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壁の崩壊⑦
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クリスティーナを抱えたマクシミリアンは大股でどんどん足を運んでいる。いつもの三倍の速さで過ぎ去っていく景色にめまいを覚える彼女がハタと我に返ったのは、マクシミリアンが二階に上がるための階段に足をかけたときだった。
てっきり屋敷の中に入れば下ろしてもらえるものだと思っていたクリスティーナは、一向に止まる気配のないマクシミリアンに声をかける。
「あの、マクシミリアンさま……?」
「何だ?」
彼は答えてくれたけれども、その間に、二段飛ばしで階段を上がりきってしまった。
そしてあっという間に、クリスティーナの私室も通り過ぎる。
「どちらへ――」
クリスティーナがその問いを発した時には、もう彼の目的地に辿り着いていた。
マクシミリアンは彼女を抱いたまま寝室の扉を開け、中に入ると足で蹴り閉める。
クリスティーナを休ませてくれようとしているのか、そう彼女が思ったとき、マクシミリアンが言った。
「ティナが欲しい」
彼は返事を待つことなくスタスタとベッドに近づき、クリスティーナをふわりと下ろす。そうしてそのまま彼女の頭の両脇に手を突いて、閉じ込めた。
「ティナが欲しい。今すぐ」
射貫くような眼差しでそう言われ、クリスティーナはヒクリと喉を鳴らす。『欲しい』の意味は、解っている。
けれど。
クリスティーナはチラリとカーテンが開け放されたテラスの方へと目を走らせた。
まだ日の短い春先でも窓の外からは燦々と陽が射していて、夕方にすら程遠い。
マクシミリアンが望んでいる行為は、通常、夜に営むべきだ。こんな日中にだなんて、不適切極まりない。
「……まだ、明るいです」
遠回しに遠慮願ったクリスティーナの返事を、彼は一答で切り捨てる。
「待てない」
言うなり、彼は耳をふさぐようにしてクリスティーナの頭を押さえ込み、彼女の唇と抵抗を奪った。
すぐさま侵入してきたマクシミリアンの舌が、性急にクリスティーナの中を探った。反射的に逃げようとした彼女の舌を追いかけ、半ば強制的に表面をこすり合わせてくる。彼の舌先がクリスティーナの舌の真ん中を辿り、柔らかな舌同士が絡み合うと、クリスティーナの身体の奥をギュッと掴み上げられるような感覚が襲った。無意識のうちにもじもじと身をよじらせた彼女に逃げようとしているとでも思ったのか、マクシミリアンが腰に重みを乗せて押さえ込んできた。
マクシミリアンはクリスティーナの舌を弄ぶだけでなく、つるりとした口蓋をくすぐり、柔らかな頬の内側を撫で、舌の裏のくぼみを突く。ジワリと溢れてきた彼女の唾液をすくい取り、わざと水音を立ててくる。
――喰らい尽されてしまう。
クリスティーナの背筋を、ゾクリと何かが這いあがった。
これまでにも、マクシミリアンは我を失ったように貪らんばかりのキスをしてきたことがある。けれど、そんなときでもいつもどこか彼女の反応を窺いながら、無理のないようにしてくれているような感じが伝わってきた。
今のマクシミリアンからは微塵もそんなものが感じられず、遠慮もためらいもなく、ただただひたすらクリスティーナを求めてくる。
(く、るし……)
息が続かない。
クラリと気が遠くなりかけたところで、唐突に解放された。
「はッ、ぁ、はぁ」
大きく息を切らして空気を貪るクリスティーナをよそに、マクシミリアンは彼女の肌を唇でついばんでいく。いつの間にボタンを外されコルセットのひもを解かれたのか、ドレスの襟元は大きくはだけられていた。
マクシミリアンはクリスティーナが呆気に取られてしまうほど巧みに、キスを続けながら彼女の服を剥いでいく。
