捨て猫を拾った日

愛猫日記

彼のオイタと彼女のシット⑤

　寝室に辿り着いた孝一こういちは、そっと真白ましろをベッド下ろした。際に腰掛けさせた彼女の背中に手を回し、ファスナーを下ろす。ワンピースは脱がせやすく、彼はあっという間に彼女の服を全て剥ぎ取った。キスを深めながら自分も服を脱ぎ、真白をベッドに押し倒す。
　深く挿し入れた舌におずおずと応えてくる真白のそれをもてあそびながら、手を滑らせて胸を包み込んだ。指の腹で緩く滑らかな頂をさするうち、じきにそこが硬く立ち上がってくる。

「ん、ん」

　はっきりと形を持ったそれを摘まみ、軽く捻ると、真白は喉の奥を小さく鳴らしてびくびくと身体を震わせる。
　その小さな突起のどこが一番敏感なのか、孝一は良く知っていた。羽根でくすぐるように、爪の先でそこを引っ掻くようにしてやる。

「ゃ、ぁ」
　か細い声と共に、真白がもどかしそうに腰をくねらせる。その動きで彼の昂ぶりが刺激され、ズキリと痛んだ。
「俺を煽ってるのか？」
　唇を触れ合わせたまま笑うと、真白の頬にパッと朱が散る。
「ちが……勝手に、動いちゃって……」
「――だから、そういうのが、煽ってるんだって……」
　呆れながら、真白の耳たぶをそっと噛んだ。
「ぁッ」

　のけぞって剥き出しになった彼女の首筋に、孝一は小刻みにキスを落としていく。本当はそこに跡を残してやりたいのだが、服で隠れない場所にそうするのは真白が嫌がるのだ。
（見えるからこそ、良いんだけどな）
　特に、油断ならない奴がいるバイト先では。
　孝一はそのまま頭を下げていって、やがて彼の手が触れていない方の胸に辿り着いた。その先端を唇で覆い、舌で円を描くように刺激する。

「や、ぁ、あ」
　真白が甘い吐息をこぼすごとに、孝一の舌は確かな手ごたえを感じるようになる。彼女の白い膨らみは前よりも豊かになっていて、ふっくらと柔らかそうだ。孝一は我慢できずにそこにそっと歯を立てる。
「ダメ、咬んじゃ……」
「痛いか？」
「――ぃたく、ない、けど……ッ」
　ごく薄らと残った歯の痕を消すようにその場所を強く吸うと、真白が小さく息を呑んだ。
「や、ぁ」
　熱を帯びてきた甘い声に、孝一の背にも痺れるような震えが走る。

　快楽に溺れてしまえば、貴利花きりかとの会話も忘れてくれるだろうか。
　そんな情けない考えがチラリと頭をよぎり、それを振り払うように孝一は小さく頭を振った。あれは、なかったことにはできない話なのだ。
「コウ？」
　動きを止めた孝一に、真白が首をかしげる。大きな目で見つめられて彼の胸がチクリと痛んだ。

　自分という人間は、彼女の無垢さに付け込んでいるのではないだろうか。
　だが、そう思ったからと言って今さら真白を手放せるわけもなく、ごまかすように微笑みを返すしかない。

「何でもない」
　答えて、彼は頭を下げる。
　真白の理性を失わせる方法を、孝一はよく知っていた。そうすれば、彼女はそれ以上疑問を抱くことはできなくなるのだ。
　孝一は、真白の左の胸は右手で、右の胸は唇で攻め立てる。弾力のある蕾を爪の先で弾き、さすり、甘噛みし、舌でこすり、強く吸い上げた。
　そのわずかな動きで真白の全身がわななき、喉が引きつるような声を漏らす。
　小さな両手が孝一の頭を包み、ギュッと髪を鷲掴みにした。チクリと頭皮に痛みが走る。強くし過ぎただろうかと少し顔を上げて真白の表情を確認しようとした彼を、トロンと蕩けた眼差しが見返してくる。
　その顔が可愛くて孝一が思わず小さな笑みを漏らすと、つられたように、真白もふにゃりと頬を緩ませた。

（ヤバ）
　孝一の身体がドクリと脈打った。よりいっそう強張ってきたのが見なくても判る。真白を求めてやまないそれが張り詰めて、ズキズキと痛んだ。
　孝一は身を乗り出して真白の唇を奪う。彼女の顔を見ているだけでも、果ててしまいそうだった。

　何度もキスを繰り返しながら、孝一は彼自身が彼女の肌を楽しむ為に、そして彼女の快感を掻き立てる為に、真白の身体中に手を滑らせる。左胸の下に手のひらを押し当てれば、トクトクと速まった鼓動が感じられた。

「んぁ、は、ふ……」
　真白が途切れ途切れに漏らす吐息が、孝一の頬を撫でる。
「苦しい？」
　少し唇を浮かせて、問う。
「や、だいじょう、ぶ」
　そう答えながらも、真白の息は切れていた。
　深いキスに真白が懸命について来ようとしているのが伝わってきて、孝一は少しペースを落とす。ついばむような柔らかな口づけに変えて、名残惜しさを表すように一度そっと胸の頂の蕾を弄んでから、手を下へと這わせた。

