27 / 65
贈りもの⑥
しおりを挟む
クリスティーナと目を合わせたまま、マクシミリアンの唇が下りてくる。
それは静かにクリスティーナのこめかみを伝う滴を優しく拭い、離れていくことなく、また新たにこぼれてくるものを堰き止めようとするかのように彼女の目尻に押し当てられた。
「泣かないでくれ。貴女に泣かれると、俺は死にそうになる」
彼女をきつく抱き締めたマクシミリアンがほとんど唸り声といってもいいような声でそう囁くから、クリスティーナはびっくりして涙なんて引っ込んでしまう。
「いやです」
とっさに、クリスティーナはそう答えていた。
マクシミリアンが死んでしまうだなんて、考えることすらできなかったから。
けれど、彼は、クリスティーナのその返事に眉を下げる。
「何故だ? 俺が傍にいるからか?」
その表情は、見るからに、『打ちひしがれた』と言わんばかりで。
マクシミリアンの言葉の意味が掴めずポカンと彼を見上げてしまったクリスティーナに、彼はうなだれ、小さく息をついた。大きな身体が離れていこうとして、彼女の目の前をがっしりした腕が横切る。マクシミリアンの言動は訳が解からなったけれど、今彼を行かせてしまったらまたこじれてしまうだろうということだけは判って、思わずクリスティーナははっしと彼の腕を掴み、勢い余って爪を立ててしまった。
マクシミリアンは眉をひそめて自分の腕を掴んでいるクリスティーナの手を見つめ、次いで彼女の目を見つめた。
「ティナ」
彼女の名を呼ぶその声に含まれるのは、懇願だ。
言葉では、彼は、彼女に、手を放してもらいたがっている。
(でも、本当に?)
本当に、マクシミリアンは自分から離れたいと思っているのだろうか。
クリスティーナは懸命に頭を働かせ、今の遣り取りについて考えた。
(マクシミリアンさまは、わたくしに、泣かないで欲しい――死にそうになる、とおっしゃった。わたくしは、死んではいやだと、お答えした。マクシミリアンさまはがっかりされて、離れようとされた)
――つながっていない気がする。
どこがおかしいのかと考えて、クリスティーナは思い至った。
(「泣かないで」に対して「いやだ」と申し上げたと思われたのね)
悟ったとたん、彼女は、つい、気の抜けた笑いを漏らしてしまった。
何故、いつもこんなに言葉が通い合わないのだろう。とても簡単なことしか言っていないのに。
「ティナ?」
今度は憮然とした声。
クリスティーナは微笑み、マクシミリアンを見上げた。
「『いや』はマクシミリアンさまが死にそうになる、とおっしゃったことに対してのお返事です。わたくしは……マクシミリアンさまにお傍にいて欲しいです。行ってしまわれたら、独りで泣きます」
間違いのないように、はっきりと、明確に、クリスティーナは自分の気持ちを口にした。そうして、マクシミリアンの腕をしっかりと握り締めたまま、彼を見つめる。これでもちゃんと伝わらないのだとしたら、今度こそ、どうしたら良いのかわからなくなる。
まっすぐにマクシミリアンを見つめるクリスティーナの眼差しを受け止め、彼の顎にグッと力がこもった。
唸り声が続く。
「そんなことを言ったらどういう目に遭うか、判っているのか……?」
不自然なままの姿勢で全身に緊張をみなぎらせているマクシミリアンに、クリスティーナは柔らかな笑みを返した。
「マクシミリアンさまは酷いことを為さらないということだけは、判っています」
マクシミリアンの大きな手が、固い拳になる。筋が浮くほどきつく両手を握り締めた直後、パッと彼が動いた。
あ、と思ったときには、もう、クリスティーナの唇は塞がれていて、小さな驚きの声はそのままマクシミリアンの口の中へと溶けていく。