「あの、マクシミリアンさま、待――ぁッ」
クリスティーナの声などどこ吹く風で、マクシミリアンは露わになった彼女の胸の頂にそっと歯を立てた。予期せず走った快楽の痺れにクリスティーナはビクンと身をすくませる。と、それを苦痛によるものと受け取ったのか、彼はすぐさま歯を使うのは止め、代わりにチュウと音がするほど強く吸い上げてきた。
「ぁ……」
身体の奥がひどく疼き、クリスティーナは甘い呻きを抑えられない。思わず背を強張らせて仰け反ったところで大きな手に腰のあたりを持ち上げられて、するりとドレスを抜き取られてしまった。
こんな、ランプの薄明りではなく、燦々と陽が射す中で裸身を晒すことになるなんて。
とてつもなく、恥ずかしい。
咄嗟に身を捻って横向きになり背を縮めると、マクシミリアンから不服そうな声が漏れる。
「ティナ」
「無理です」
かぶりを振ったクリスティーナはギュッと胸を抱え、ほとんどうつ伏せになる。
ふう、とマクシミリアンが息をつくのが聞こえた。聞き入れてくれたのか、と少し肩の力を抜いたクリスティーナの腰の括れの辺りを、温かく湿ったものが這う。
「ひゃぅ」
背筋が引き攣るようなくすぐったさにクリスティーナが跳ね起きると、すかさず彼に両手を取られ、頭の横に押さえつけられてしまった。また仰向けになって全てを露わにすることになったクリスティーナは、半泣きになる。さりげなく両脚の間にマクシミリアンが身体を置いてしまったから、今度は向きを変えることもできない。
「マクシミリアンさま……せめて、カーテンを……」
「嫌だ。暗くなる」
クリスティーナの懇願を、マクシミリアンはひと言で、退けた。
情けない顔で睨み付けても、彼は全く応えない。
「気にする余裕があるのがいけない」
「余裕なんてありません」
「そうか?」
彼は軽く首をかしげてそう答え、頭を下げてきた。そうして、抵抗できないクリスティーナの首筋に唇を寄せる。
ドクドクと激しく脈打つ血の道を、彼の舌が辿った。皮膚が薄いせいでその感触が生々しい。
マクシミリアンはクリスティーナの手を押さえたままで、頭を下げていく。彼は夜の触れ合いでも良くするように、鎖骨を甘噛みし、胸の膨らみに頬を埋めた。いや、一つ一つの口付けはいつもよりもずっと丁寧で、彼は極上の酒でも楽しむように彼女の柔らかな肌を舌で確かめ、吸い、濃い痕を残していく。
「――ッ、ふ……」
ベッドの上に縫い留められて身をよじることもできないクリスティーナは、マクシミリアンが与える愛撫を、固く目を閉じギュッと唇を噛み締めてやり過ごそうとした。
けれど、彼はそれを許してくれない。
硬く尖った胸の蕾がパクリとマクシミリアンの口の中に消えたかと思うと、チュウ、と強く吸われる。そうしながら舌でこねるように押し潰されて、クリスティーナの身体の中心を快楽の矢が走り抜けた。
「ん、あぅ」
堪えきれずに甘い声が漏れる。
執拗なまでにそこを責め立てられれば、抵抗する意思など淡雪のように消え去ってしまった。クリスティーナの身体は、マクシミリアンの手と唇で為す術もなく悦楽を掻き立てられていく。
マクシミリアンはクリスティーナの左右の胸の頂を思うさま貪った後、ぐったりと力の抜けた彼女の手を放し、二つの膨らみの間に口付けた。そうして華奢な腰骨を両手で包み込む。
「マクシミリアン、さま?」
自分の身体の上でまた動き出したマクシミリアンの頭に、クリスティーナは心許なく呼びかけた。彼はチラリと目だけで彼女を見たけれど、構わずそのまま進み続ける。
マクシミリアンの唇はみぞおちをついばみ、そのまま真っ直ぐ下りていく。彼のキスは、いつもそこまでだ。それ以上、下に行くことはない。
行くことはない、筈なのに。
「あの……ひぅ!?」
何をしようとしているのか尋ねようとしたのに、変な声を漏らしてしまった。尖らせた舌先でお臍の中をグリグリとこじられて、下腹に、ビリッと痺れが走ったからだ。
