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王宮編
82の2.無理むりっ!
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普通、侍女が出向いて掃除をする部屋は、二人一組が鉄則になっている。ラッセルの部屋も例外ではなかったはず……なのに何で?
顔中にハテナのマークを飛び散らせ、つい疑問を口にする。
「あ、リーダー、すみません。お部屋にはいつも二人で伺っていたはずです。今回私が一人というのは、なぜですか?」
私の質問を受けて、リーダーがニッコリと余裕の笑みで答えてくれる。
「昨日のカシアス殿下のお部屋の働きぶりからです。お二人とも殿下からの推薦状があります。マリアさんは内務大臣のお部屋、サーシャさんにはユーグレイ公のお部屋にと。二人とも迅速で丁寧な働きから、専属侍女になるまでは、お一人でも充分能力を発揮できるとの口添えをいただいておりますよ?」
リーダーも優秀な人材を育てたという実績が評価され、出世のチャンスを得た、といってかなり満足されてる様子だ。
リーダーや周りの子たちの反応とは正反対に、私の心は昨日以上にザワついていた。
くっそお、ハルめえっ! 私がミリィちゃんとの仲を冷やかし半分で見ていた仕返しだな。別にただ見ていただけだし、誰かに言いふらすとか、それをネタに脅すとか、思ってなんかないのに。
まあちょっとは使ったよ? 侍女の仕事を続けるためには黙殺してもらわなきゃマズいじゃん。でもたったそれだけのためじゃないのさ。
なのにこの仕打ちかいなっ!
なんだよ、ラッセルの部屋に、しかも一人で行くだってえ? こんな無理ゲーみたいなセッティング、なんで考えつくのさ。
やっぱムリだ。どうしてもあと一人、隠れ蓑と一緒にいるべき。どうしようもないので、苦し紛れにゴホゴホと咳き込んで、わざとらしい演技をしてみた。
「リ、リーダー、すみません。なんだか昨夜から体が本調子でないので、相応の働きをすることが難しいのです。ゴホゴホ……ど、どなたかにサポートに入ってもらいたいのですが……」
「あらまあ、困ったわね。じゃああと一人、考えておくわ」
あらら、アッサリ引っかかってくれちゃったし。なんかチョロいよ、このリーダーさんてば。でも、隠れ蓑役を準備してくれるならラッキー。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「失礼します。本日の掃除を担当致しますカナンと……」
「し、新人のサーシャです」
結局ラッセルの部屋に来たもう一人の侍女は、リーダー自身だった。
ちょっとだけ期待で顔が火照っているのは、彼女も独身貴族の目に留まりたい、という欲求が現れたためらしい。
アイツもなんだかんだでフリーの独身貴族だ。そりゃあ人気も出るだろうよ。おモテになりますこと? フンだっ。
リーダーさん、思いっきりラッセルに自分をアピってくださいな。その分だけ私の存在が薄れるってことだからね。
少し面白くないけど、隠れ蓑役の本領は発揮してくれなきゃ意味がないもんね。ごちゃごちゃと考えていたら、リーダーから急に覇気が無くなっていくのを感じた。
「リ、リーダー? どうしました? 何かありましたか?」
小声で、恐る恐る聞いてみた。
「何かじゃなくて、肝心の部屋主であるユーグレイ公がいないのよ。残念だわ、期待してたのにっ」
え? ラッセル、居ないんだ。やったあ。
そう言えは、控え室で噂になってたじゃん。そもそも人が居ないから部屋も汚れないしとかって。
残念がるリーダーを尻目に、私のテンションは軽く上向きになった。
「いいじゃないですか。早く仕上げて早めに戻ったっていいってことですよねっ。頑張りましょっ」
こんな危険な場所には長く留まらない方がベストだ。『三十六計逃げるに如かず』ということわざもある。さっさと仕事を済ませて逃げるが勝ちだわ。
不満そうなリーダーの背中を押して、黙々と作業を始めた。
掃除の目処もついてきた頃、あと少しで終わるだろうと一旦手を止めて、辺りを見回した時だった。
カチャリ……奥の扉が開いて、いつもは掃除の時間には居るはずがないラッセルが、なぜかそこから出てきた。
「ふげっ……」
口から変な声が漏れて、慌てて手で抑えた。
油断してた。居ないと思ってリラックスし過ぎてたわ。見つからないように下を向いて気配を消さないと。緊張のあまり、心臓がバクバクと音を立て、呼吸が荒くなるのがわかった。
今こそ忍者の極意を発揮しなければ!