クリスティーナの両耳を塞ぐように彼女の頭を掴んで、彼は、喰らい尽さんばかりに唇を貪ってくる。すぐさま歯列をこじ開け侵入してきた温かな舌を、クリスティーナは懸命に受け入れた。
マクシミリアンはクリスティーナの口内を余すところなくまさぐり、奥に引っ込みがちな彼女の舌を絡めとる。耳を塞がれているせいか口腔の中での水音が頭の中に響くようで、くらくらした。
苦しい息でマクシミリアンに追い付こうとしているクリスティーナの両膝を、彼の骨張った膝が割り開いた。彼はそのまま彼女を抱き締め、グッと腰を引き寄せる。
途端、クリスティーナの下腹に、硬く昂ったものが押し付けられた。その熱さに、彼女はハッと息を呑む。
その気配が伝わったのか、刹那マクシミリアンが肩を強張らせ、弾かれたように唇を放した。
「すまない、抑えが利かない」
クリスティーナと同じくらい息を切らしたマクシミリアンが、呟いた。彼は震えていて、あまりに苦しそうで、彼女の胸が締め付けられる。
自分よりもはるかに大きな身体をした彼を、慰めたい。
クリスティーナのことになるといつも謝ってばかりの彼が、愛おしい。
「大丈夫、大丈夫、ですから……」
宥めるように囁きながら、彼女は目の前にある彼の顔に何度も口付ける。それがキスという行為だという意識もなく、ただ、こみ上げる衝動に駆られて繰り返した。
マクシミリアンは黙ってそれを受け入れていたけれど、クリスティーナが逞しい首筋に唇を寄せたとたん、一際大きく身震いする。
嫌だったのだろうかと動きを止めると、食い入るように見つめてきていた彼の眼差しに、気が付いた。
「マクシミリアンさま?」
そっと呼びかけると、唸るような声だけが返ってくる。
マクシミリアンが感じていること、考えていることを読み取りたくて眉をひそめてクリスティーナが彼を見上げていると、ふわりと唇が重ねられた。
じきにそれは彼女の奥を探る深いものになったけれども、さっきまでのような貪欲で飢えたものではなく、穏やかでゆったりとしたものだった。
時々、マクシミリアンは唇を浮かせて、クリスティーナに息を継ぐ猶予を与えてくれる。
クリスティーナが呼吸を整えている間も彼の手は彼女の肌を辿り、ひと撫でするごとに快楽の火を灯していく。
首筋や脇腹――皮膚の薄いところをくすぐるように触れられると、そのたびに身体の奥がズクリと疼いた。
やがてマクシミリアンの唇はクリスティーナの唇から離れ、顎に、首に、鎖骨にと移っていく。彼は唇で触れるだけでなく、舌を這わせ、時に優しく歯を立てた。
彼が動くたび、指先まで甘くしびれる。
「マクシミリアン、さま……」
吐息で彼の名を呼ぶと、それに応えるように、唇にキスが戻ってくる。
(この方との、キスが好き)
とりわけ、こういう、優しいキスが。
蕩けた頭で、クリスティーナはそんなことを考える。
うっとりとマクシミリアンの唇を受け止めていたクリスティーナの胸が、大きな掌で包み込まれた。マクシミリアンもアルマンも、屋敷中の者がこぞって食べろ食べろと言うせいで、華奢さはそのままに、彼女の肢体は徐々に丸みを増しつつある。とは言えまだまだ『豊満』とは程遠いそれを、武骨な手がやわりと揉んだ。
「は、ぅ……」
思わず吐息が漏れた。
普段意識したこともない先端が、疼く。
もどかしい。
マクシミリアンの唇も手も震えるほどの快楽をもたらしてくれるのに、何かが足りない気がする。あるいは、わざと、焦点をずらされているような、気が。
もっと、触れて欲しい。
もっと――
クリスティーナは縋りついていたマクシミリアンの厚い肩に爪を立てる。
と、まるでクリスティーナのその心の声が届いたかのようにマクシミリアンがチラリと彼女の目に視線をよこしてから、その頭をさらに下げた。
右の胸の、疼いて仕方がなかったその場所が、彼の口に包まれる。