咄嗟に口を押えたクリスティーナを見て、マクシミリアンは目だけでにやりと笑った。そして、お臍の更に下に、唇を押し当てる。
そこは、下腹というよりも、淡い金色の和毛の生え際で、クリスティーナは思わず身体を起こしてマクシミリアンの頭を押しやった――押しやろうとした、けれど、当然ビクともしない。
「な、にを……」
口ごもりながら問いかけたクリスティーナの左の腿の内側をマクシミリアンがついばんだ。その刺激に身をすくませた瞬間、両腿の裏側に大きな手が当てられ、グイと押し広げられる。
「!?」
あられもない格好に頭の中が真っ白になったクリスティーナの腿を押さえ込んだまま、マクシミリアンの頭がまた動き出した。左右の腿の柔らかな部分に均等にキスを与えた後、その真ん中へと向かう。
「や、ぁぅッ」
すでに蜜を滴らせていたその場所を、その蜜を拭い取ろうとするように、柔らかく滑らかなものが這った。一瞬遅れてそれがマクシミリアンの舌なのだと気付き、クリスティーナの息が止まる。
(今、マクシミリアンさま……)
確かに、彼は舐めた。舐めるべきではない場所を、舐めた。
呆然としているクリスティーナをよそに、彼は唇で茂みの中を探り、そこに隠れている小さな蕾を見つけ出した。微かに膨らみ始めていたそれを、マクシミリアンは口に含み、吸い上げる。
「ふ、ッく」
敏感な先端を舌で転がされ、たまらずクリスティーナはその刺激から逃れようとした。けれども腰はマクシミリアンの腕にがっしりと抱え込まれていて、自由になるのは上半身だけだ。
マクシミリアンはまるで甘い飴玉でも楽しむように、それを転がしている。蕾はどんどん感じ易くなっていき、ジンジンと疼きを訴える。弄ばれれば弄ばれるほど、クリスティーナの花弁の間からは蜜が溢れ出した。
柔らかな刺激だから、達することはできない。
けれども、限りなくそこに近い状態に置かれ続け、クリスティーナはもどかしさで涙をこぼす。
「く、ぅん」
ギュゥと勝手に身体の奥に力がこもって、何とか快楽を極めようとする。
でも、足りない。
「マクシミリアン、さま……」
ねだる声が、出てしまった。
彼はふと口を離し、潤んだクリスティーナの目を見つめる。清純な空色の瞳に色濃く浮かぶ欲情の色に、目元を緩ませた。
その微かな笑みに、解放してくれるのかと、思った。
けれどもマクシミリアンは再び顔を伏せる。誰にも見せたことのないその場所にピタリと彼の唇が押し当てられ、次の瞬間、ふっくらと腫れた花弁を割って、ぬるりと柔らかなものが溢れる蜜に潜り込むようにして侵入してきた。
「ひ、ぅ」
それは節くれだった指とも、張り詰めた彼の昂ぶりとも違う。経験したことのない、内側を這い回られるような感覚。
何をされているのか理解した途端、クリスティーナの頭は羞恥で眩んだ。
「ちょっと、待って、待ってくださ……い、ぁ、あん」
やめさせようとマクシミリアンの頭に手を当てたけれども、浅いところにある感じる場所を舐られ、快楽が羞恥を凌駕する。ばたりと仰向けに倒れたクリスティーナの腰が、いとも軽々と持ち上げられた。
目だけを下に向けると、自分の脚の間に彼の頭がある。
そんな光景が、そんなところを貪られているということが、クリスティーナには信じられなかった。けれど、その行為で掻き立てられているこの快楽は、やっぱり、現実だ。
こんなこと、不適切だ。
そう思っても、彼の舌に翻弄されて、どうしようもなく、身体の奥が、もっと深いところが、疼く。
もっと確かなものが、クリスティーナは欲しかった。
彼の全てが、欲しくてたまらなかった。
「マクシミリアン、さま」
震える声で呼ぶと、彼が目を上げる。そこに溢れる彼女を求める狂おしいほどの光。
