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愛猫日記
彼のリベンジ、彼のヤキモチ①
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「遊園地?」
孝一は、彼の生活圏ではあまり耳にしたことのない単語に、眉をひそめた。
先にベッドに入っていた彼の隣に潜り込んで来た真白が、ためらいがちに「日曜日に遊園地に行ってもいいか」と訊いてきたのだ。
「日曜日って、今週の?」
孝一のおうむ返しにコクリと頷いた真白が補足する。
「そう。バイト先の子たちで行くの。五人か六人くらい」
「明後日じゃないか」
「ごめん」
真白が目を逸らす。
先週くらいから何となく彼女がそわそわしていたのは、孝一も気付いていた。何か言いたいことがあるんだろうな、と思いつつ、真白の方から切り出すのを待っていたのだが――これか。
遊園地に行くのは別に構わない。いくらでも行けばいい。だが、バイト先と聞いて真っ先に孝一の頭の中に浮かぶのは、あの男だ。五十嵐《いがらし》とかいう名前の、真白に気がある男。
奴に抱きすくめられて怯えていた真白の姿は、まだ記憶に新しい。
「……いい?」
渋い顔になった孝一に、真白がおずおずと訊いてくる。
人の心の機微やら人間関係を読み解くやらが得意ではない真白も、その時孝一が何を考え、何故嫌そうな顔になったのかは判ったらしい。
成長したもんだ、と内心で呟きながら、孝一は表情を整えた。
「別にいいさ。楽しんで来いよ」
軽い口調で彼がそう答えると、目に見えて真白がホッとした顔になる。
笑顔まで作ってみせたが、実際のところは、他に誰が一緒なのか訊きたいし男が一人でも入っているなら行くなと言いたい。
自分の狭量さを、嗤えばいいのか、呆れればいいのか。
こんな男じゃなかった筈なのに。
ほんの一年ばかり前の孝一は、もっと、冷静で余裕があって淡白だった。身体をつなげた相手が他に誰と何をしようと、全く気になることはなかったのだ。
(まあ、そういう自分に戻る気はないし戻りたくもないがな)
今の自分を肯定するが、それにしても、情けないとは思う。心の底から。
無意識に自嘲の嗤いが漏れる。それに気付いた真白が、不思議そうに見つめてきた。
「何?」
「何でもないよ」
そう答え、真白を引き寄せると、孝一は束の間考えてから彼女の首筋の脈打つところに口付けた。そして、強く、吸う。三日どころか、一週間はその痕が消えないようにする為に。
「あ、イタッ」
小さく声を上げて反射的に身を引こうとした彼女の背中に手を回し、逃げられなくする。
吸って、ほんの少し歯を立て、また別の場所へ。
「や、あ、コウ」
孝一の唇が動き、真白の肌に触れるたびに、彼女の全身がビクリと跳ねる。そんな敏感な彼女が、彼のすることに敏感に反応してくれる彼女が、とてつもなく愛おしい。
(まさに、食べてしまいたい、ってやつだな)
真白に触れているといつも孝一の胸の奥から込み上げてくる、噛み付きたいような、力の限りに抱き締めたいような、衝動。
けれど、それ以上に慈しんで守って大事にしてやりたくて堪らない。
憑かれたように幾度も柔肌へのキスを繰り返し、ようやく赦してやる気になった孝一が顔を上げると、彼が触れた回数の分だけ、真っ白な肌にくっきりと赤い印が浮かんでいた。少し痛々しくて、彼はそっと労わるようにそこを舌でなぞる。
「ん、んッ」
今度は痛みではない何かに身体を震わせる真白を、孝一はしっかりと抱き締めた。
「も、う……何なの……?」
頬を染めて微かに息を弾ませた彼女が、咎めるように孝一を睨んでくる。
「虫除けだ」
ただ、こんなにたくさんつける気は無かったのだが。
孝一の返事に、真白は訳が解からなそうな顔をしている。しかし、今は解かっていなくても――
(明日鏡を見たら、きっと怒るだろうな)
鏡を見て、胸元に散った紅い花に気付き、愕然として、憤然と孝一に向かってくる。
その様子が、まざまざと孝一の目に浮かんだ。
流石に少し後ろめたくなって、孝一は真白の頬を両手で包んで引き寄せ唇を重ねる。そっとついばみ、離れ、また触れる――最初はキュッと引き結ばれていた真白の唇も、次第に柔らかくほぐれてくる。
