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初めての夜③

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 自分を気遣う想いが溢れているマクシミリアンの眼差しに、クリスティーナの胸は何かが詰まったように苦しくなる。今まで、彼女のことをこんなふうに見てくれた人は、いなかった。モニクも優しくしてくれるけれど、彼女はあくまでも侍女だ。やっぱりどこか一歩引いていて、これほど近く温かく感じることは、できなかった。

「わ、わた……し、怖、くて……貴方が為さることは、わたくしを、おかしくさせ――ん、んぅ」

 しゃくりあげながらのクリスティーナの弁明は、最後まで言い終えないうちにキスで遮られる。少し強引に入り込んできた舌はさっきよりも性急で、クリスティーナは食まれてしまうのではないかと思った。彼女の全てを奪おうとしているかのようなその口づけに付いていくのがやっとで、溢れていた涙も止まってしまう。

 ひとしきりクリスティーナの唇を貪って、マクシミリアンは彼女と額を合わせて小さく息をつく。

「すまない」

 かすれ声で彼が囁いたけれど、惚けたクリスティーナの頭では、それが何に対する謝罪なのか判断できなかった。
 ぐったりとした彼女を抱き寄せ、その耳に吹き込むようにしてマクシミリアンが言う。

「貴女が感じているものを、恐れなくていい。それはごく自然なことだ」

 言いながら、彼はぴたりと閉じているクリスティーナの両脚の間にそっと膝を挿し入れてきた。そうして、穏やかに、けれどもきっぱりと、がっしりとした腰を彼女に近付けてくる。
 クリスティーナよりも遥かに大柄なマクシミリアンがそんなことをすれば、彼女の脚は大きく開かされてしまう。
 今まで間に拳を置けるほどにも膝を開いたことのないクリスティーナは、恥じらうよりも先に面食らった。
 閉じようとすれば、間にある彼の腰を締め付けてしまう。ナイトドレスはいつの間にか脱がされていたから、腿の内側の敏感な素肌に彼がはいている絹の寝間着が触れた。

「マクシミリアンさま……?」
「力を抜いて。大丈夫、乱暴なことはもう決してしない。私を信じて欲しい」

 彼の眼差しは真剣で差し迫っていて、この声はほとんど懇願しているようだった。
 クリスティーナは頷いたけれど、言われたように力を抜くことはやっぱり難しい。

 それでも彼女の努力しようという気持ちは伝わったのか、マクシミリアンの目がほんの少し和らぐ。
 彼は触れるだけのキスを一つ、二つとクリスティーナの唇に落とし、彼女に覆い被さった。

 マクシミリアンの大きな手が、再びクリスティーナに触れてくる。
 火照った彼女の柔らかな皮膚よりも少しだけひんやりとした武骨な指が、くすぐるように触れては離れ、また触れる。それは怖いほどに敏感になったクリスティーナの肌の上をかすめるように動き、焼けつくような疼きを刻んでいく。

「ふ、ぁ……」
 それはとても軽い触れ方で、クリスティーナは知らず吐息を漏らした。

 胸のふくらみのすぐ下や脇腹――腰のくぼみ。
 そんなところをゆっくりと彼の手が辿るたび、胸をいじられている時とはまた違った心地良さが、ジワリと彼女の全身を満たしていく。
 そうしている間にもマクシミリアンの唇は絶え間なく動き、クリスティーナの目蓋、頬、耳、首筋――届くところ全てを埋め尽くさんばかりについばむようなキスを繰り返していた。

 マクシミリアンの指も唇もこの上なく優しくて、クリスティーナの頭はふわふわと浮いたような心持ちになってしまう。彼が与えてくれるものに溺れ、何一つまともに考えることができない。

「触れられて、嫌ではないだろう?」
 低い声が耳元で囁く。

「イヤでは、ないです。気持ち……いい……」

 躊躇なくそう答えた彼女の唇に、彼がチュ、と小さなキスを落とした。まるで、正直に答えたことを褒めてくれるように。

 やがてマクシミリアンの手はクリスティーナの腰を滑り下り、彼女の小さな膝を包み込んだ。
 彼はしばらくその丸みを撫でていたけれど、じきにその手をまた動かし始めた。それはわななく内腿をくすぐりながら、更に上へ上へと進んでくる。
 クリスティーナの感覚はどんどん鋭敏になっていって、脚の付け根のくぼみを彼の親指でそっと撫でられると、思わずビクリと腰を跳ねさせた。

「ぁ……」
 自分のものとは思えないか細く甘えた声が、零れた。なんだかはしたないような気がして、クリスティーナは両手で口を押える。と、マクシミリアンの大きな手がクリスティーナの華奢な手首をひとまとめに捉え、彼女の頭の上に押し付けてしまう。

「もっと、啼いてくれ」
 そう命じた彼のもう一方の手の指先が、クリスティーナの秘めやかな場所を守る和毛の茂みに潜り込んできた。そのとんでもない行為に、彼女は仰天する。

「やぁ、ダメ、そんな――」
 いくら夫婦になったといっても、さすがに、そんな場所までは触れさせられない。
 悲鳴じみた声を上げてクリスティーナは懸命に身をよじったけれど、彼女を押さえ込んでいるマクシミリアンの大きな身体はびくともしなかった。

「ダメ、ダメです、マクシミリアンさま。そんなところ、触れては――」
「だが、もっと準備をしないと、貴女の身体は私を受け入れないだろう」
「受け入れる……? わたくしは、もう、マクシミリアンさまのことを旦那さまと思っています」
 羞恥の涙で空色の目を曇らせて、クリスティーナは懸命に訴えた。

「そうではなくて……」
 ふと、マクシミリアンは何かに気が付いたようにクリスティーナを見下ろす目を細めた。
「貴女は、今我々がしていることが、何の為のものだと思っているのだ?」

「え?」

(この行為の、理由――?)