刹那、クリスティーナは愉悦の谷の奥底へと突き飛ばされる。身体の奥がきつく収縮し、手足の指の先まで快楽が迸った。
「ん、ん、ぅ、ぅ」
快楽の波が引くのと同時に全身の強直がほぐれ、一転ふわりと脱力する。
マクシミリアンは唇を離し、クリスティーナの左脚を持ち上げた。その内側の柔らかさを味わうように舌を這わせる彼に、クリスティーナは恨めし気な眼差しを向ける。
「な、んで、こんな……」
恥ずかしさのあまりにボロボロと涙がこぼれる。
子どものように泣き出したクリスティーナに、マクシミリアンは眉をひそめて身体を起こした。
「嫌だったか?」
問われて、クリスティーナは困惑する。
嫌ではなかった。嫌だったのではなくて、あんな行為でもだえるほどの快楽を得てしまったことが、この上なく恥ずかしくてたまらなかった。
嘘はつけずにかぶりを振った彼女に、マクシミリアンがホッとした顔をする。ホッとされたことになんとなくムッとして、クリスティーナは彼を睨みつけた。
「こんなこと、されたこと、なかったじゃないですかぁ」
マクシミリアンは束の間目を見開き、次いでにやりと笑った。彼はまたクリスティーナの脚を抱え上げ、その内腿にキスをしながら言う。
「今までは我慢していた。ティナは義務で俺に抱かれているのだと思っていたから」
「義務、だなんて、そんなこと……」
マクシミリアンは身を乗り出して、口ごもったクリスティーナの眼尻に残る涙を舐め取る。乱れた彼女の髪を両手で後ろに撫で付け、チュ、とついばむキスを唇に落とした。
「したくてできなかったことは、腐るほどある。覚悟しておけ」
「え……」
にやりと笑った彼に、クリスティーナの胸を一抹の不安がよぎった。
てっきり屋敷の中に入れば下ろしてもらえるものだと思っていたクリスティーナは、一向に止まる気配のないマクシミリアンに声をかける。
「あの、マクシミリアンさま……?」
「何だ?」
彼は答えてくれたけれども、その間に、二段飛ばしで階段を上がりきってしまった。
そしてあっという間に、クリスティーナの私室も通り過ぎる。
「どちらへ――」
クリスティーナがその問いを発した時には、もう彼の目的地に辿り着いていた。
マクシミリアンは彼女を抱いたまま寝室の扉を開け、中に入ると足で蹴り閉める。
クリスティーナを休ませてくれようとしているのか、そう彼女が思ったとき、マクシミリアンが言った。
「ティナが欲しい」
彼は返事を待つことなくスタスタとベッドに近づき、クリスティーナをふわりと下ろす。そうしてそのまま彼女の頭の両脇に手を突いて、閉じ込めた。
「ティナが欲しい。今すぐ」
射貫くような眼差しでそう言われ、クリスティーナはヒクリと喉を鳴らす。『欲しい』の意味は、解っている。
けれど。
クリスティーナはチラリとカーテンが開け放されたテラスの方へと目を走らせた。
まだ日の短い春先でも窓の外からは燦々と陽が射していて、夕方にすら程遠い。
マクシミリアンが望んでいる行為は、通常、夜に営むべきだ。こんな日中にだなんて、不適切極まりない。
「……まだ、明るいです」
遠回しに遠慮願ったクリスティーナの返事を、彼は一答で切り捨てる。
「待てない」
言うなり、彼は耳をふさぐようにしてクリスティーナの頭を押さえ込み、彼女の唇と抵抗を奪った。
すぐさま侵入してきたマクシミリアンの舌が、性急にクリスティーナの中を探った。反射的に逃げようとした彼女の舌を追いかけ、半ば強制的に表面をこすり合わせてくる。彼の舌先がクリスティーナの舌の真ん中を辿り、柔らかな舌同士が絡み合うと、クリスティーナの身体の奥をギュッと掴み上げられるような感覚が襲った。無意識のうちにもじもじと身をよじらせた彼女に逃げようとしているとでも思ったのか、マクシミリアンが腰に重みを乗せて押さえ込んできた。