彼女をなだめる為に始めた筈のキスは、やがてその意図から外れ、熱のこもったものになっていった。
孝一は、彼の生活圏ではあまり耳にしたことのない単語に、眉をひそめた。
先にベッドに入っていた彼の隣に潜り込んで来た真白が、ためらいがちに「日曜日に遊園地に行ってもいいか」と訊いてきたのだ。
「日曜日って、今週の?」
孝一のおうむ返しにコクリと頷いた真白が補足する。
「そう。バイト先の子たちで行くの。五人か六人くらい」
「明後日じゃないか」
「ごめん」
真白が目を逸らす。
先週くらいから何となく彼女がそわそわしていたのは、孝一も気付いていた。何か言いたいことがあるんだろうな、と思いつつ、真白の方から切り出すのを待っていたのだが――これか。
遊園地に行くのは別に構わない。いくらでも行けばいい。だが、バイト先と聞いて真っ先に孝一の頭の中に浮かぶのは、あの男だ。五十嵐《いがらし》とかいう名前の、真白に気がある男。
奴に抱きすくめられて怯えていた真白の姿は、まだ記憶に新しい。
「……いい?」
渋い顔になった孝一に、真白がおずおずと訊いてくる。
人の心の機微やら人間関係を読み解くやらが得意ではない真白も、その時孝一が何を考え、何故嫌そうな顔になったのかは判ったらしい。
成長したもんだ、と内心で呟きながら、孝一は表情を整えた。
「別にいいさ。楽しんで来いよ」
軽い口調で彼がそう答えると、目に見えて真白がホッとした顔になる。
笑顔まで作ってみせたが、実際のところは、他に誰が一緒なのか訊きたいし男が一人でも入っているなら行くなと言いたい。
自分の狭量さを、嗤えばいいのか、呆れればいいのか。
こんな男じゃなかった筈なのに。
ほんの一年ばかり前の孝一は、もっと、冷静で余裕があって淡白だった。身体をつなげた相手が他に誰と何をしようと、全く気になることはなかったのだ。
(まあ、そういう自分に戻る気はないし戻りたくもないがな)
今の自分を肯定するが、それにしても、情けないとは思う。心の底から。
無意識に自嘲の嗤いが漏れる。それに気付いた真白が、不思議そうに見つめてきた。
「何?」
「何でもないよ」
そう答え、真白を引き寄せると、孝一は束の間考えてから彼女の首筋の脈打つところに口付けた。そして、強く、吸う。三日どころか、一週間はその痕が消えないようにする為に。
「あ、イタッ」
小さく声を上げて反射的に身を引こうとした彼女の背中に手を回し、逃げられなくする。
吸って、ほんの少し歯を立て、また別の場所へ。
「や、あ、コウ」
孝一の唇が動き、真白の肌に触れるたびに、彼女の全身がビクリと跳ねる。そんな敏感な彼女が、彼のすることに敏感に反応してくれる彼女が、とてつもなく愛おしい。
(まさに、食べてしまいたい、ってやつだな)
真白に触れているといつも孝一の胸の奥から込み上げてくる、噛み付きたいような、力の限りに抱き締めたいような、衝動。
けれど、それ以上に慈しんで守って大事にしてやりたくて堪らない。
憑かれたように幾度も柔肌へのキスを繰り返し、ようやく赦してやる気になった孝一が顔を上げると、彼が触れた回数の分だけ、真っ白な肌にくっきりと赤い印が浮かんでいた。少し痛々しくて、彼はそっと労わるようにそこを舌でなぞる。
「ん、んッ」
今度は痛みではない何かに身体を震わせる真白を、孝一はしっかりと抱き締めた。
「も、う……何なの……?」
頬を染めて微かに息を弾ませた彼女が、咎めるように孝一を睨んでくる。
「虫除けだ」
ただ、こんなにたくさんつける気は無かったのだが。
孝一の返事に、真白は訳が解からなそうな顔をしている。しかし、今は解かっていなくても――
(明日鏡を見たら、きっと怒るだろうな)
鏡を見て、胸元に散った紅い花に気付き、愕然として、憤然と孝一に向かってくる。
その様子が、まざまざと孝一の目に浮かんだ。
流石に少し後ろめたくなって、孝一は真白の頬を両手で包んで引き寄せ唇を重ねる。そっとついばみ、離れ、また触れる――最初はキュッと引き結ばれていた真白の唇も、次第に柔らかくほぐれてくる。
彼女をなだめる為に始めた筈のキスは、やがてその意図から外れ、熱のこもったものになっていった。
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