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アサヒ
彼女の気持ち
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ツキヤは強張った顔でアサヒを凝視している。残念ながら、ソファの背もたれのせいで彼の下にいるシイナは見ることができない。
それにしても、ツキヤの面食らった顔が面白過ぎて、アサヒは笑い出さずにいるのがやっとだった。彼が他の女性とヤッているまさにその場面に足を踏み入れたこともあったが、その時は、平気な面《つら》で続けていたものだけど。
(押し倒しただけでそんなビビらんでもね)
弟のこんな狼狽した顔は見たことがなく、アサヒは呆れ半分愉快半分で彼に向かって肩をすくめてみせた。それにもツキヤは微動だにしない。
(まったく、私にバレてないと信じていたなんて、甘いわ)
鼻で嗤いつつ、アサヒはグルリとソファを回って組み伏せられたままのシイナの横にしゃがみ込む。見開かれた彼女と目の高さを合わせて、微笑んだ。
そうして、その笑みを浮かべたまま、言う。
「シイナってば、ツキヤのことが好きなのよね」
「アサ、ヒ、せんぱ……」
真正直で優しいシイナは、否定も肯定もできない。ただ、顔色を失ってアサヒを見つめてくるだけだ。
心変わりに罪の意識を背負い、それがバレたことに怯える彼女が、たまらなく愛おしい。
(ホント、食べちゃいたいくらい)
そんなふうに見られたら、滅茶滅茶になるくらい可愛がりたくなってしまうことが判らないのだろうか――判らないに違いない。
シイナの前では、アサヒは『優しい先輩』だった。
明るくて屈託がなくて朗らかな、優しい先輩。
そんな『優しい先輩』が、一生彼女を自分に縛り付けて懇願するほど求めさせてグチャグチャに泣かせたいと思っているなんて、きっと、シイナは夢にも思っていない。
アサヒはシイナの笑顔が好きだ。
寄り添ってくるときのはにかむ顔も好き。
無意識に甘えてくるときの顔も。
けれど、同じくらい泣いている顔も見たくて、すがるような眼差しを向けられたら、もう、脳髄が蕩けてしまうだろう。
アサヒは丸みが損なわれてしまったシイナの頬に手を添え、スッと滑らせ、柔らかな耳朶をそっと揉む。びくりと首をすくめるシイナに微笑みかけた。
「シイナがツキヤのことを好きになったの、気付いてたわよ?」
瞬間、カッと熱くなった耳たぶを齧りたくなってしまったけれども、まだ早い。
チラリと弟に目を走らせると、彼は完全に硬直していた。馬乗りで押さえつけられているシイナもそうだけれど、どちらも、衝撃が強過ぎてどんな体勢をしているのかを気にする余裕もないらしい。その衝撃が、こんな場面を見られたことに対してなのか、アサヒが暴露してみせたことに対してなのかは、判らないけれど。
――多分、後者の方が強いのだろう。
小さく笑って、アサヒは続ける。
「シイナは、私のことが好きで、でも、ツキヤのことも好きで、どうしたらいいのか判らなくなっちゃったのよね。だから、逃げようとしてるんでしょ?」
そんなふうに図星を突いてあげたら、シイナの頬は真っ赤になった。羞恥のためか罪の意識のためか――ジワリと潤んだ大きな目に、アサヒはゾクゾクする。
「逃げよう、なんて――」
「してない? でも、私とサヨナラしようと思ってたんでしょ?」
少し意地悪く言ってみたら、せっかく赤くなっていたシイナの頬は、また真っ白になってしまった。
「聞いて、たの?」
震える声で訊いてきたシイナに、携帯電話を取り出しヒラヒラと振って見せる。
「出る前にあなたのを通話にしておいてね、外で聞いてた」
「え、でも、バイトは?」