　ゆっくりと、時々くすぐるように指をさまよわせながら下げていく。
　やがて孝一は柔らかな茂みへと辿り着いた。
　ふわふわとした綿毛のような感触を楽しみつつ、更にその奥へと進む。
　探り当てた場所は、彼を待ち焦がれていたようだった。

「は、ぅ」
　手のひらで包み込んでそっと揺らすと、真白が大きく息を呑んだ。
　孝一は、ツプリと、彼女の中へと指先を沈める。
　その瞬間、まるで堰を切ったかのように温かな蜜が滴り落ちてくる。
　もう少し奥へと進んで、少しざらつくその部分を優しくこすった。ビクンと真白の腰が跳ね、彼の指を柔らかな温もりが圧迫する。

「や、ダメ、そこ――ッ」
「駄目？　本当に？　止めて欲しい？」
　耳朶を甘噛みしながら、孝一は答えが判りきっている問いを囁く。
　言葉よりも先に、キュッと彼の指が締め付けられた。
「いや、やめ、ないで……」
　震える声で言いながら、真白が腕を伸ばして孝一の背中にすがり付いてくる。
　孝一は、あと二本、腕が欲しいと思った。
　壊れんばかりにきつく真白を抱き締め返したくてならなかったが、そうしたら何もできなくなってしまう。

　真白を抱き締めて、慈しんで、奪って――そのすべてを同時にできたらいいのに。
　もどかしさに焦れながら、孝一は片方の腕を真白の背中に回して彼女の身体を自分の胸に押し付けつつ、彼女の中を探る。

「あ……ぁ、コウ、コウ」
　熱に浮かされたような甘い声が、孝一の耳元で彼の名前を囁いた。それがいっそう彼を煽り立てる。
　顔を寄せれば、真白は飢えた仔猫のように唇を求めてきた。
　キスを落としては少し離れて快楽に蕩けた真白の顔を眺め、またキスをする。
　それを繰り返しながら、熟知している真白の中を、孝一は丹念に探索していく。

　浅い所と、深い所と。
　最初は、わざとポイントを外して、ゆるゆると。
　やがて、より強い刺激を求めて真白がもどかしげに身じろぎを始める。

「物足りない？」
　孝一は真白の耳の中に囁きを吹き込んだ。少し遅れて、おずおずとした頷きが返ってくる。
　こんなに身体を重ねたというのに未だに欲望を露わにできない真白に、孝一は小さく笑う。とは言え、積極的に挑んでくる彼女というのも、想像できなかったが。
「全然、好みじゃなかったはずなんだけどな……」
「え……」
　孝一の呟きに眉をひそめた真白の唇にチュ、と軽いキスを落としてから、一転、攻撃を開始した。
　グリ、と一点を指の腹で強く刺激した瞬間、真白の全身がビクリと震える。
「ひ……ぅッ」
　反射的に腰を引きそうになった彼女を捉えて、その場所を容赦なく攻め立てた。
「や、あ、ダメ、ダメ、そこ、は――あ、ぁあッ」
　声が跳ね上がる度に、キュゥッと彼女の中が収縮する。ピタリと重ね合わせた全身に力が入り、ガクガクと震えるのが感じられる。

　彼の腕の中で、彼の手で快楽に溺れる真白が、愛おしくてならなかった。
　つい細い首筋を甘噛みしてしまう。
「ん、ふ……ッ」
　そんな刺激でも真白の身体は反応し、彼女の中に潜り込んだ彼の指を何度も締め付けた。
「シロ……真白」
　名前を呼ぶと、彼女は両手を伸ばして孝一の顔を包み込み、届く場所全てにキスを降らしてくる。そのたびに、彼の欲望はドクドクと脈打った。

「ぁ……も、う――ッ」
　震える声で、真白が身体を強張らせる。
　あと、二、三度の刺激で達する。
　潤んだ真白の眼差しが訴えていることが何なのか、孝一にはわかっていた。それに、彼自身ももう我慢ができない。
　愛おしくて愛おしくて、真白の全てが欲しくてならなかった。
　深々と彼女の中に身を埋め、彼女が自分のものだという印を残したい。
　それは、頭がおかしくなりそうなほど差し迫った欲求だった。

　孝一は手を離し、代わりにこれ以上はないというほどに高まりきった彼自身を、蜜をこぼしながらヒク付く泉へと押し当てる。
　先端に走ったその感触だけでも破裂しそうになるのを歯を食いしばって堪えて、孝一はグッと腰に力を込めて真白の中へと身を沈める――沈めようとした。

　が。

「あ、ダメ、まって……」

　唐突な、制止の声。
　快楽を求めて眩んでいる目を下げれば、孝一の胸に小さな両手が当てられているのが見て取れた。それは、微かな力でとは言え、彼を押しのけようとしている。

「シロ？」
　彼女を求めて今にも弾けそうになっている孝一の喉からは、軋むような声しか出ない。
　望みが果たされようとした瞬間にその期待を挫かれ、彼の頭はクラクラすると同時に霞がかかったようにぼんやりとしていた。
　今すぐ真白の中に身を埋められるのなら、何だってする。
　その欲望で思考停止している状態の孝一に、彼女は言ったのだ。

「他の人にしたみたいに、して欲しいの」

　と。