「ゃあ、ぁん」
強く吸われた瞬間、クリスティーナは身体の中心がキュッと縮こまった気がした。硬くなった先端を舌で転がされれば、その場所がジンジンと痺れる。
クリスティーナは満ちてくる快感を散らそうと、背を反らせ、身をよじった。けれど、効果がない。
震え始めた彼女のもう一方の胸の蕾を、マクシミリアンの指がからかった。
ツンと立ち上がった先端を少しがさつく彼の親指の腹が優しくこねる。思わずクリスティーナが固く目をつむると、今度はその場所に爪を立てられた。
刹那、クリスティーナの身体を刺すような快感が走り抜ける。
そっと引っ掻かれるたびに、何度も何度も、それは現れた。
「ぁ……」
強過ぎる刺激に、クリスティーナの喉の奥から勝手にか細い声が漏れる。息をしようとしてもうまく吸えなくて、はくはくと喘いだ。
「ティナ……クリスティーナ」
呼ばれて目蓋に力を込めて持ち上げると、マクシミリアンが真っ直ぐに彼女を見つめていた。はしたない姿を見られて恥ずかしいと思うのに、同時に、その眼差しが心地良い。
無性に彼を抱き締めたくなって、そうする代わりに、クリスティーナは彼の肩に置いていた手を滑らせ頬を包み込んだ。
いつも寝る前に剃っているのに、今日はまだなのか、ザラついている。
自分とは違うその肌触りが、クリスティーナには不思議な感じだ。不思議で、手放しがたい。
そうやってクリスティーナに自分を触れさせたまま、マクシミリアンが手を滑らせた。
胸から脇腹、そしてさらにその下へ。
普段は慎ましく閉じている膝の間に今は彼の大きな身体が割り込んでいるから、彼女はとても無防備だった。
マクシミリアンの指先が、くすぐるように柔らかな茂みを探る。
すぐに見つけ出されてしまった敏感な蕾は、彼に触れられた瞬間、執拗にその存在を主張してきた。
「ひ、ぁ」
ビリ、と痺れが走って、思わずがっしりしたマクシミリアンの首にしがみ付いた。
クリスティーナが打ち震えていても彼の手は止まることなく一層彼女を掻き立てる。
暴かれた花芯をゆっくりとこねられ、クリスティーナの身体の奥ではすさまじい勢いで疼きが高まっていく。
「やぁ」
勝手に下腹に力がこもって、波打った。
頭の天辺から爪の先までマクシミリアンが与えてくれる感覚でいっぱいになってしまって、何も考えられない。とにかくギュウギュウ彼にしがみ付くと、小さな笑い声が聞こえた気がした。
「マク……マクシ、……ァン、さま……」
「ティナ、力を抜け」
彼の声で聴いた自分の名前に、背筋がゾクゾクする。
「名前、名前を……」
「呼んで欲しいのか?」
声が出せずにマクシミリアンの首筋に顔を埋めたままこくこくと何度も頷いた。
「ティナ――ティナ」
「んん」
呼ばれるたび、ズクンとクリスティーナの全身が疼く。
何かが欲しい。
欲しくてたまらない。
多分、きっと、マクシミリアンが与えてくれるもの。
でも、それはいったい何なのだろう。
真っ白になってしまった頭では、ろくに考えることなどできない。
だから、唯一思い浮かんだものだけを、繰り返し口にした。
「マクシ、さま……マクシミリアン、さま……」
と、しがみ付いている大きな身体が、ブルリと震える。
「マクシミリアン、さま?」
「貴女に触れたい……いいか?」
低くこもった、唸るような声。
今でもこれ以上ないというほど触れているというのに、それは奇妙な問いかけだった。
いぶかしく思いながらも、クリスティーナは頷く。
「わたくしも、マクシミリアンさまに触れて欲しいです」
そう答えれば、ほ、とマクシミリアンが小さく息をつき、強張っていた肩から少し力が抜けたのが感じられた。
「痛かったら、言ってくれ」
そう言い置いて、彼の手が動く。
