四季

トウリン

文字の大きさ
上 下
4 / 4

しおりを挟む
 朝起きて、カーテンの間から見えるのが真っ白な世界だったら、すっごくワクワクしない? あたしはする。めちゃくちゃ、する。いつもなら寒くてなかなかおふとんから出られないのを、ピョンって飛び出しちゃうくらい。
 今日が、そうだった。
「うわぁ、チィちゃん、起きて起きて!」
 となりで寝ているチィちゃんを揺さぶると、眠そうに目をこすりながらモソモソって起き上がった。
「どうしたの、なっちゃん?」
 いつもはチィちゃんの方が早起きなんだけどね。寝ぼけてる時のチィちゃんは、もう、転げまわりたくなるくらいに可愛くて、雪だけでも嬉しいのに、もっともっと得した気分になっちゃった。
「外、見てよ、ほら!」
「お外……?」
 あたしの言うとおりに四つん這いになって身を乗り出したチィちゃんは、窓の外を見て、元から大きな目を、もっと大きくする。
「雪だぁ……」
「ね?」
 ただの雪じゃなくて、たくさん積もった、雪。
「すごぉい。おひざくらいまで、あるかなぁ?」
「あるよ、絶対、ある。ね、早く行こうよ」
 足踏みしながらチィちゃんの手をひっぱると、仕方がないなぁっていう顔で笑いながらベッドから下りてくる。
「寒いね」
 そう言ってブルッてしたから、あたしはチィちゃんの手を握ってあげた。
「ふふ、なっちゃんの手ってあったかい。湯たんぽみたいだね」
 あたしの手を握り返してきたチィちゃんは、ふんわりと笑う。その笑顔に、あたしのおなかはホットチョコレートを飲んだ時みたいに、ほっこりとあったかくなった。

   *

 朝ごはんを食べてから、あたしとチィちゃんはお外に飛び出した。
 色々なものが光を弾いて、あちらこちらがキラキラしてる。
 雪はやっぱりひざのちょっとしたくらいまで積もっていて、よっこいしょって足を上げながらじゃないと歩けなかった。あたしよりももうちょっと小さいチィちゃんはひざの上まで埋まっちゃって、もっと大変そう。
「かまくら、つくろっか。雪玉転がしたら、道もできるよ?」
 あたしが言うと、少し息を切らしたチィちゃんも頷いた。
「そうだね」
 始まりは、小さな雪玉。
 それを転がすと、だんだん大きくなっていく。
 あたしのおなかよりも少し高いくらいになったら、なかなか動かなくなった。
「チィちゃん、もう、このくらいにしようか。あとは、スコップで大きくしようよ」
「うん」
「じゃ、スコップ取ってくるから、チィちゃんはちょっと待ってて」
 玄関のドアの横に置いておいた二つのスコップを取ると、引きずりながらチィちゃんのところに戻った。片方をチィちゃんに渡して、雪玉にどんどん雪をのせていく。
 時々、スコップでトントンって叩いて、山を硬くして。入ってる時につぶれちゃったら、大変だからね。あたしの背丈よりも高くなったら木箱を持ってきて、その上にのって、また、トントン。
 時間はかかったけど、けっこう大きな山ができあがった。
「このくらいでいいかな?」
 あたしがそうきくと、チィちゃんは雪山をペタペタ触って確かめて、うなずく。
「だいじょうぶそう」
「じゃあ、中をくり抜こっか」
 空のお日さまが一番高いところをちょっと過ぎた頃、かまくらはできあがった。あたしとチィちゃんが入ったら、それだけでいっぱいになっちゃうような、小さなかまくら。
 でも、あたしは大満足だった。チィちゃんも、かまくらを見上げながら隣でニコニコしてる。しばらくそうしていたけれど、あたしのおなかがクルクルって、鳴き声を上げた。
「ふふ、なっちゃんのおなかって、正直だね。もうお昼ごはんの時間だよ。何か食べよう?」
「んー、じゃあ、この中で食べよっか?」
 あたしがかまくらを指差すと、チィちゃんはちょっと考えて、首をかしげた。
「でも、せまいよ?」
「せっかく作ったんだもん、いいでしょ?」
 両手を合わせて、おねだりしてみる。チィちゃんはまた少し迷ってたみたいだけど、うなずいてくれた。
「じゃあ、お外で食べられるものにしよ? サンドイッチとか」
「ありがとう!」
 あたしがギュッてすると、チィちゃんはくすぐったそうに声をあげた。

