収まった。
「痛いからっ。もう何すんの……あ……」
不満を口に出してる途中で、続きの言葉を飲み込んでしまった。
なぜなら、そこにいるのは、シンであってシンでない者。私の知らない誰かがそこにいた。
いや、この雰囲気は知っている。
エンリィにやって来て、シンと話している途中から感じた、あのゾクゾクする空気を纏っていた人物だ。
「だ、誰なの。あなたシンじゃないわね」
シンらしき者は、口元を歪めてニィッと笑ったまま私を見下ろす。
その不気味さに、背筋が凍りついたように固くなり思わず身構えた。
「お嬢さん、また会ったねぇ」
「んひっ……」
恐怖が体を支配して思うように言葉が出てこない。
「……母上、で、すか?」
少し離れた場所からラッセルの声が聞こえた。
信じられない、といった表情で、期待を込めて立ち上がる彼には、私がシンもどきに対して恐怖を感じていることなど、まるで気づいていない。
「ちが……」
こんな不気味な気配を漂わせる人物が、ラッセルのお母さんであるわけがない。
私は、ラッセルに気づかせてあげようと声を出したのだが、シンもどきに口を塞がれて、思うようにこちらの意思が伝わらない。
「会いたかったわ、愛しい我が子よ。どれほどこの時を待ち望んだことか……あぁ、嬉しいこと」
「痛っ……」
シンもどきはラッセルを認識すると、急に私のことなど眼中にも入らなくなったのか、ドンッと脇に突き飛ばしてラッセルに一歩、二歩と歩みよった。
突き飛ばされた私は、思いっきりバランスを崩して盛大に尻もちをついた。
気持ち悪い……なんだこの、猫なで声。
ご機嫌とるにも程があるでしょうに。
半分ネコの私が言うんだから、ホントのネコだって気持ち悪いと思うはず。
突き飛ばされた瞬間は痛かったが、そんな痛みなどそっちのけで、このシンもどきの不気味さへの関心の方が強く、尻もちをついたまま、二人の様子を窺う。
今まで会えなかった親子が再会する感動のシーンなのに、なぜかムカムカして寒気がするのよね。
よかったねって涙のひとつでも流してあげれば、この親子には好印象を与えられるだろうに、今の私はラッセルの手を引いて、ダッシュでこの場から逃げ出したいと考えていた。
私がそんなことを考えている間、ラッセル達は、久しく会っていなかった親子のつながりを取り戻すべく、お互いの歩みを進めていた。
シンに乗り移っているであろう、ラッセルの母親が愛しそうにラッセルに向かって腕を伸ばす。
そして、伸ばした指先があと数センチでラッセルに触れようとした瞬間、二人の間に緊張が走った。
すんでのところでラッセルは大きく後方に跳びのき、シンもどきの手は虚しく空を切った。
よっぽど疲れたのかしら。でもこんなところで寝られちゃあ、いい迷惑だわ。侍女か従者を呼んで運んでもらわなきゃ。
シンの様子を見た私は、そう思いながら立ち上がって扉の外に控えている誰かを呼びに行こうと思った。
様子を伺いつつ側をすり抜けようとした瞬間、左手首をガッと掴まれた。
「え?」
振り返って斜め下を見ると、シンが俯いたまま私を掴んでいるのが見えた。
「ちょっと! びっくりするじゃない! 具合悪いなら休んだ方がいいからさ、誰か呼んでくるから離してよ」
びっくりしてバクバクする心臓を鎮めながら、シンに向かって話しかけた。けれど、それに対する反応はなく、掴まれた状態がしばらく続く。
「離してって言ってるんだけど? 聞こっ、きゃあっ!」
文句を言ってるうちに、急に手首に激痛が走り、悲鳴をあげた。
見れば、関節が変な方向へと捻られて、腕がちぎれそうに痛みを訴えている。
私はなんとかこの痛みから逃れるため、体を曲げてシンの胸の中へとすっぽりと収まった。
「痛いからっ。もう何すんの……あ……」
不満を口に出してる途中で、続きの言葉を飲み込んでしまった。
なぜなら、そこにいるのは、シンであってシンでない者。私の知らない誰かがそこにいた。
いや、この雰囲気は知っている。
エンリィにやって来て、シンと話している途中から感じた、あのゾクゾクする空気を纏っていた人物だ。
「だ、誰なの。あなたシンじゃないわね」
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その不気味さに、背筋が凍りついたように固くなり思わず身構えた。
「お嬢さん、また会ったねぇ」
「んひっ……」
恐怖が体を支配して思うように言葉が出てこない。
「……母上、で、すか?」
少し離れた場所からラッセルの声が聞こえた。
信じられない、といった表情で、期待を込めて立ち上がる彼には、私がシンもどきに対して恐怖を感じていることなど、まるで気づいていない。
「ちが……」
こんな不気味な気配を漂わせる人物が、ラッセルのお母さんであるわけがない。
私は、ラッセルに気づかせてあげようと声を出したのだが、シンもどきに口を塞がれて、思うようにこちらの意思が伝わらない。
「会いたかったわ、愛しい我が子よ。どれほどこの時を待ち望んだことか……あぁ、嬉しいこと」
「痛っ……」
シンもどきはラッセルを認識すると、急に私のことなど眼中にも入らなくなったのか、ドンッと脇に突き飛ばしてラッセルに一歩、二歩と歩みよった。
突き飛ばされた私は、思いっきりバランスを崩して盛大に尻もちをついた。
気持ち悪い……なんだこの、猫なで声。
ご機嫌とるにも程があるでしょうに。
半分ネコの私が言うんだから、ホントのネコだって気持ち悪いと思うはず。
突き飛ばされた瞬間は痛かったが、そんな痛みなどそっちのけで、このシンもどきの不気味さへの関心の方が強く、尻もちをついたまま、二人の様子を窺う。
今まで会えなかった親子が再会する感動のシーンなのに、なぜかムカムカして寒気がするのよね。
よかったねって涙のひとつでも流してあげれば、この親子には好印象を与えられるだろうに、今の私はラッセルの手を引いて、ダッシュでこの場から逃げ出したいと考えていた。
私がそんなことを考えている間、ラッセル達は、久しく会っていなかった親子のつながりを取り戻すべく、お互いの歩みを進めていた。
シンに乗り移っているであろう、ラッセルの母親が愛しそうにラッセルに向かって腕を伸ばす。
そして、伸ばした指先があと数センチでラッセルに触れようとした瞬間、二人の間に緊張が走った。
すんでのところでラッセルは大きく後方に跳びのき、シンもどきの手は虚しく空を切った。
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