「嘘。だって、シイナってば明らかに変だったし。そろそろ限界かなぁ、とか」
ポカンとしているシイナに、アサヒはフフッと笑う。
そうして、薄っすら開いている唇にそっと親指を滑り込ませた。
「ア、シャヒ、しぇんぱい?」
指の腹で柔らかな舌を撫でると、それを拒みもせずシイナは困惑の眼差しを向けてきた。アサヒの行為の意味するところが、全然解っていないらしい――それが性的な意味を持っているということを。
確かに、今までアサヒがシイナに施してきたのは、軽く唇を合わせるだけのキスと、ハグぐらいだ。
『恋人』といいつつ、その程度。
シイナと出会う前までアサヒが『恋人』にしてきたことを考えれば、幼稚園どころか赤ちゃんレベルの接触だ。
(キスとハグで留めるのにどれほど私が我慢していたのか、知ったらそれこそ逃げ出すわよね)
苦笑し、アサヒはシイナの口から指を引き抜くと、濡れたままのその指で彼女の唇をなぞった。
「あのね、シイナがツキヤを好きでもいいのよ?」
「え?」
「シイナは私とツキヤの両方が好き――それでいいの」
「そんなの、ダメです!」
泣きそうな声で言うシイナの唇に指を押し当てそれ以上の拒絶を阻む。
「私とツキヤは、それでいいのよ。それがいいのよ。シイナを失うより、ずっとね」
にっこり笑ってそう告げて、アサヒはシイナの胸元に手を伸ばした。
「先輩?」
彼女の戸惑いの声は無視して、流れるような動きでシャツの前ボタンを次々外していく。それを終えたらソファとシイナの間に手を潜らせ、ブラのホックを外してやった。
事ここに至ってようやくシイナはアサヒがしようとしていることを悟ったらしい。
「先輩!」
ブラのカップを押し上げたアサヒに、シイナが悲鳴じみた声を上げた。
アサヒは彼女に翳も裏もない笑みを向ける。
「言葉でどれだけ伝えても受け入れられないなら、行動で示してあげるわよ」
そう言って、アサヒは可愛らしい膨らみを両手で包み込み、その淡いピンクの先端をパクリと口の中に取り込んだ。
それにしても、ツキヤの面食らった顔が面白過ぎて、アサヒは笑い出さずにいるのがやっとだった。彼が他の女性とヤッているまさにその場面に足を踏み入れたこともあったが、その時は、平気な面《つら》で続けていたものだけど。
(押し倒しただけでそんなビビらんでもね)
弟のこんな狼狽した顔は見たことがなく、アサヒは呆れ半分愉快半分で彼に向かって肩をすくめてみせた。それにもツキヤは微動だにしない。
(まったく、私にバレてないと信じていたなんて、甘いわ)
鼻で嗤いつつ、アサヒはグルリとソファを回って組み伏せられたままのシイナの横にしゃがみ込む。見開かれた彼女と目の高さを合わせて、微笑んだ。
そうして、その笑みを浮かべたまま、言う。
「シイナってば、ツキヤのことが好きなのよね」
「アサ、ヒ、せんぱ……」
真正直で優しいシイナは、否定も肯定もできない。ただ、顔色を失ってアサヒを見つめてくるだけだ。
心変わりに罪の意識を背負い、それがバレたことに怯える彼女が、たまらなく愛おしい。
(ホント、食べちゃいたいくらい)
そんなふうに見られたら、滅茶滅茶になるくらい可愛がりたくなってしまうことが判らないのだろうか――判らないに違いない。
シイナの前では、アサヒは『優しい先輩』だった。
明るくて屈託がなくて朗らかな、優しい先輩。
そんな『優しい先輩』が、一生彼女を自分に縛り付けて懇願するほど求めさせてグチャグチャに泣かせたいと思っているなんて、きっと、シイナは夢にも思っていない。
アサヒはシイナの笑顔が好きだ。
寄り添ってくるときのはにかむ顔も好き。
無意識に甘えてくるときの顔も。
けれど、同じくらい泣いている顔も見たくて、すがるような眼差しを向けられたら、もう、脳髄が蕩けてしまうだろう。
