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魔術師団編
28の2.怖っ!
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ほんの一、二分だったろうか、そのまま時間が経ち、おもむろに魔法陣を作り出すと、コークス先生とルディに部屋に来るよう、その陣に話しかけた。
少しの時間が過ぎて二人がやってくると、私がベッドの中に居るのをチラリと眺めつつ、口元を緩めながらラッセルの方に体を向けた。
三人がソファに座り、ラッセルが先ほどの話しを説明する。
和やかな雰囲気が、途端に殺伐とした雰囲気に変わり、三人が三人とも眉間に皺を寄せて、意見を交わし始める。
その中で、耳が拾った言葉に自分でも軽いショックを受けてしまった。
「……なのだ。しかも、私が部屋を出る時、これはネコだった」
「つまり、彼女が目覚めた時、長の魔術が破られていた、ということですか?」
コークス先生の問いにラッセルが無言のまま頷く。ルディと先生は揃って私を見ながらゴクリと唾を飲み込んだ。
それに、とラッセルがさらに話しながら、窓辺を指してこう言った。
「あれを見てみろ。石が割れてる」
「なんとっ!」「あり得ねぇっ!」
先生とルディが同時に、信じられない、という動作で窓に近づきながら言葉を口に出す。
「これって団長の魔術の塊みたいなモンですよね。この部屋の護りを固めるための魔石が……これが割れるってことは、向こうの魔術がこちらの結界を破ってきたってことですか?」
「わからん、ただ月宮沙羅が自分の目を通して向こうの魔術師とリンクしたことで、こちらの結界になんらかの影響力を及ぼしていたのは確かだな」
ルディの質問にラッセルが今わかる範囲内での答えを返す。
「早急に私が会議場に出向いて、幹部を招集した話し合いをしなければならないと思ったのだが、この部屋ではこれの護りに不安があってな。とり急ぎ君たち二人を部屋に呼んだのだ」
「ちょおっとおー、何よ『これ』呼ばわりしないでよっ」
声を聞いたラッセルが、少し面白げに口の端を持ち上げて私に話しかける。
「やっと元気になったな。動けるか? 少し移動する。周りがうるさいから君にはネコななっててもらうが」
「別にどっちでもいいよ。今はアンタが側に居てくれる方が有難いわ。もうあの女に会わないって保証があるなら」
半分投げやりな、脱力した言い方で答えたのに、それに対する返しがない。
ひと言「大丈夫だ」という言葉があるだけで、こっちは安心するのに、その返事がないということは、今現在、私の身の安全は確保されている訳ではない、ということなのだ。
「君が見た夢は、たぶん予知夢だ。コークスもルーデウスもまだ赤い魔女には遭っていないし、今から対策をとれば窮地に陥ることはないだろう」
この言葉を聞いて、二人が少しは危険を回避することができるだろうと、胸を撫で下ろすことができた。
私も誰かの役に立てたかも、という嬉しさで、思わず笑顔になった。
「ただし、その能力を、向こうの魔術師が逆利用してくる可能性も考えられる。我々は、あらゆる可能性を考慮して、君を守らなければならない。敵国に利用される訳にはいかないからな」
「でもさ、一回見ただけじゃん。あの人にはもう会うこともないだろうし、会いたくないもん。夢だって見ないよ、ただの偶然だって」
そこまでおおごとにしないで欲しい。不安しかなくなるじゃない……
愛想笑いをしながら、この場の雰囲気を軽くしようとするが、ルディですら同調してくれない。
「一度だけの偶然ならいいが。君は生まれから生活まで普通と違うからな。この能力が開花しないことを祈ろう。そうでなければ、この国にどう影響を及ぼすか判断しかねる」
軽くショックを受けている自分がいた。
ラッセルにそんな風に思われていたなんて。
なんでよ、私ってまるで厄介者?