顔中にハテナのマークを飛び散らせ、つい疑問を口にする。
「あ、リーダー、すみません。お部屋にはいつも二人で伺っていたはずです。今回私が一人というのは、なぜですか?」
私の質問を受けて、リーダーがニッコリと余裕の笑みで答えてくれる。
「昨日のカシアス殿下のお部屋の働きぶりからです。お二人とも殿下からの推薦状があります。マリアさんは内務大臣のお部屋、サーシャさんにはユーグレイ公のお部屋にと。二人とも迅速で丁寧な働きから、専属侍女になるまでは、お一人でも充分能力を発揮できるとの口添えをいただいておりますよ?」
リーダーも優秀な人材を育てたという実績が評価され、出世のチャンスを得た、といってかなり満足されてる様子だ。
リーダーや周りの子たちの反応とは正反対に、私の心は昨日以上にザワついていた。
くっそお、ハルめえっ! 私がミリィちゃんとの仲を冷やかし半分で見ていた仕返しだな。別にただ見ていただけだし、誰かに言いふらすとか、それをネタに脅すとか、思ってなんかないのに。
まあちょっとは使ったよ? 侍女の仕事を続けるためには黙殺してもらわなきゃマズいじゃん。でもたったそれだけのためじゃないのさ。
なのにこの仕打ちかいなっ!
なんだよ、ラッセルの部屋に、しかも一人で行くだってえ? こんな無理ゲーみたいなセッティング、なんで考えつくのさ。
やっぱムリだ。どうしてもあと一人、隠れ蓑と一緒にいるべき。どうしようもないので、苦し紛れにゴホゴホと咳き込んで、わざとらしい演技をしてみた。
「リ、リーダー、すみません。なんだか昨夜から体が本調子でないので、相応の働きをすることが難しいのです。ゴホゴホ……ど、どなたかにサポートに入ってもらいたいのですが……」
「あらまあ、困ったわね。じゃああと一人、考えておくわ」
あらら、アッサリ引っかかってくれちゃったし。なんかチョロいよ、このリーダーさんてば。でも、隠れ蓑役を準備してくれるならラッキー。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「失礼します。本日の掃除を担当致しますカナンと……」
「し、新人のサーシャです」
結局ラッセルの部屋に来たもう一人の侍女は、リーダー自身だった。
ちょっとだけ期待で顔が火照っているのは、彼女も独身貴族の目に留まりたい、という欲求が現れたためらしい。
アイツもなんだかんだでフリーの独身貴族だ。そりゃあ人気も出るだろうよ。おモテになりますこと? フンだっ。
リーダーさん、思いっきりラッセルに自分をアピってくださいな。その分だけ私の存在が薄れるってことだからね。
少し面白くないけど、隠れ蓑役の本領は発揮してくれなきゃ意味がないもんね。ごちゃごちゃと考えていたら、リーダーから急に覇気が無くなっていくのを感じた。
「リ、リーダー? どうしました? 何かありましたか?」
小声で、恐る恐る聞いてみた。
「何かじゃなくて、肝心の部屋主であるユーグレイ公がいないのよ。残念だわ、期待してたのにっ」
え? ラッセル、居ないんだ。やったあ。
そう言えは、控え室で噂になってたじゃん。そもそも人が居ないから部屋も汚れないしとかって。
残念がるリーダーを尻目に、私のテンションは軽く上向きになった。
「いいじゃないですか。早く仕上げて早めに戻ったっていいってことですよねっ。頑張りましょっ」
こんな危険な場所には長く留まらない方がベストだ。『三十六計逃げるに如かず』ということわざもある。さっさと仕事を済ませて逃げるが勝ちだわ。
不満そうなリーダーの背中を押して、黙々と作業を始めた。
掃除の目処もついてきた頃、あと少しで終わるだろうと一旦手を止めて、辺りを見回した時だった。
カチャリ……奥の扉が開いて、いつもは掃除の時間には居るはずがないラッセルが、なぜかそこから出てきた。
「ふげっ……」
口から変な声が漏れて、慌てて手で抑えた。
油断してた。居ないと思ってリラックスし過ぎてたわ。見つからないように下を向いて気配を消さないと。緊張のあまり、心臓がバクバクと音を立て、呼吸が荒くなるのがわかった。
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