追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、新人冒険者の面倒を見る

「警告はしたぞ」

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「むっ!」
「むっ」

 自分達を過小評価されたと思い込んだセレナとリンが、顔をしかめた。
 当然、その反応こそが目的であるダンテは、彼女達に見えないようにほくそ笑む。

「クエストについてきても、俺の足手まといになるだけだな! 仕方ない、討伐には俺だけで行くから、お前らは宿でお留守番でも――」

 彼の声は、あっさりとさえぎられた。

「「討伐クエスト、受けるよっ!」」

 闘志をめらめらと燃やす、セレナ達によって。
 周りの冒険者が引くほどの覇気を目の当たりにしたダンテは、笑みを隠さなかった。

「……そう言うと思ったぜ」

 指を鳴らし、ダンテが依頼書にサインを書きこんで、受付嬢に渡す。

「受付嬢さん、このクエストを受注するよ」
「かしこまりました! 『ドラゴーレム討伐クエスト』を3名で受注処理しておきますね!」

 スタッフが手持ちのベルをカラン、カランと鳴らすのが、クエストを受けた合図だ。

「達成までの期間は4日間、その間に討伐した証拠が納品できない場合はペナルティが課せられますので、お忘れなく! あと……ケガにも気を付けてください!」

 少し心配そうな受付嬢に背を向けながら、ダンテはひらひらと手を振る。

気遣きづかいありがとな。でも、俺がいる限り、ふたりにケガなんてさせないさ」

 彼について行くセレナも、自信ありげに胸を張った。

「ふふーん! あたし達がいれば、ダンテにもケガはさせないもんねっ!」
「言うじゃねえか、セレナ……ん、あれは……」

 ところが、3人ともぴたりと足を止めてしまった。
 すぐ近くのテーブルを乱暴に蹴り、どかどかと横から詰めてくる面々が見えたからだ。

「よお、3流冒険者ども! 今日もしょぼいクエストに精を出してるみたいだなァ!」

 ギルドでも有数のA級冒険者アポロスと、彼が率いるパーティーだ。
 しかもご丁寧に、恋人のエヴリンまで連れている。

「……アポロス……!」

 獣の歯をき出しにするセレナの前で、アポロスは赤い髪を撫でつけた。
 エヴリンの方は3人がまだ3人がひどい目に遭っていないのを意外に思っているようだが、アポロスはセレナ達を侮辱することしか頭にないようである。

「正直驚いたぜ、まだ冒険者の資格を返してないなんてな。俺様はてっきり、さっさと田舎に帰ったか、どこかでモンスターの腹に収まったと思ってたからよ!」
「うっさい、バーカ! ケツの穴に爪を突っ込んでほじくり返してやる!」

 セレナが唸ると、エヴリンが口元を隠して彼女を嘲笑あざわらう。

「あらあらお嬢ちゃん。まだ痛い目に遭ってないのは驚きだけど、田舎育ちだけあって品がないわね」
「おばさんは肌のハリとツヤがないけど」
「……何ですってぇ?」

 しかし、リンが冷たい言葉のナイフを振りかざすと、年増のエヴリンの顔がみにくゆがんだ。
 どうやら人一倍、お肌の曲がり角が気になって仕方ないようだ。
 そしてたいていの場合、触れてはならない傷に触れれば、起きるのは争いなのだ。

「よせよ、セレナ、リン」

 辺りが騒然とする中、ダンテがセレナやアポロスの間に割って入る。

「関わるだけ時間の無駄だ。ふたりとも、クエストの準備をしに行くぞ」
「ふーんだ!」
「べー」

 ダンテは仲間達をかばうように手を回して連れて行くが、セレナは中指を立てて、リンはベロを突き出してアポロスを挑発した。
 もちろん、こんな子供の煽りだろうが、アポロスは無視するはずがない。

「クソガキ共が、小便漏らしてくたばりやがれ! テメェもだぞ、ダンテ! 万年C級冒険者が調子に乗ってんじゃねえ!」

 しかも今度は、ダンテにまで飛び火したのだ。
 仲間を侮辱されれば、いよいよセレナの金のツインテールと尻尾も逆立った。

「ダンテをバカにして……!」
「ほっとけって言ったろ。俺は気にしてない」

 周りが騒がしくなろうが、エヴリンや彼女のパーティーメンバーががくすくすと笑っていようが、ダンテはまるで気に留めない。
 一瞬一秒でも早くここを離れたがっているのが丸分かりだ。
 だから、セレナやリンも渋々彼の気持ちを汲むつもりだったが、アポロスは違った。

「――いいか、冒険者はな、危険も恐れない英雄だ! テメェはさしずめ、何かを失うのが怖くて、昇格しなかったってとこだ!」

 アポロスの言葉を聞いて、ダンテはぴたりと止まった。
 どれかは分からないが、彼の放った罵倒ばとうのうち、何かがダンテの琴線きんせんに触れたのは明白だ。

「……ただ、人を挑発する時は、言葉を選んだ方がいい」

 ダンテは少しだけ、ほんの少しだけ振り向いた。

「あァ? ザコが何ぬかしてんだ?」
「警告はしたぞ」
「カッコつけてんじゃねえぞ、このおっさんが――」

 とうとうカッとなったアポロスが、背負った剣の柄に手をかけようとした時。



「おびゅ」

 首が、とんだ。
 アポロスの首がねられ、意識のあるまま宙に舞ったのだ。
 そして血を噴き出して地面に落ち、暗闇の中に意識が消えた――。



「――あ、あ、ああああああああッ!?」

 はず、だった。
 首がくっついたままのアポロスは絶叫して、うずくまり、ひたすら自分の首がちゃんとついているかを確かめた。

「ど、どうしたんですか、リーダー!?」
「アポロス、いきなり叫ぶなんて……!?」
「く、く、首! 俺の首、あるか!? 離れてないよな!?」

 エヴリンや仲間が戸惑うのも構わず、彼はべそをかきながら、半狂乱になって自分の首をペタペタと触り続ける。
 彼の体には、まったく傷はついていない。
 それでも恐怖におののくくのは、ダンテと目があった途端に、自分の死を確信したからだ。
 鮮明な死のビジョンが浮かぶほどの実力差を、身をもって体感したのである。

「何を言ってるの、アポロス! 落ち着きなさいよ!」

 リーダーの体を揺らして正気に戻そうとするエヴリンを一瞥いちべつして、ダンテは仲間を連れてギルドの外に出た。

「あいつ、どうしたんだろ?」
「さあな? でも見たんじゃないか」

 セレナの問いに、ダンテは暗い目で笑いながら答えた。
 自分は気迫だけで人を殺せるのだと実感しつつ、ブランクなどあってないようなものだと思った。

 一方、エヴリンはアポロスの頬をバンバンと思い切りビンタしていた。

「アポロス、正気に、戻りなさい! 貴方は、A級、冒険者、でしょうが!」

 パーティーメンバーが止めるほどの勢いで右、左の順で何度も叩いているうち、やっとアポロスの目から恐怖が抜けきった。
 どうやらこのエヴリンという女性、ただの金魚のフンではなさそうだ。

「あでで、痛で……く、クソ……!」

 かといって、彼女が認めた男がそれ以上に立派とは限らない。

「ふざけやがって、ダンテの野郎……あのチビ連中も、ただじゃおかねえぞ……!」

 なんせ彼は、まだダンテと自分の力の差を理解していない。
 それどころか――彼らへの身勝手な報復すら考えているのだから。
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