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おっさん、A級冒険者の闇を暴く

本当の強さとは

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「――はっ」

 ギルドの入り口で倒れてから、どれくらい経っただろうか。
 大ケガを負ったエヴリンが目を覚ましたのは、どこぞのベッドの上だった。
 首だけを動かしてみると、清潔せいけつな部屋とカーテンに、同じようにケガをした人がベッドに寝かされているのが見える。
 かろうじて動くらしい上体を起こそうとすると、カーテンの向こうから声が聞こえた。

「目が覚めた?」

 姿を見せたのは、ダンテやセレナ達『セレナ団』の面々だ。

「……ここは……」
「冒険者専門の診療所。あたし達が助けなかったら、あんたはギルドの玄関で死んでたよ」

 なるほど確かに、治療を受けているのは誰もが冒険者のようだ。
 そして自分は、よりによってセレナにギルドで介抱され、ここまで連れてこられたらしい。

「……フン……C級冒険者に助けられるなんて、赤っ恥もいいところだわ……」

 エヴリンが苦々しげにつぶやくと、セレナが眉を吊り上げた。

「オフィーリア、さっきのクッキーちょうだい」
「はい、どうぞ」

 そしてオフィーリアが持っていた袋からお手製クッキーをひとつ掴み取ると、エヴリンの口を乱暴に開いて押し込もうとした。

「ちょっと、何よそれ!? クッキーじゃなくてどう見てもウン……もごご!?」
「薬草がいっぱい入ってる、体にいいクッキーだよ! ほら、まだケガは治ってないし、全部食べろっつーの!」
「むぐ、ごぶ……おえっ……」

 エヴリンからすれば、セレナが自分の口にウンコを押し込んでいるようなものだ。
 必死に抵抗するも、怪我人の腕力ではとてもあらがえない。

「すごい絵面だよね」
「まあ、これくらいしてやってもバチは当たらねえよ」

 リンとダンテが頷き合う中、エヴリンはどうにかクッキーを呑み込んだ。

「ひ、ひどい味……病人食でも、ここまで苦くないわ……」
「俺達をハメた罰が、今になって返ってきたとでも思うんだな」

 セレナの肩を軽く叩き、今度はダンテが前に出る。

「エヴリン、俺もオフィーリアも、リンも助けるのをためらった。俺は別に善人でも正義の味方でもないし、オフィーリアは事情を知らない。リンは、お前らに殺されかけたからな」

 自分の行いに心当たりがあるからか、エヴリンは目を背けた。
 実際、彼女はセレナ達をあおり、死地におもむかせた張本人である。

「でも、セレナだけはお前を助けようとした。ギルドの誰も助けようとしない、悪名高いパーティーのサブリーダーを……自分を貶めたやつを、だ」

 だからこそ、セレナが率先して助けたという事実に、エヴリンが一番驚いた。

「その意味が分からないほど、エヴリンって冒険者はバカじゃないと思ってるがな」

 ダンテが見つめる中、彼女は大きなため息をついた。
 弱者に助けられた愚かさではなく、自分の見る目のなさに、である。

「……アポロスといる間に、私の目は曇っていたのね」

 エヴリンとセレナの目が合う。

「彼の暴力こそが強さの証拠だと思っていた、それは紛れもない事実よ。弱い人間が嫌いで、ふたりを騙して死地に赴かせたのも、私の提案だわ」

 彼女にとって、あらゆる意味で強さこそがすべてだった。
 強い存在は持つ者、そうでなければ持たざる者。
 ならば、自分は弱者に対して何をしても許されるとすら、アポロスと一緒にいた頃のエヴリンは思っていた。
 それこそが、強さを持つ人間の特権であると。

「でも、貴女達は乗り越えた。力を示して、皆を認めさせた」

 果たして、エヴリン・ボロウの考えは大きな間違いだった。
 本当の強さとは腕力や権力ではなく、心の中にあるものであったと痛感した。

「私もそのうちのひとり。セレナ・ソーンダーズとリン・ミリィ……そしてダンテ・ウォ―レンは、私やアポロスよりも、ずっと強いわ。本当の意味で、ね」

 エヴリンはきしむ体をどうにか起こし、力なく笑った。
 ダンテはともかく、セレナとリンは頬を膨らませている。

「ふんっ、あんたに褒められても嬉しくないもんっ!」
「ボクも同感。殺そうとしたくせに、ムシが良すぎるよ」

 ふたりはそう言うが、まんざらでもなさそうなのを、オフィーリアは見逃さなかった。

「うふふっ。おふたりとも、顔が笑ってますよ」
「「笑ってない!」」

 歯茎はぐきを見せて反論するのも、オフィーリアのような年長者からすれば肯定の証拠だ。
 だから彼女は、うふふ、と笑って頬に手を当てるだけに留めた。

「さて、本題に入るぞ」

 そんな3人をよそに、ダンテが言った。

「エヴリン、『竜王の冠ドラゴンクラウン』はどうなった? リーダーのアポロスがここにいなくて、サブリーダーのお前だけが帰ってきたのはなぜだ?」

 彼の問いかけに、エヴリンは苦々しげな顔で答えた。

「……『竜王の冠』は、全滅したわ」

 自分の所属するパーティーが、全滅した。
 A級冒険者をようする、ギルドでも上位クラスのパーティーが、ことごとくやられたと。

「全滅!? 20人以上いるパーティーが、どうして!?」

 セレナ達が驚愕きょうがくして顔を見合わせるが、ダンテは別の疑問を抱いていた。

「お前らが今回受注した長期クエストは、『アバランテ雪山せつざん』にある伝説の宝玉の採取クエストだったな。難しいクエストだが、同種の討伐クエストよりはマシだ」

 アバランテ雪山といえば過酷な環境で、多くの冒険者や研究家が命を落とす難所である。
 その最奥部さいおうぶに鎮座すると言われている宝玉は、まだどの冒険者も手に入れたことのない、まさしくお宝中のお宝だ。
 だからこそ、『竜王の冠』がこなすクエストとして選んだのだ。

「それにアポロスも、腐ってもA級冒険者だ。そこまでやわじゃないはずだと思うが?」

 しかもこのパーティーには、アポロスが属している。
 ダンテからすれば取るに足らない男であっても、並の冒険者やモンスターでは、とても彼に敵わないだろう。
 そうでなくとも、このパーティーにはエヴリンをはじめとした猛者が集まっている。
 よほどの事態でなければ、まず壊滅などしないはずだ。

「私達を襲ったのは、モンスターでも、自然環境でもないわ。もっと恐ろしく、欲に満ちていて……何よりも凶暴な連中よ」

 ところが、エヴリンが紡ぐ言葉を聞いて、ダンテの表情が変わった。
 彼はアポロスや、仲間達が何に遭遇したのかを直感した。

「……まさか」

 ダンテの仲間達が不思議そうに顔を見合わせる中、エヴリンが言った。

「そのまさか。私達は『闇ギルド』のハンター……冒険者狩りに遭ったの」
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