 理由など、クリスティーナは考えてもみなかった。ただ、夫婦になったものは、こうするのかと。

「その……夫婦の絆を深める、為……?」
 これほど親密な行為だから、繰り返していればきっと心の距離も縮められるに違いない。そう思っての、答えだった。

 彼女の返事に、マクシミリアンは一瞬沈黙する。
 そうして、は、と小さく息をついた。何となく、笑いも混じっていたような気がするのは、クリスティーナの願望だろうか。

「貴女は、本当に何も知らないのだな」
 クリスティーナの目を真っ直ぐに見下ろしながら呟くと、マクシミリアンは片手を彼女の下腹に押し当てた。その片手だけで、彼女の臍から下がすっぽりと覆われる。
「ここに、子が宿るのは知っているだろう?」

「はい」
 クリスティーナは頷いた。お腹を大きくした使用人は何人か見たことがあったから。

「今、している行為は、確かに貴女が言ったような意味合いもある。だが、同時に、私たちの子どもを授かる為の行為でもある」
「子ども……きゃ!?」

 いぶかしむ声が途中で悲鳴に変わったのは、何の予告もなくマクシミリアンがクリスティーナの脚の間に指を滑らせたからだ。モニクにも触れさせたことのない、場所に。

「ここに――」と言って彼がその指を動かすと、クチュリと湿った音がした。「ここから、私の子種を貴女の中に注ぎ込むんだ」
 その言葉とともに、マクシミリアンはゆっくりと指を前後させる。なぜかそこはヌルついていて、彼の指は何の抵抗もなく滑らかに動いていた。

 なんだか、触れられているところが熱い。触れられているところだけでなく、もっと奥の方も熱を持っている気がする。ムズムズして、勝手に下腹に力が入って、そうなることでまた疼きが強くなる。

「もう、準備は整い始めている。ここがこれほど潤っているのがその証だ」
「準備……? 潤って……?」
「この場所だ」

 一言の後、マクシミリアンの指が止まる。
 そして――

「あ……ぁ」

 クリスティーナは大きく喘いだ。

(何か、入って――)

 そこにそんな場所などないはずなのに、マクシミリアンの指が彼女の中に侵入してくるのが感じられる。それはゆっくりと、けれども着実に、誰も触れたことがないクリスティーナの深みを侵食していく。

「痛くはないか?」

 耳元で囁かれて、クリスティーナ唇をかんでかぶりを振る。
 奇妙な、感覚だった。
 クリスティーナの内部よりも少し冷たかった彼の指は、すぐに彼女と同じ温度になっていく。けれども、その存在感は全く衰えない。初めて押し開かれたその場所は指一本でもみっしりと充溢していた。

 マクシミリアンはクリスティーナの中を何度も行き来する。

「ふ……ぅ」

 ヌルつく内部を彼の指がこするたび、クリスティーナの肌は粟立った。出ていこうとすれば、彼女のその場所は、勝手にギュッと締め付けてしまう。

「もう一本、入れてもいいか?」

「もう、一……?」
 マクシミリアンが言おうとしていることが解からず、ぼんやりとクリスティーナは繰り返した。

「そうだ」
 その一言とともに彼の指が引き抜かれ、完全に出ていくことはなくまた入ってくる。
 今度は、それまでとは比べ物にならない圧迫感を伴って。

「あ……い、いた……」
 ピリリと、引き攣るような痛み。
 なぜそんな場所がそんなふうに痛むのかが解からない。解からないから、実際以上に、痛く感じられる。

 まだ拘束されたままの両手をきつく握りこんだクリスティーナに、マクシミリアンがいくつもキスを落としてくる。けれども、その手を止めようとはしなかった。
 ヌクヌクと、慎重に、容赦なく、押し入ってくる。

「ぅ、あ」
「大丈夫、大丈夫だから力を抜いて」

 マクシミリアンは何度も何度も囁いて、クリスティーナの目尻に滲んだ涙を唇で拭ってくれる。
 時間をかけて一番奥まで達すると、彼はようやくその動きを止めた。

「痛い、か?」
 鼻と鼻が触れ合いそうな距離で、眉間に深いしわを刻んだ深緑の目が覗き込んでくる。

 あんまり心配そうな眼差しを向けてくるから、まだ微かに痛みはあったけれどもクリスティーナは小さく微笑んだ。

「だいじょうぶ、です」
「そうか」

 マクシミリアンは返し、またそっとキスをしてくれる。柔らかな舌で口腔内を宥められて、その優しさに下腹の痛みはだんだん遠ざかっていった。

 クリスティーナの全身から力が抜けきった頃、マクシミリアンがまた動き始める。
 彼女の中に留まった二本の指はそのままに、彼の親指が淡い和毛の中を探る。
 それがある一点に触れたとき。

「ひッ」
 ビクンとクリスティーナの身体が跳ねる。

 マクシミリアンは捉えたそれを親指の腹で執拗に転がした。
 強い刺激ではない。
 触れるか触れないかという力で軽く当てられた指の腹が、その一点でゆっくりと円を描く。
 何度も、何度も、繰り返し、同じ速さで。

「あ……ぁ――ぅ」

 その動きとともに、クリスティーナの下腹全体にむず痒いような快感がじわりじわりと膨らんでいく。
 彼女の奥からは何かが溢れ、内部にみっちりと埋め込まれたマクシミリアンの指をとろりと包み込む。

「いや……いや……何か……」

 得体の知れない、圧倒的な何かが近づきつつあった。
 全身に、つま先に、力がこもる。
 身体の奥深くが引き締まる。
 息が苦しい。鼓動が跳ねる。
 全身から汗が噴き出して。

 ――そして、それは訪れた。

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