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第四章 そしてその音は鳴り続ける

これからも

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 「行ってきまーす」
 夏の大会から翌週の土曜日。俺は卓球道具の詰まった鞄を背負い、家を飛び出して学校へ向かって走っていた。
 もちろん学校に行くから服装は制服か体操服……なのだが今日はユニフォームを着ている。だって着替る時間ってもったいないだろ?
 「……そっか。もうあの大会から約一週間か」
 思えばあの大会は自分を大きく変えてくれたとても大切な大会だったと思う。
 あの後、俺は16-14で第五セットを勝ち、3-2で西本に勝つことが出来た。勝利を決めた時、近藤含め全部員が突然俺のところに一斉に集まってきた。抱き着いてきたり、肩と背中を叩かれたりと色々されたが、それをされたからこそ「俺は、勝てたんだな」と実感することが出来た。
 西本はやはり悔しそうにしていて、仲間と励ましあったりしていた。しかし表彰式の準備に移ろうとして移動をするときに西本は俺の方に近づいてきて。
 「ありがとう。久しぶりにいい試合が出来た」
 と、そう言って手を差し出してきた。
 「ああ。俺もお前との試合、すっごい楽しかった」
 俺はそう言ってから彼の手を取り、熱い握手が交わされた。
 表彰式が終わった後。
 「みんなー!優勝おめでとーう!」
 宮本先生が涙を流しながら笑顔で俺たちの勝利を称えてくれた。そして俺たちも一列に並んでから、
 「「宮本先生!本当にありがとうございました!」」
 みんなで一斉にそう言ってから頭を下げ、先生に感謝の言葉を言った。
 「……よーし!先生今日はみんなのために、焼き肉奢っちゃいます!」
 その後は先生の突然の提案に俺たちは大歓喜。そのまま先生の行きつけの焼き肉店に足を運び、腹が膨れるまでたらふく肉を食べた。
 「……まさか先生が焼き肉好きだとは思わなかったな」
 俺は通学路を走りながら思わず思い出し笑いをしてしまう。あの時先生は俺たちが食べたほとんどの肉を焼いてくれたのだが、その焼き加減といい選ぶメニューといい。先生の焼肉好きな一面を見ることができたのだ。あ、やばい。笑ったりすればどこから先生が出てくるかも……。
 そういえば近藤との契約だがーーーーーー。
 「おーいはらー!」
 と、ちょうどいいところに近藤が走って俺に合流してきた。
 「おはよう近藤。今日は調子よさそうだな」
 「ああ。コンディションは完璧だ。きっと最高の試合ができる」
 「それはよかった」
 そして俺たちは走り続けていくうちに学校前の最後の信号につかまり、その場に立ち止まる。そのタイミングで近藤は俺に話しかけてきた。
 「原……本当に続けてくれてありがとう」
 「気にすんな。俺だってお前に感謝してるんだ。ありがとうな」
 「ああ……」
 そう。俺は夏の大会が終わって以降も卓球を続けることになった。
 理由は単純。卓球が好きになったからだ。それ以上でもそれ以下でもない。あ、ちゃんと褒美であるゲーム機は買ったからそこは安心してくれ。
 「……卓球もしたいけどやっぱりゲームもしたいな~」
 「いやでも練習試合が終わればみんなとゲームする約束があるだろう?」
 「分かってるよ」
 ちょうど会話がひと段落ついたときに信号が青に切り替わった。
 俺たちは再び走り出し、正門を勢いよく潜り抜ける。そのまま下足室に行き、廊下を駆け抜けて部室棟へ行った。
 荷物を置いて、ラケットなど必要なものだけを持ってから俺たちは体育館に向かう。
 そう。今日は練習試合の日。その対戦校はーーーーーー。
 「よう。遅かったな」
 西本が所属している学校だ。
 夏の大会以降。俺たちの学校と友好的な関係になり、今日の練習試合も向こうからの提案で行うことになったのだ。
 「もうこっちは全員そろっているが、お前たちはまだみたいだな」
 「いや、お前たちが早いだけだろ」
 集合時間まであと30分はある。いまから台を出して準備という段階で普通くるか? 
 そんな疑問を抱きながら早速卓球台を準備しようとする。
 「「おはようごさいます!」」「っスー!」
 そんな時、タイミングを見計らったかのように宮崎、木村、清水、西村先輩、宮本先生が一斉に体育館に入ってきた。先生以外はもちろんユニフォームだ。
 「よし!それじゃあみんな!対戦相手の皆様が退屈で帰る前に、さっさと準備するぞ!」
 「「はい!」」
 近藤の号令を受け、各部員は準備に取り掛かった。
 「今日はわざわざお越しいただいてありがとうごさいます!今日はよろしくお願いします」
 「こちらこそ。今日の練習試合、互いに有意義な時間にしましょう」
 どうやら宮本先生は相手校の顧問の先生に挨拶をしてるみたいだ。こうして見るとお似合いなんじゃ……?
 しばらくして準備を終えた俺たちは一列になって今日の挨拶をした。
 そして早速個人戦を順繰りに回していく練習を開始した。俺の最初の相手はーーーーーー。
 「お、さっそくお前か。お前とは早く試合したかったんだよ」
 西本から話しかけられ、俺は最初は西本との試合だと知った。
 「奇遇だな。俺もだ。もしかすると意外と気があるかもしれないな」
 「だな。さっさと始めようぜ」
 「ああ。そうするか」
 そうして俺たちはラケット交換、じゃんけんを済ました。ちなみに今回のサーブは俺からだ。
 ということで台の上に置かれた紙コップの中のボールを取って、空の紙コップを卓球台の下に置く。
 「さあこい!原結斗!」
 挑発的な笑みを浮かべながら西本はサーブの構えをとる。
 その時、俺の中に一つの感覚が現れた。  
 (ああ。この感覚だ)
 卓球をやろうとすると出てくるこのわくわく感。何が起きるかわからないドキドキ感。試合が終わるころにはきっとどっちに転んでもすがすがしい気持ちが残っているのだろう。そう考えると楽しみになってくる。
 俺はこれからきっと、卓球をやめることはないと思う。試合を通じてできる仲間の輪。深まる友情。練習の成果を惜しみなく発揮できた時のやり切った感。一人だけど孤独じゃない安心感。そして相手と高めあっていく高揚感。これらをもっと味わいたい。
 未来がどうなるかはわからない。けど少なくとも、この感情が俺の中に在り続ける限りは卓球を続けいくことだろう。
 「ああ。勝負だ!西本伊吹!」
 俺は西本への挑戦状を叩きつけたと同時に手のひらに乗せた球を天高く上げ、渾身のサーブを放った。


「完」
 
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