考えてみれば、私は彼を利用して日本に帰ることにしてたんだ。彼が私を利用するのだって理由はあるし、自国を守るのは彼の立場としては当然だ。
ここに住まわせてもらうのだってラッセルの好意だし、彼が私を利用するべく、どんな行動をしようと私が意見することではない。
なのに何でだろう、このガッカリしたようなモヤモヤ感は。
自分の気持ちがわからな過ぎて、余計にイライラする。
「お願い、早くネコにしてっ」
人間の姿だと涙が滲みそうになるのを必死で堪える。今はラッセルの顔をまともに見返す自信がなかった。
少しの時間が過ぎて二人がやってくると、私がベッドの中に居るのをチラリと眺めつつ、口元を緩めながらラッセルの方に体を向けた。
三人がソファに座り、ラッセルが先ほどの話しを説明する。
和やかな雰囲気が、途端に殺伐とした雰囲気に変わり、三人が三人とも眉間に皺を寄せて、意見を交わし始める。
その中で、耳が拾った言葉に自分でも軽いショックを受けてしまった。
「……なのだ。しかも、私が部屋を出る時、これはネコだった」
「つまり、彼女が目覚めた時、長の魔術が破られていた、ということですか?」
コークス先生の問いにラッセルが無言のまま頷く。ルディと先生は揃って私を見ながらゴクリと唾を飲み込んだ。
それに、とラッセルがさらに話しながら、窓辺を指してこう言った。
「あれを見てみろ。石が割れてる」
「なんとっ!」「あり得ねぇっ!」
先生とルディが同時に、信じられない、という動作で窓に近づきながら言葉を口に出す。
「これって団長の魔術の塊みたいなモンですよね。この部屋の護りを固めるための魔石が……これが割れるってことは、向こうの魔術がこちらの結界を破ってきたってことですか?」
「わからん、ただ月宮沙羅が自分の目を通して向こうの魔術師とリンクしたことで、こちらの結界になんらかの影響力を及ぼしていたのは確かだな」
ルディの質問にラッセルが今わかる範囲内での答えを返す。
「早急に私が会議場に出向いて、幹部を招集した話し合いをしなければならないと思ったのだが、この部屋ではこれの護りに不安があってな。とり急ぎ君たち二人を部屋に呼んだのだ」
「ちょおっとおー、何よ『これ』呼ばわりしないでよっ」
声を聞いたラッセルが、少し面白げに口の端を持ち上げて私に話しかける。
「やっと元気になったな。動けるか? 少し移動する。周りがうるさいから君にはネコななっててもらうが」
「別にどっちでもいいよ。今はアンタが側に居てくれる方が有難いわ。もうあの女に会わないって保証があるなら」
半分投げやりな、脱力した言い方で答えたのに、それに対する返しがない。
ひと言「大丈夫だ」という言葉があるだけで、こっちは安心するのに、その返事がないということは、今現在、私の身の安全は確保されている訳ではない、ということなのだ。
「君が見た夢は、たぶん予知夢だ。コークスもルーデウスもまだ赤い魔女には遭っていないし、今から対策をとれば窮地に陥ることはないだろう」
この言葉を聞いて、二人が少しは危険を回避することができるだろうと、胸を撫で下ろすことができた。
私も誰かの役に立てたかも、という嬉しさで、思わず笑顔になった。
「ただし、その能力を、向こうの魔術師が逆利用してくる可能性も考えられる。我々は、あらゆる可能性を考慮して、君を守らなければならない。敵国に利用される訳にはいかないからな」
「でもさ、一回見ただけじゃん。あの人にはもう会うこともないだろうし、会いたくないもん。夢だって見ないよ、ただの偶然だって」
そこまでおおごとにしないで欲しい。不安しかなくなるじゃない……
愛想笑いをしながら、この場の雰囲気を軽くしようとするが、ルディですら同調してくれない。
「一度だけの偶然ならいいが。君は生まれから生活まで普通と違うからな。この能力が開花しないことを祈ろう。そうでなければ、この国にどう影響を及ぼすか判断しかねる」
軽くショックを受けている自分がいた。
ラッセルにそんな風に思われていたなんて。
なんでよ、私ってまるで厄介者?
考えてみれば、私は彼を利用して日本に帰ることにしてたんだ。彼が私を利用するのだって理由はあるし、自国を守るのは彼の立場としては当然だ。
ここに住まわせてもらうのだってラッセルの好意だし、彼が私を利用するべく、どんな行動をしようと私が意見することではない。
なのに何でだろう、このガッカリしたようなモヤモヤ感は。
自分の気持ちがわからな過ぎて、余計にイライラする。
「お願い、早くネコにしてっ」
人間の姿だと涙が滲みそうになるのを必死で堪える。今はラッセルの顔をまともに見返す自信がなかった。
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