アサヒは丸みが損なわれてしまったシイナの頬に手を添え、スッと滑らせ、柔らかな耳朶をそっと揉む。びくりと首をすくめるシイナに微笑みかけた。
「シイナがツキヤのことを好きになったの、気付いてたわよ?」
瞬間、カッと熱くなった耳たぶを齧りたくなってしまったけれども、まだ早い。
チラリと弟に目を走らせると、彼は完全に硬直していた。馬乗りで押さえつけられているシイナもそうだけれど、どちらも、衝撃が強過ぎてどんな体勢をしているのかを気にする余裕もないらしい。その衝撃が、こんな場面を見られたことに対してなのか、アサヒが暴露してみせたことに対してなのかは、判らないけれど。
――多分、後者の方が強いのだろう。
小さく笑って、アサヒは続ける。
「シイナは、私のことが好きで、でも、ツキヤのことも好きで、どうしたらいいのか判らなくなっちゃったのよね。だから、逃げようとしてるんでしょ?」
そんなふうに図星を突いてあげたら、シイナの頬は真っ赤になった。羞恥のためか罪の意識のためか――ジワリと潤んだ大きな目に、アサヒはゾクゾクする。
「逃げよう、なんて――」
「してない? でも、私とサヨナラしようと思ってたんでしょ?」
少し意地悪く言ってみたら、せっかく赤くなっていたシイナの頬は、また真っ白になってしまった。
「聞いて、たの?」
震える声で訊いてきたシイナに、携帯電話を取り出しヒラヒラと振って見せる。
「出る前にあなたのを通話にしておいてね、外で聞いてた」
「え、でも、バイトは?」
「嘘。だって、シイナってば明らかに変だったし。そろそろ限界かなぁ、とか」
ポカンとしているシイナに、アサヒはフフッと笑う。
そうして、薄っすら開いている唇にそっと親指を滑り込ませた。
「ア、シャヒ、しぇんぱい?」
指の腹で柔らかな舌を撫でると、それを拒みもせずシイナは困惑の眼差しを向けてきた。アサヒの行為の意味するところが、全然解っていないらしい――それが性的な意味を持っているということを。
確かに、今までアサヒがシイナに施してきたのは、軽く唇を合わせるだけのキスと、ハグぐらいだ。
『恋人』といいつつ、その程度。
シイナと出会う前までアサヒが『恋人』にしてきたことを考えれば、幼稚園どころか赤ちゃんレベルの接触だ。
(キスとハグで留めるのにどれほど私が我慢していたのか、知ったらそれこそ逃げ出すわよね)
苦笑し、アサヒはシイナの口から指を引き抜くと、濡れたままのその指で彼女の唇をなぞった。
「あのね、シイナがツキヤを好きでもいいのよ?」
「え?」
「シイナは私とツキヤの両方が好き――それでいいの」
「そんなの、ダメです!」
泣きそうな声で言うシイナの唇に指を押し当てそれ以上の拒絶を阻む。
「私とツキヤは、それでいいのよ。それがいいのよ。シイナを失うより、ずっとね」
にっこり笑ってそう告げて、アサヒはシイナの胸元に手を伸ばした。
「先輩?」
彼女の戸惑いの声は無視して、流れるような動きでシャツの前ボタンを次々外していく。それを終えたらソファとシイナの間に手を潜らせ、ブラのホックを外してやった。
事ここに至ってようやくシイナはアサヒがしようとしていることを悟ったらしい。
「先輩!」
ブラのカップを押し上げたアサヒに、シイナが悲鳴じみた声を上げた。
アサヒは彼女に翳も裏もない笑みを向ける。
「言葉でどれだけ伝えても受け入れられないなら、行動で示してあげるわよ」
そう言って、アサヒは可愛らしい膨らみを両手で包み込み、その淡いピンクの先端をパクリと口の中に取り込んだ。
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