更に、奥へ、マクシミリアンを受け止める、その場所へと。
そっと、彼の指が彼女をなぞった。
ぬるりと、潤んだ感触。
「もう、溢れている」
自覚していたことを言葉にされて、クリスティーナの頬にカッと血が上った。
マクシミリアンは真っ赤になっているに違いない彼女の頬に軽くキスをする。そうして潤う場所に置いていた指を二、三度行き来させ、充分過ぎるほどに蜜が溢れていることを確かめてから、中心でその手を止めた。
ツプリ、とクリスティーナの中にマクシミリアンの指が沈み込んでくる。
クリスティーナを見下ろしてくるマクシミリアンの表情は真剣で、ほんの少しでも彼女が眉をしかめるようなことがあればすぐさまその動きを止めようというのがありありと伝わってくる。
これ以上はないというほど慎重な動きで、マクシミリアンの指がクリスティーナの中を数度行ったり来たりした。
「痛くはないか?」
案ずる眼差しで尋ねられて、クリスティーナはこくりと頷く。
「……増やすから、少しきついかもしれない」
「大丈夫、です」
言葉だけでは足りない気がして、クリスティーナは微笑んだ。彼の為すことに対して、不安は一切覚えない。強過ぎる快楽は自分がおかしくなってしまった気がして少し怖くなるけれど、それさえも、彼が与えてくれるものなのだから、と、いつしか受け入れつつあった。
マクシミリアンは頭を下げて唇を重ねると、宣言通りに、彼女の中を探る指を追加する。
確かに、段違いに圧迫感が増した。
けれど、痛くはない。
この上なく親密な行為が、少し恥ずかしてくて、とても嬉しい。
マクシミリアンの二本の指は奥へ奥へと進んできて、クリスティーナを知り尽くそうとするかのように、彼女の中を隈なくまさぐる。
その先端が、クリスティーナの奥深くの一点をこすった時だった。
「ふぁ!?」
それまではなかった強い刺激に、彼女はビクリと身体を跳ねさせる。
「……ここか?」
「え?」
なんのことか判らず覚束ない眼差しで見上げると、マクシミリアンの目は暗く陰っていた。彼は無言で、さっきと同じ場所を、さっきよりも強く、こする。
「ん、ん」
マクシミリアンの動きに合わせてキュウッとクリスティーナの身体の奥が縮こまり、彼女の中にある彼の指を締め付ける。
それは静かにクリスティーナのこめかみを伝う滴を優しく拭い、離れていくことなく、また新たにこぼれてくるものを堰き止めようとするかのように彼女の目尻に押し当てられた。
「泣かないでくれ。貴女に泣かれると、俺は死にそうになる」
彼女をきつく抱き締めたマクシミリアンがほとんど唸り声といってもいいような声でそう囁くから、クリスティーナはびっくりして涙なんて引っ込んでしまう。
「いやです」
とっさに、クリスティーナはそう答えていた。
マクシミリアンが死んでしまうだなんて、考えることすらできなかったから。
けれど、彼は、クリスティーナのその返事に眉を下げる。
「何故だ? 俺が傍にいるからか?」
その表情は、見るからに、『打ちひしがれた』と言わんばかりで。
マクシミリアンの言葉の意味が掴めずポカンと彼を見上げてしまったクリスティーナに、彼はうなだれ、小さく息をついた。大きな身体が離れていこうとして、彼女の目の前をがっしりした腕が横切る。マクシミリアンの言動は訳が解からなったけれど、今彼を行かせてしまったらまたこじれてしまうだろうということだけは判って、思わずクリスティーナははっしと彼の腕を掴み、勢い余って爪を立ててしまった。
マクシミリアンは眉をひそめて自分の腕を掴んでいるクリスティーナの手を見つめ、次いで彼女の目を見つめた。
「ティナ」
彼女の名を呼ぶその声に含まれるのは、懇願だ。
言葉では、彼は、彼女に、手を放してもらいたがっている。
(でも、本当に?)