   *

 かまくらの中は、あたしとチィちゃんでいっぱいいっぱいだった。ピッタリ身体をくっつけて、卵サラダのサンドイッチを食べて、カボチャのポタージュスープをすする。
 かまくらの外は、いつの間にか、またサラサラの粉雪が落ちてきてた。
 積もった雪が音を吸い込んで、とっても静か。
 セーターごしにチィちゃんの温度が伝わってきて、あたしはそこからじんわりとあったかくなる。
 他にはだぁれもいなくって、あたしとチィちゃんの二人きり。
 そう思ったら、何となく、胸の中がキュゥンってなった。
 あたしは、チィちゃんの頭に頬ずりする。
「なっちゃん?」
 あたしは返事をしなかった。
 チィちゃんはちょっと首をかしげて、話し出す。
「あのね、雪って、六花っていうふうにも呼ぶんだって。ほら、虫めがねでのぞくと、お花みたいにみえるでしょ?」
 優しくて甘い、チィちゃんの声。
 ……しあわせ、だな。
 フワッて胸の奥から浮き上がってくるみたいに、そんな気持ちになる。
「チィちゃん、大好き」
 あたしが言うと、チィちゃんは目をぱちくりさせた。そして、言う。
「あたしも、なっちゃんのことが大好きだよ」
 チィちゃんは、笑う。
 花が咲いたように、ふんわりと。雪の中の、たった一輪の、花。
 チィちゃんといっしょなら、いつでもあたしはしあわせなんだ。
 だから、あたしとチィちゃんは、ずっといっしょ。
 きっと、チィちゃんも同じ気持ち。
 そうでしょ、チィちゃん?
 お母さんのおなかの中のふたごみたいに寄り添って、あたしとチィちゃんはいつまでも雪が降るのを眺めてたんだ。

 いつまでも、ね。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

卯月堂の空にクジラが歌う

ねじまる
キャラ文芸
※こちらの作品はエブリスタでも掲載しております。「おいしい小説特集」にて選出されました! 月見町、月の丘。 そこにはまだ開店して間もない新しいカフェがありました。 「私達」にはちょっと不思議でも「彼ら」からすれば日常的なこと。 そんな世界を舞台にしたお話です。 四人の青年達が働くカフェ―― ほんわかとした雰囲気をどうぞ召し上がれ。

貴女に勝つまで私は闘い続けるよ

楠富 つかさ
キャラ文芸
画期的な技術によって誕生したVR世界、時が経ちやがて全身の感覚をVRに委ねる技術が生まれた。多くのスポーツがVR世界に旅立ち、主流化していった。そのスポーツの一つに、スポーツチャンバラがあった。 肉体、そして怪我という拘束から解き放たれたVRスポーツチャンバラは多くの近接武器、果ては徒手空拳までをも巻き込み、ヴァーチャルリアリティスポーツコンバット、通称VRSCまたはブルスクと呼ばれるようになった。 この新たなスポーツは現代日本人が忘れつつあった闘争本能に火を点け爆発的な人気を得た。 この物語はそんなブルスクが大人気な21世紀終盤の日本で出会った二人の少女のお話。特に大きな陰謀に巻き込まれるわけでもない、二人のゆりゆりっとしたようでそうでもない、日常のお話

コーヒーショップ「へびいちご」

富井
キャラ文芸
変な三人の男シリーズ、第一弾!ここはアニューの店。 店に荷物を持って来た青年を、変な三人の男がこの店で待っています。 そこにいる三人の男の目論見は・・・ ◆アニュー あくま ◆ミッチェ 死神 ◆フィッシュ 吸血鬼 なんだか、へろっとしたいときに読んでください。

嫌犬2nd

藤和
キャラ文芸
『嫌犬』のあのコンビが帰ってきた! 相変わらず高等遊民な主人公と、少し嫌な感じの喋る犬。 愉快な仲間達と過ごす約二年半をお楽しみ下さい。

Lizette~オーダーケーキは食べないで~

蒼衣ユイ/広瀬由衣
キャラ文芸
忽然と現れ消えるカフェ【Lizette】 そこにいるのは心の闇をオーダーケーキにする少女リゼットと、彼女を守る青年リンフォード。 殺意を向けられた人間が今日もLizetteに辿り着く。 ■ORDER01. 殺意の生クリーム 向日葵(むかいあおい)の片想い相手が弟の遺体と共に失踪した。 失踪理由は弟の死に目に会えなかったからだと噂され、その時一緒にいたのが葵だった。 犯人扱いをされ陰口を叩かれた葵は引きこもった。 そんなある日、芸術的なオーダーケーキに魅了され半年ぶりに外へ出る。 そして葵はLizetteでミルクティのようなお姫様、リゼットに出会う。 「オーダーの打ち合わせをしましょうか、向日葵(ひまわり)ちゃん」

ま性戦隊シマパンダー

九情承太郎
キャラ文芸
 魔性のオーパーツ「中二病プリンター」により、ノベルワナビー(小説家志望)の作品から次々に現れるアホ…個性的な敵キャラたちが、現実世界(特に関東地方)に被害を与えていた。  警察や軍隊で相手にしきれないアホ…個性的な敵キャラに対処するために、多くの民間戦隊が立ち上がった!  そんな戦隊の一つ、極秘戦隊スクリーマーズの一員ブルースクリーマー・入谷恐子は、迂闊な行動が重なり、シマパンの力で戦う戦士「シマパンダー」と勘違いされて悪目立ちしてしまう(笑)  誤解が解ける日は、果たして来るのであろうか?  たぶん、ない! ま性(まぬけな性分)の戦士シマパンダーによるスーパー戦隊コメディの決定版。笑い死にを恐れぬならば、読むがいい!! 他の小説サイトでも公開しています。 表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。

水族館cafe

まいちん*
キャラ文芸
水と命が織りなす素敵な世界。 そこで働き始めた僕の物語。

処理中です...