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おっさん、ドラゴンを討伐する

フルアーマーダンテ!

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「お、おじ様、その武器は……!?」

 ハイデマリーが驚いたのは、ダンテがマントを脱ぎ捨てたから、だけではない。
 そんな程度では、そもそも誰も驚かない。
 彼女やアルフォンスが驚愕きょうがくしたのは――ダンテが全身に、刃物や鈍器、ありとあらゆる武器を巻きつけて装備していたからだ。
 しかも、すさまじい重量であろう武具をつけていながら、彼がいつもと変わらない様子で、ついさっきまで動いていた事実を知ったからだ。

「大したもんじゃないさ。ユドノーに残ってた騎士の武器を少しだけいじくって、拝借しただけだ」

 ダンテは当たり前のように話しながら、右腕に巻いたロープを解く。

「俺はアルやマリーみたいに、魔法を使えないからな。だから……こうする!」

 そして先端にナイフのついたロープを、思い切り投擲とうてきした。

『ギイイイイ!?』

 ナイフはモンスターの頭を串刺しにして、貫通する。
 間髪入れずダンテはナイフを引き抜くと、勢いを弱めず、他のモンスターに突き刺す。

『ギャギャアアアア!?』

 体の一部に刺さった程度で死なないなら、彼はロープを引っ張って、頭を地面に激突させて首の骨をへし折る。
 常軌を逸した技の連発に、グライスナー兄妹も思わず、剣を振るう手を止めてしまう。

「ロープとナイフで、遠距離攻撃を!?」
「しかもロープの節目に、別の刃物をくくりつけるとは。人間相手には残虐過ぎて使えませんが、モンスター相手にはいい武器ですね」

 二人は感心するが、しょせんは即席の武器で、壊れるのも早い。
 もっとも、ダンテにとっては耐久力の低さも織り込み済みだ。

「おっと、ここまでか。じゃあ次だな」

 ロープが千切れると、今度は腰に挟んでいた三節棍を振るい、ワイバーンの頭を殴り潰す。
 反対側からゴブリンが迫ると、手首に仕込んでいたナイフで眼球をえぐり抜く。

「三節棍に、仕込みナイフまで……!」
「ダンテさん、いったいどれだけの武器を体に隠してきたのですか?」
「まだ半分も見せてねえよ。それより、もっと暴れて山を登るぞ!」

 驚くアルフォンスとハイデマリーを率いて、ダンテは山道を駆け出した。

「はああッ!」

 信じられない量の武器が、ダンテの全身から飛び出す。
 剣、ナイフ、ハンマー、ブーメラン、かぎ爪、ロッド、刺突用のただの棒。
 何もかも、すべてダンテが使えば致死の凶器となりうる。

『ウギャア!』

 ワイバーンの翼が斬られ、ゴブリンの手足がもがれ、オークの腹に風穴が開き、スライムがみじん切りにされる。
 使った武器の総数が50を超える頃には、ダンテの周りには悲鳴としたいだけが積み重なる地獄が生み出されていた。

『『ギギギイイイイ!?』』

 それでも、まだモンスターの群れウェイブは収まらない。
 むしろ仲間の死を怒りに変えて、一層勢いを増しているかのようだ。

「メルカビス山のモンスターが総出で来てるみたいだな! じゃなきゃ、もうとっくにモンスターがいなくなっててもおかしくないぞ!」

 折れた三節棍でリザードマンの心臓を貫きながら、ダンテが吼える。

「おそらくはこの山だけでなく、他の地域からも集めています! 騎士団に報告されているモンスターの総数を、明らかに超えていますから!」
「まったく、ギラヴィとやらにどれほどのカリスマがありますの!?」

 赤い魔力の鞭でワイバーンを三匹まとめて引き千切るハイデマリーと、白い刃で木々もろともトレントを八つ裂きにするアルフォンス。
 彼らの力は未だ衰えないが、魔力を使っている以上、いつか限界は訪れる。
 そしてそれは間違いなく、モンスターの襲撃が終わるよりも早い。

「あいつにカリスマはねえよ。あるのは焚きつける言葉の強さと、自分に従わないやつをためらいなく殺す冷酷さだけだ」
「まるで人間の暴君のようですね」
「気づいてないのは、あいつだけだよ。一番憎んでる人間に、近づいてるなんてな」

 そう言いながら、ダンテはオークの頭をハンマーで殴り潰す。
 同時に強度の限界を迎えたのか、武器がぼきり、と嫌な音を立てて折れた。

「ハンマーの強度も、案外低いもんだな。ま、武器はまだまだあるぜ」

 ダンテが新たに取り出したのは、腰に巻いていた鎖と、先端につないだ2本のナイフ、ポケットから取り出したナックルダスター。

「もう、体の中から武器が出てきたって、私は驚きませんよ」

 アルフォンスが冗談めいた言葉を放つと、ダンテが笑い、再びモンスターに攻撃した。
 3人の圧倒的な力は、モンスターを近づけないまま、彼らをとうとうギラヴィの元へと相当近づけた。

「じき中腹に辿り着きますが、まだギラヴィは出てきませんわね!」

 まだギラヴィの興味を引かないのか、あるいはあちらが思っているより冷静なのか。
 いずれにせよ、グライスナー兄妹としては、ここが踏ん張りどころだ。

「私やマリーの魔力にも制限があります、一時的にですが能力を解除します! マリー、私と背中合わせで、隙を減らすぞ!」
「はい! おじ様、援護を!」
「任せろ」

 グライスナー兄妹の体から放たれる魔力が、一層大きくなる。
 可視化された白と赤のオーラは強烈で、見ただけで一部のモンスターがひるみ、動けなくなるほどだ。
 あれに近づけば死ぬのだと、直観しているのだ。

『『ウゴオオオオ!』』

 そんな群れを鼓舞するのは、森の奥から出てきた新手のモンスター。
 木製の兜と鎧を身に纏い、棍棒ではなく巨大な斧を装備した、灰色のオークだ。

「驚いた、ハイオークの群れか」

 20匹からなるモンスターの群れが、並の冒険者であれば一ひねりで殺してしまう入オークであると、ダンテも知っている。

「上級ランクのモンスターまで率いるなんて!」
「道理で、包丁くらいじゃまともなダメージを与えられないわけだ」
「しかもまだまだ、群れの勢いが収まりませんね。数年前にスタンピードが発生しましたが、群れの密度で言えば、あの時と同じくらいでしょう」
「だったら、いい加減本命の武器を使ってやらないとな」

 鎖とナックルダスターを捨てたダンテは、いよいよ腰に差した、愛用のナイフに手をかける。
 これまで様々な敵を屠ってきた、アザトートクロム製のナイフだ。

「ギラヴィがここに来るまでに、あいつのしもべとやらを細切れにしてやるか――」

 そしてナイフを構えたダンテが、ハイオークをまとめて切り払おうとした時だった。

『ウギャアアアースッ!?』

 突如として、強烈な爆発が起きた。
 とんでもない勢いの土埃つちぼこりと共に、ハイオークの群れはあっという間に肉片と化した。
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