本当に、マクシミリアンは自分から離れたいと思っているのだろうか。
クリスティーナは懸命に頭を働かせ、今の遣り取りについて考えた。
(マクシミリアンさまは、わたくしに、泣かないで欲しい――死にそうになる、とおっしゃった。わたくしは、死んではいやだと、お答えした。マクシミリアンさまはがっかりされて、離れようとされた)
――つながっていない気がする。
どこがおかしいのかと考えて、クリスティーナは思い至った。
(「泣かないで」に対して「いやだ」と申し上げたと思われたのね)
悟ったとたん、彼女は、つい、気の抜けた笑いを漏らしてしまった。
何故、いつもこんなに言葉が通い合わないのだろう。とても簡単なことしか言っていないのに。
「ティナ?」
今度は憮然とした声。
クリスティーナは微笑み、マクシミリアンを見上げた。
「『いや』はマクシミリアンさまが死にそうになる、とおっしゃったことに対してのお返事です。わたくしは……マクシミリアンさまにお傍にいて欲しいです。行ってしまわれたら、独りで泣きます」
間違いのないように、はっきりと、明確に、クリスティーナは自分の気持ちを口にした。そうして、マクシミリアンの腕をしっかりと握り締めたまま、彼を見つめる。これでもちゃんと伝わらないのだとしたら、今度こそ、どうしたら良いのかわからなくなる。
まっすぐにマクシミリアンを見つめるクリスティーナの眼差しを受け止め、彼の顎にグッと力がこもった。
唸り声が続く。
「そんなことを言ったらどういう目に遭うか、判っているのか……?」
不自然なままの姿勢で全身に緊張をみなぎらせているマクシミリアンに、クリスティーナは柔らかな笑みを返した。
「マクシミリアンさまは酷いことを為さらないということだけは、判っています」
マクシミリアンの大きな手が、固い拳になる。筋が浮くほどきつく両手を握り締めた直後、パッと彼が動いた。
あ、と思ったときには、もう、クリスティーナの唇は塞がれていて、小さな驚きの声はそのままマクシミリアンの口の中へと溶けていく。
クリスティーナの両耳を塞ぐように彼女の頭を掴んで、彼は、喰らい尽さんばかりに唇を貪ってくる。すぐさま歯列をこじ開け侵入してきた温かな舌を、クリスティーナは懸命に受け入れた。
マクシミリアンはクリスティーナの口内を余すところなくまさぐり、奥に引っ込みがちな彼女の舌を絡めとる。耳を塞がれているせいか口腔の中での水音が頭の中に響くようで、くらくらした。
苦しい息でマクシミリアンに追い付こうとしているクリスティーナの両膝を、彼の骨張った膝が割り開いた。彼はそのまま彼女を抱き締め、グッと腰を引き寄せる。
途端、クリスティーナの下腹に、硬く昂ったものが押し付けられた。その熱さに、彼女はハッと息を呑む。
その気配が伝わったのか、刹那マクシミリアンが肩を強張らせ、弾かれたように唇を放した。
「すまない、抑えが利かない」
クリスティーナと同じくらい息を切らしたマクシミリアンが、呟いた。彼は震えていて、あまりに苦しそうで、彼女の胸が締め付けられる。
自分よりもはるかに大きな身体をした彼を、慰めたい。
クリスティーナのことになるといつも謝ってばかりの彼が、愛おしい。
「大丈夫、大丈夫、ですから……」
宥めるように囁きながら、彼女は目の前にある彼の顔に何度も口付ける。それがキスという行為だという意識もなく、ただ、こみ上げる衝動に駆られて繰り返した。
マクシミリアンは黙ってそれを受け入れていたけれど、クリスティーナが逞しい首筋に唇を寄せたとたん、一際大きく身震いする。
嫌だったのだろうかと動きを止めると、食い入るように見つめてきていた彼の眼差しに、気が付いた。
「マクシミリアンさま?」
そっと呼びかけると、唸るような声だけが返ってくる。
マクシミリアンが感じていること、考えていることを読み取りたくて眉をひそめてクリスティーナが彼を見上げていると、ふわりと唇が重ねられた。
じきにそれは彼女の奥を探る深いものになったけれども、さっきまでのような貪欲で飢えたものではなく、穏やかでゆったりとしたものだった。
時々、マクシミリアンは唇を浮かせて、クリスティーナに息を継ぐ猶予を与えてくれる。
クリスティーナが呼吸を整えている間も彼の手は彼女の肌を辿り、ひと撫でするごとに快楽の火を灯していく。
首筋や脇腹――皮膚の薄いところをくすぐるように触れられると、そのたびに身体の奥がズクリと疼いた。
やがてマクシミリアンの唇はクリスティーナの唇から離れ、顎に、首に、鎖骨にと移っていく。彼は唇で触れるだけでなく、舌を這わせ、時に優しく歯を立てた。
彼が動くたび、指先まで甘くしびれる。
「マクシミリアン、さま……」
吐息で彼の名を呼ぶと、それに応えるように、唇にキスが戻ってくる。
(この方との、キスが好き)
とりわけ、こういう、優しいキスが。
蕩けた頭で、クリスティーナはそんなことを考える。
うっとりとマクシミリアンの唇を受け止めていたクリスティーナの胸が、大きな掌で包み込まれた。マクシミリアンもアルマンも、屋敷中の者がこぞって食べろ食べろと言うせいで、華奢さはそのままに、彼女の肢体は徐々に丸みを増しつつある。とは言えまだまだ『豊満』とは程遠いそれを、武骨な手がやわりと揉んだ。
