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世界編
104の1.信じてっ!
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「第一王子をアイツなどと。この場にいらっしゃらないから良いものの、失礼にあたるのは君だぞ?」
たしなめるように言われ、ムッとしながら反論をする。
「あのね。信じられないと思うんだけど、あの王太子、アンドリューはニセモノなの。アイツは八卦一族の『ダー』よ。自分が認めていたからホントのこと」
「まさか。王子に成り代るなどできるはずがない。仮に上手く化けていても、必ず誰かが違和感に気づく。それほど王子の仕事というものは、他人との接触が多いものだ」
やはり否定してくるか。
でもこればっかりは譲れない。信じてもらうしかないのだ。
「お願い、信じて。本当のことなの」
私をジッとみて無言のまま考え込むラッセルに、やはりハルと同じで、信じてもらえないかもしれないという、諦め感が胸の中に広がる。
「君の言うことだ。基本的に信じたいのだが。実は、王都に戻ってから何度か王にお会いしただけで、すぐにこちらに来てしまった。私はまだアンドリュー様にお会いしていないから、何とも言えない」
「みんなには本物の王太子にしか見えないの。ハルに言っても信じてもらえないし。ホント誰に相談したらいいのか……」
「ふむ、それではルシーンに戻った時に、実際にアンドリュー様をみて判断してみるか」
完全に受け入れてもらえなかった不満は残るが、頭から否定されなかっただけよしとしよう。
「ところで」
ラッセルが半目になりながら私を見つめる。今まで話していた人とは別人のように、全身からの圧を感じる。
ギョッとしてラッセルとの距離を開けようとするが、ガッシリと手を掴まれて身動きできない。
「ヒィィ……」
「ひとつ質問だ。何で君とエンリィの王が繋がる?」
「え? アイツがシンだよ、八卦一族の。エンリィの王を名乗っているけど、アイツもまたエンリィを乗っ取っているんだと思う。これはハルも確認してるから確かよ? 私、晩餐の時に問い詰めようと思うの。ハルも同席するだろうから、ヤツも逃げられないわ。みててね」
なぜラッセルほどの人物がシンとエンリィの関係に結びつかないのか不思議に思ったが、これから真相を暴いてやる、という意気込みが先行して、当然のように話しをした。
しかし、この時点でラッセルからの圧をマルッと無視できてるあたり、彼の黒い部分すらも自分に馴染んできてるのかもしれない。というよりは、完全スルーすることによって、ネチネチ嫌味攻撃を回避しようとする考えにたどり着いたとも言えよう。
自分より頭のいいヤツには『勢いで乗り切る』
心の中でガッツポーズを取りながら、少しだけ視線を彼から外した。
「シンということはサソリ使いか。君の唇を奪ったヤツだな。前回私は対峙してないからな。今度会ったら殺すと言ったが……王となればガードが厳しいか……さて、どうするか」
そこ? 今気にするとこそこなん? なんか違うくない?
