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第二章 初陣

閉幕

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 「ありがとうございました」
 「あ、ありがとう、ございました」
 試合が終わり、挨拶をした俺は何も考えられないままラケットを片づけていた。
 「ちょっといいか」
 その最中西本から俺に声をかけてきた。
 「……なんですか」
 まさか今のはいい試合でした、とでも言うつもりじゃないだろうな。
 「今の卓球……馬鹿にしていたのか?」
 「………は?」
 どういうことだ?俺はいつも通りやっていただけなのに。
 「お前と試合をしている時、お前からは何も感じなかった。試合に対する思い、熱意がない。勝てないと判断したとたんにすべてを諦めたようなプレーをする」
 「いや、あんなの見せられたら戦意喪失するでしょ」
 確かに俺は途中勝てないと判断し、半ば勝負を棄てていたと思う。しかし、俺の場合今に始まったことではない。無理だと思えば何でも見切りをつけ、捨ててきた。その結果が今だ。何も間違ったことはしていない。そのはずだ。
 しかし、西本は俺のそんな信念を否定する。
 「……技術だけ見ればお前には才能がある。去年の大会でも見たことがないからお前は一年か?」
 「いや、二年生ですけど……」
 「なっ!?………そうか。だとしたらそれは凄い。しかし、お前はこれ以上強くなれない。戦況を見極める能力、一つ一つのレベルの高い技術がありながらお前には”心”がない」
 「心?」
 「ああ。言っておくぞ。お前は卓球をやめるべきだ。いや、そもそもスポーツに向いていない」
 「っ!?」
 そう西本に言われたあと、彼は自分の荷物を取りに行きこの場を去った。
 俺はまた、何も考えられなくなっていた。
 
 そして大会の閉幕式が終わり俺たちは会場施設前に集まっていた。
 「いや~悔しいっすね~」
 「宮崎君いつもどうりすぐ負けたね」
 「木村もな~」
 宮崎と木村は一回戦負け。正直意外だ。
 「僕も頑張ったほうなんだけどね」
 西村先輩は俺と同じ三回戦負け。競り合いの末2-3とギリギリのところで負けてしまったらしい。
 「それでもみんな頑張ったと思うよ。それと、清水君ベスト8、近藤君3位おめでとう」
 宮本先生が笑顔でそう言うと清水は少し照れた様子で、近藤はどや顔で俺たちの拍手を受けた。

 「原君も、初参加で三回戦まで行くなんて凄いことだよ!ちょっと見直しちゃったよ~」
 「あ、ああ。もっと褒めてくれてもいいんですよ」
 「これ以上褒めると堕落していくのが目に見えているからダメ」
 「チィッ。これで今まで通り授業中に寝れると思ってたのに」
 「聞こえてるよ原君」
 「もちろん嘘に決まってるじゃないですか!あはは……」
 「……?」
 ……どうやら、俺は思った以上にショックだったらしい。
 完膚なきまでに叩き潰され、さらに今までの俺の尊厳を全否定され……もはや笑うことさえもできなくなってしまっていた。
 「とにかく、みんなお疲れ様でした!明日、学校は休みですからゆっくり休んでくださいね。じゃあ今日は解散!気を付けて帰ってね!」 
 こうして怒涛の一日が終演を迎えたのだった。
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