マクシミリアンはクリスティーナの舌を弄ぶだけでなく、つるりとした口蓋をくすぐり、柔らかな頬の内側を撫で、舌の裏のくぼみを突く。ジワリと溢れてきた彼女の唾液をすくい取り、わざと水音を立ててくる。
――喰らい尽されてしまう。
クリスティーナの背筋を、ゾクリと何かが這いあがった。
これまでにも、マクシミリアンは我を失ったように貪らんばかりのキスをしてきたことがある。けれど、そんなときでもいつもどこか彼女の反応を窺いながら、無理のないようにしてくれているような感じが伝わってきた。
今のマクシミリアンからは微塵もそんなものが感じられず、遠慮もためらいもなく、ただただひたすらクリスティーナを求めてくる。
(く、るし……)
息が続かない。
クラリと気が遠くなりかけたところで、唐突に解放された。
「はッ、ぁ、はぁ」
大きく息を切らして空気を貪るクリスティーナをよそに、マクシミリアンは彼女の肌を唇でついばんでいく。いつの間にボタンを外されコルセットのひもを解かれたのか、ドレスの襟元は大きくはだけられていた。
マクシミリアンはクリスティーナが呆気に取られてしまうほど巧みに、キスを続けながら彼女の服を剥いでいく。
「あの、マクシミリアンさま、待――ぁッ」
クリスティーナの声などどこ吹く風で、マクシミリアンは露わになった彼女の胸の頂にそっと歯を立てた。予期せず走った快楽の痺れにクリスティーナはビクンと身をすくませる。と、それを苦痛によるものと受け取ったのか、彼はすぐさま歯を使うのは止め、代わりにチュウと音がするほど強く吸い上げてきた。
「ぁ……」
身体の奥がひどく疼き、クリスティーナは甘い呻きを抑えられない。思わず背を強張らせて仰け反ったところで大きな手に腰のあたりを持ち上げられて、するりとドレスを抜き取られてしまった。
こんな、ランプの薄明りではなく、燦々と陽が射す中で裸身を晒すことになるなんて。
とてつもなく、恥ずかしい。
咄嗟に身を捻って横向きになり背を縮めると、マクシミリアンから不服そうな声が漏れる。
「ティナ」
「無理です」
かぶりを振ったクリスティーナはギュッと胸を抱え、ほとんどうつ伏せになる。
ふう、とマクシミリアンが息をつくのが聞こえた。聞き入れてくれたのか、と少し肩の力を抜いたクリスティーナの腰の括れの辺りを、温かく湿ったものが這う。
「ひゃぅ」
背筋が引き攣るようなくすぐったさにクリスティーナが跳ね起きると、すかさず彼に両手を取られ、頭の横に押さえつけられてしまった。また仰向けになって全てを露わにすることになったクリスティーナは、半泣きになる。さりげなく両脚の間にマクシミリアンが身体を置いてしまったから、今度は向きを変えることもできない。
「マクシミリアンさま……せめて、カーテンを……」
「嫌だ。暗くなる」
クリスティーナの懇願を、マクシミリアンはひと言で、退けた。
情けない顔で睨み付けても、彼は全く応えない。
「気にする余裕があるのがいけない」
「余裕なんてありません」
「そうか?」
彼は軽く首をかしげてそう答え、頭を下げてきた。そうして、抵抗できないクリスティーナの首筋に唇を寄せる。
ドクドクと激しく脈打つ血の道を、彼の舌が辿った。皮膚が薄いせいでその感触が生々しい。
マクシミリアンはクリスティーナの手を押さえたままで、頭を下げていく。彼は夜の触れ合いでも良くするように、鎖骨を甘噛みし、胸の膨らみに頬を埋めた。いや、一つ一つの口付けはいつもよりもずっと丁寧で、彼は極上の酒でも楽しむように彼女の柔らかな肌を舌で確かめ、吸い、濃い痕を残していく。
「――ッ、ふ……」
ベッドの上に縫い留められて身をよじることもできないクリスティーナは、マクシミリアンが与える愛撫を、固く目を閉じギュッと唇を噛み締めてやり過ごそうとした。
けれど、彼はそれを許してくれない。
硬く尖った胸の蕾がパクリとマクシミリアンの口の中に消えたかと思うと、チュウ、と強く吸われる。そうしながら舌でこねるように押し潰されて、クリスティーナの身体の中心を快楽の矢が走り抜けた。
「ん、あぅ」
堪えきれずに甘い声が漏れる。
執拗なまでにそこを責め立てられれば、抵抗する意思など淡雪のように消え去ってしまった。クリスティーナの身体は、マクシミリアンの手と唇で為す術もなく悦楽を掻き立てられていく。
マクシミリアンはクリスティーナの左右の胸の頂を思うさま貪った後、ぐったりと力の抜けた彼女の手を放し、二つの膨らみの間に口付けた。そうして華奢な腰骨を両手で包み込む。
「マクシミリアン、さま?」
自分の身体の上でまた動き出したマクシミリアンの頭に、クリスティーナは心許なく呼びかけた。彼はチラリと目だけで彼女を見たけれど、構わずそのまま進み続ける。
マクシミリアンの唇はみぞおちをついばみ、そのまま真っ直ぐ下りていく。彼のキスは、いつもそこまでだ。それ以上、下に行くことはない。
行くことはない、筈なのに。
「あの……ひぅ!?」
何をしようとしているのか尋ねようとしたのに、変な声を漏らしてしまった。尖らせた舌先でお臍の中をグリグリとこじられて、下腹に、ビリッと痺れが走ったからだ。
咄嗟に口を押えたクリスティーナを見て、マクシミリアンは目だけでにやりと笑った。そして、お臍の更に下に、唇を押し当てる。
そこは、下腹というよりも、淡い金色の和毛の生え際で、クリスティーナは思わず身体を起こしてマクシミリアンの頭を押しやった――押しやろうとした、けれど、当然ビクともしない。
「な、にを……」
口ごもりながら問いかけたクリスティーナの左の腿の内側をマクシミリアンがついばんだ。その刺激に身をすくませた瞬間、両腿の裏側に大きな手が当てられ、グイと押し広げられる。
「!?」
あられもない格好に頭の中が真っ白になったクリスティーナの腿を押さえ込んだまま、マクシミリアンの頭がまた動き出した。左右の腿の柔らかな部分に均等にキスを与えた後、その真ん中へと向かう。
「や、ぁぅッ」
すでに蜜を滴らせていたその場所を、その蜜を拭い取ろうとするように、柔らかく滑らかなものが這った。一瞬遅れてそれがマクシミリアンの舌なのだと気付き、クリスティーナの息が止まる。
(今、マクシミリアンさま……)
確かに、彼は舐めた。舐めるべきではない場所を、舐めた。
呆然としているクリスティーナをよそに、彼は唇で茂みの中を探り、そこに隠れている小さな蕾を見つけ出した。微かに膨らみ始めていたそれを、マクシミリアンは口に含み、吸い上げる。
「ふ、ッく」
敏感な先端を舌で転がされ、たまらずクリスティーナはその刺激から逃れようとした。けれども腰はマクシミリアンの腕にがっしりと抱え込まれていて、自由になるのは上半身だけだ。
マクシミリアンはまるで甘い飴玉でも楽しむように、それを転がしている。蕾はどんどん感じ易くなっていき、ジンジンと疼きを訴える。弄ばれれば弄ばれるほど、クリスティーナの花弁の間からは蜜が溢れ出した。
柔らかな刺激だから、達することはできない。
けれども、限りなくそこに近い状態に置かれ続け、クリスティーナはもどかしさで涙をこぼす。
「く、ぅん」
ギュゥと勝手に身体の奥に力がこもって、何とか快楽を極めようとする。
でも、足りない。
「マクシミリアン、さま……」
ねだる声が、出てしまった。
彼はふと口を離し、潤んだクリスティーナの目を見つめる。清純な空色の瞳に色濃く浮かぶ欲情の色に、目元を緩ませた。
その微かな笑みに、解放してくれるのかと、思った。
けれどもマクシミリアンは再び顔を伏せる。誰にも見せたことのないその場所にピタリと彼の唇が押し当てられ、次の瞬間、ふっくらと腫れた花弁を割って、ぬるりと柔らかなものが溢れる蜜に潜り込むようにして侵入してきた。
「ひ、ぅ」
それは節くれだった指とも、張り詰めた彼の昂ぶりとも違う。経験したことのない、内側を這い回られるような感覚。
何をされているのか理解した途端、クリスティーナの頭は羞恥で眩んだ。
「ちょっと、待って、待ってくださ……い、ぁ、あん」
やめさせようとマクシミリアンの頭に手を当てたけれども、浅いところにある感じる場所を舐られ、快楽が羞恥を凌駕する。ばたりと仰向けに倒れたクリスティーナの腰が、いとも軽々と持ち上げられた。
目だけを下に向けると、自分の脚の間に彼の頭がある。
そんな光景が、そんなところを貪られているということが、クリスティーナには信じられなかった。けれど、その行為で掻き立てられているこの快楽は、やっぱり、現実だ。
こんなこと、不適切だ。
そう思っても、彼の舌に翻弄されて、どうしようもなく、身体の奥が、もっと深いところが、疼く。
もっと確かなものが、クリスティーナは欲しかった。
彼の全てが、欲しくてたまらなかった。
「マクシミリアン、さま」
震える声で呼ぶと、彼が目を上げる。そこに溢れる彼女を求める狂おしいほどの光。
刹那、クリスティーナは愉悦の谷の奥底へと突き飛ばされる。身体の奥がきつく収縮し、手足の指の先まで快楽が迸った。
「ん、ん、ぅ、ぅ」
快楽の波が引くのと同時に全身の強直がほぐれ、一転ふわりと脱力する。
マクシミリアンは唇を離し、クリスティーナの左脚を持ち上げた。その内側の柔らかさを味わうように舌を這わせる彼に、クリスティーナは恨めし気な眼差しを向ける。
「な、んで、こんな……」
恥ずかしさのあまりにボロボロと涙がこぼれる。
子どものように泣き出したクリスティーナに、マクシミリアンは眉をひそめて身体を起こした。
「嫌だったか?」
問われて、クリスティーナは困惑する。
嫌ではなかった。嫌だったのではなくて、あんな行為でもだえるほどの快楽を得てしまったことが、この上なく恥ずかしくてたまらなかった。
嘘はつけずにかぶりを振った彼女に、マクシミリアンがホッとした顔をする。ホッとされたことになんとなくムッとして、クリスティーナは彼を睨みつけた。
「こんなこと、されたこと、なかったじゃないですかぁ」
マクシミリアンは束の間目を見開き、次いでにやりと笑った。彼はまたクリスティーナの脚を抱え上げ、その内腿にキスをしながら言う。
「今までは我慢していた。ティナは義務で俺に抱かれているのだと思っていたから」
「義務、だなんて、そんなこと……」
マクシミリアンは身を乗り出して、口ごもったクリスティーナの眼尻に残る涙を舐め取る。乱れた彼女の髪を両手で後ろに撫で付け、チュ、とついばむキスを唇に落とした。
「したくてできなかったことは、腐るほどある。覚悟しておけ」
「え……」
にやりと笑った彼に、クリスティーナの胸を一抹の不安がよぎった。
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クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。
クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。
アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。
ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。
クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。
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能登原あめ
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