アゴに片手をかけてブツブツと呟く様子に、呆気にとられながら、しばしの間固まった。
次の瞬間、なんだか納得いかない気分になって、口先がへの字に変わる。
今はエンリィの王がシンと同一人物だってとこが重要なんでしょうがっ。ビミョーに論点ズレてるしっ。
一気に突っ込む気力もなくなって、ソファの肘掛に肘をついて、ジト目でラッセルを見やる。
ちょうどその時、コンコン、とノックの音が聞こえ、扉の方へと視線を移動させた。
「サーラ? そろそろ時間なんだけど?」
聞こえてきたのはハルの声。そういえば、ラッセルとハルが交代していたのを忘れていた。
「ああ、ごめんね。大丈夫よ」
返事とともにひょっこりと顔をだして部屋に入ってきた。
「サーラ、これからの晩餐でお前のことを掛けあってみるよ。相手があのサソリ野郎だから、交換条件もかなりいやらしいものになると思うけど……当たって砕けろだ」
「ハル……砕けるのはちょっと……痛っ!」
言った瞬間、頭をパコンと叩かれ、顔をしかめてハルを見る。
「そこ違うだろ。頑張ってねってーのが普通だから。ねえ、義兄上?」
「あ? あに? 誰それ?」
たしなめるように言われ、ムッとしながら反論をする。
「あのね。信じられないと思うんだけど、あの王太子、アンドリューはニセモノなの。アイツは八卦一族の『ダー』よ。自分が認めていたからホントのこと」
「まさか。王子に成り代るなどできるはずがない。仮に上手く化けていても、必ず誰かが違和感に気づく。それほど王子の仕事というものは、他人との接触が多いものだ」
やはり否定してくるか。
でもこればっかりは譲れない。信じてもらうしかないのだ。
「お願い、信じて。本当のことなの」
私をジッとみて無言のまま考え込むラッセルに、やはりハルと同じで、信じてもらえないかもしれないという、諦め感が胸の中に広がる。
「君の言うことだ。基本的に信じたいのだが。実は、王都に戻ってから何度か王にお会いしただけで、すぐにこちらに来てしまった。私はまだアンドリュー様にお会いしていないから、何とも言えない」
「みんなには本物の王太子にしか見えないの。ハルに言っても信じてもらえないし。ホント誰に相談したらいいのか……」
「ふむ、それではルシーンに戻った時に、実際にアンドリュー様をみて判断してみるか」
完全に受け入れてもらえなかった不満は残るが、頭から否定されなかっただけよしとしよう。
「ところで」
ラッセルが半目になりながら私を見つめる。今まで話していた人とは別人のように、全身からの圧を感じる。
ギョッとしてラッセルとの距離を開けようとするが、ガッシリと手を掴まれて身動きできない。
「ヒィィ……」
「ひとつ質問だ。何で君とエンリィの王が繋がる?」
「え? アイツがシンだよ、八卦一族の。エンリィの王を名乗っているけど、アイツもまたエンリィを乗っ取っているんだと思う。これはハルも確認してるから確かよ? 私、晩餐の時に問い詰めようと思うの。ハルも同席するだろうから、ヤツも逃げられないわ。みててね」
なぜラッセルほどの人物がシンとエンリィの関係に結びつかないのか不思議に思ったが、これから真相を暴いてやる、という意気込みが先行して、当然のように話しをした。
しかし、この時点でラッセルからの圧をマルッと無視できてるあたり、彼の黒い部分すらも自分に馴染んできてるのかもしれない。というよりは、完全スルーすることによって、ネチネチ嫌味攻撃を回避しようとする考えにたどり着いたとも言えよう。
自分より頭のいいヤツには『勢いで乗り切る』
心の中でガッツポーズを取りながら、少しだけ視線を彼から外した。
「シンということはサソリ使いか。君の唇を奪ったヤツだな。前回私は対峙してないからな。今度会ったら殺すと言ったが……王となればガードが厳しいか……さて、どうするか」
そこ? 今気にするとこそこなん? なんか違うくない?
アゴに片手をかけてブツブツと呟く様子に、呆気にとられながら、しばしの間固まった。
次の瞬間、なんだか納得いかない気分になって、口先がへの字に変わる。
今はエンリィの王がシンと同一人物だってとこが重要なんでしょうがっ。ビミョーに論点ズレてるしっ。
一気に突っ込む気力もなくなって、ソファの肘掛に肘をついて、ジト目でラッセルを見やる。
ちょうどその時、コンコン、とノックの音が聞こえ、扉の方へと視線を移動させた。
「サーラ? そろそろ時間なんだけど?」
聞こえてきたのはハルの声。そういえば、ラッセルとハルが交代していたのを忘れていた。
「ああ、ごめんね。大丈夫よ」
返事とともにひょっこりと顔をだして部屋に入ってきた。
「サーラ、これからの晩餐でお前のことを掛けあってみるよ。相手があのサソリ野郎だから、交換条件もかなりいやらしいものになると思うけど……当たって砕けろだ」
「ハル……砕けるのはちょっと……痛っ!」
言った瞬間、頭をパコンと叩かれ、顔をしかめてハルを見る。
「そこ違うだろ。頑張ってねってーのが普通だから。ねえ、義兄上?」
「あ? あに? 誰それ?」
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