「は、ぅ……」
思わず吐息が漏れた。
普段意識したこともない先端が、疼く。
もどかしい。
マクシミリアンの唇も手も震えるほどの快楽をもたらしてくれるのに、何かが足りない気がする。あるいは、わざと、焦点をずらされているような、気が。
もっと、触れて欲しい。
もっと――
クリスティーナは縋りついていたマクシミリアンの厚い肩に爪を立てる。
と、まるでクリスティーナのその心の声が届いたかのようにマクシミリアンがチラリと彼女の目に視線をよこしてから、その頭をさらに下げた。
右の胸の、疼いて仕方がなかったその場所が、彼の口に包まれる。
「ゃあ、ぁん」
強く吸われた瞬間、クリスティーナは身体の中心がキュッと縮こまった気がした。硬くなった先端を舌で転がされれば、その場所がジンジンと痺れる。
クリスティーナは満ちてくる快感を散らそうと、背を反らせ、身をよじった。けれど、効果がない。
震え始めた彼女のもう一方の胸の蕾を、マクシミリアンの指がからかった。
ツンと立ち上がった先端を少しがさつく彼の親指の腹が優しくこねる。思わずクリスティーナが固く目をつむると、今度はその場所に爪を立てられた。
刹那、クリスティーナの身体を刺すような快感が走り抜ける。
そっと引っ掻かれるたびに、何度も何度も、それは現れた。
「ぁ……」
強過ぎる刺激に、クリスティーナの喉の奥から勝手にか細い声が漏れる。息をしようとしてもうまく吸えなくて、はくはくと喘いだ。
「ティナ……クリスティーナ」
呼ばれて目蓋に力を込めて持ち上げると、マクシミリアンが真っ直ぐに彼女を見つめていた。はしたない姿を見られて恥ずかしいと思うのに、同時に、その眼差しが心地良い。
無性に彼を抱き締めたくなって、そうする代わりに、クリスティーナは彼の肩に置いていた手を滑らせ頬を包み込んだ。
いつも寝る前に剃っているのに、今日はまだなのか、ザラついている。
自分とは違うその肌触りが、クリスティーナには不思議な感じだ。不思議で、手放しがたい。
そうやってクリスティーナに自分を触れさせたまま、マクシミリアンが手を滑らせた。
胸から脇腹、そしてさらにその下へ。
普段は慎ましく閉じている膝の間に今は彼の大きな身体が割り込んでいるから、彼女はとても無防備だった。
マクシミリアンの指先が、くすぐるように柔らかな茂みを探る。
すぐに見つけ出されてしまった敏感な蕾は、彼に触れられた瞬間、執拗にその存在を主張してきた。
「ひ、ぁ」
ビリ、と痺れが走って、思わずがっしりしたマクシミリアンの首にしがみ付いた。
クリスティーナが打ち震えていても彼の手は止まることなく一層彼女を掻き立てる。
暴かれた花芯をゆっくりとこねられ、クリスティーナの身体の奥ではすさまじい勢いで疼きが高まっていく。
「やぁ」
勝手に下腹に力がこもって、波打った。
頭の天辺から爪の先までマクシミリアンが与えてくれる感覚でいっぱいになってしまって、何も考えられない。とにかくギュウギュウ彼にしがみ付くと、小さな笑い声が聞こえた気がした。
「マク……マクシ、……ァン、さま……」
「ティナ、力を抜け」
彼の声で聴いた自分の名前に、背筋がゾクゾクする。
「名前、名前を……」
「呼んで欲しいのか?」
声が出せずにマクシミリアンの首筋に顔を埋めたままこくこくと何度も頷いた。
「ティナ――ティナ」
「んん」
呼ばれるたび、ズクンとクリスティーナの全身が疼く。
何かが欲しい。
欲しくてたまらない。
多分、きっと、マクシミリアンが与えてくれるもの。
でも、それはいったい何なのだろう。
真っ白になってしまった頭では、ろくに考えることなどできない。
だから、唯一思い浮かんだものだけを、繰り返し口にした。
「マクシ、さま……マクシミリアン、さま……」
と、しがみ付いている大きな身体が、ブルリと震える。
「マクシミリアン、さま?」
「貴女に触れたい……いいか?」
低くこもった、唸るような声。
今でもこれ以上ないというほど触れているというのに、それは奇妙な問いかけだった。
いぶかしく思いながらも、クリスティーナは頷く。
「わたくしも、マクシミリアンさまに触れて欲しいです」
そう答えれば、ほ、とマクシミリアンが小さく息をつき、強張っていた肩から少し力が抜けたのが感じられた。
「痛かったら、言ってくれ」
そう言い置いて、彼の手が動く。
更に、奥へ、マクシミリアンを受け止める、その場所へと。
そっと、彼の指が彼女をなぞった。
ぬるりと、潤んだ感触。
「もう、溢れている」
自覚していたことを言葉にされて、クリスティーナの頬にカッと血が上った。
マクシミリアンは真っ赤になっているに違いない彼女の頬に軽くキスをする。そうして潤う場所に置いていた指を二、三度行き来させ、充分過ぎるほどに蜜が溢れていることを確かめてから、中心でその手を止めた。
ツプリ、とクリスティーナの中にマクシミリアンの指が沈み込んでくる。
クリスティーナを見下ろしてくるマクシミリアンの表情は真剣で、ほんの少しでも彼女が眉をしかめるようなことがあればすぐさまその動きを止めようというのがありありと伝わってくる。
これ以上はないというほど慎重な動きで、マクシミリアンの指がクリスティーナの中を数度行ったり来たりした。
「痛くはないか?」
案ずる眼差しで尋ねられて、クリスティーナはこくりと頷く。
「……増やすから、少しきついかもしれない」
「大丈夫、です」
言葉だけでは足りない気がして、クリスティーナは微笑んだ。彼の為すことに対して、不安は一切覚えない。強過ぎる快楽は自分がおかしくなってしまった気がして少し怖くなるけれど、それさえも、彼が与えてくれるものなのだから、と、いつしか受け入れつつあった。
マクシミリアンは頭を下げて唇を重ねると、宣言通りに、彼女の中を探る指を追加する。
確かに、段違いに圧迫感が増した。
けれど、痛くはない。
この上なく親密な行為が、少し恥ずかしてくて、とても嬉しい。
マクシミリアンの二本の指は奥へ奥へと進んできて、クリスティーナを知り尽くそうとするかのように、彼女の中を隈なくまさぐる。
その先端が、クリスティーナの奥深くの一点をこすった時だった。
「ふぁ!?」
それまではなかった強い刺激に、彼女はビクリと身体を跳ねさせる。
「……ここか?」
「え?」
なんのことか判らず覚束ない眼差しで見上げると、マクシミリアンの目は暗く陰っていた。彼は無言で、さっきと同じ場所を、さっきよりも強く、こする。
「ん、ん」
マクシミリアンの動きに合わせてキュウッとクリスティーナの身体の奥が縮こまり、彼女の中にある彼の指を締め付ける。
1
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました
吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆
第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます!
かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」
なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。
そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。
なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!
しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。
そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる!
しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは?
それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!
そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。
奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。
※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」
※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく
愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。
貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。
そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。
いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。
涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。
似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。
年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。
・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。
・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。
・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。
・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。
・多分ハッピーエンド。
・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる