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悪役貴族のスクールライフ!
メイドの正体
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「嘘つかないで! だったら、パフが大きくなって暴れたのもたまたまって言いたいの!?」
『ごおおうっ!』
パフが火を吹いて吼えると、アラーナがびくりと震えあがった。
「え、な、何!? 暴れたって、大きくなったってどういう意味よ!?」
「ダンカンが使ってた紫の石が、パフに吸い込まれて巨大化したんだ。ただの魔力増幅装置に、そこまでできるとは思えないけどな」
魔力を増幅する、要するに攻撃力や防御力を上げるアイテムはゲームの中でもいくつかあった。購買で買えるくらいには、普通に置いてあるものだ。
でも、紫の石の効力はその程度じゃあ留まらないだろ。
「百歩譲ってあんたにそんな力がないとして、石を使ってどうして平然としてられるんだ? ダンカンはともかく、そこのパフは巨大化して、テレサは性格が豹変してるんだぞ?」
当然といえば当然の疑問に、アラーナは少しためらってから答えた。
「……石は、すぐに使うのをやめたわ」
「なんだと?」
この状況を覆せないと判断したらしいアラーナの口調は、やけくそにも聞こえる。
潔く話してくれるなら、どうでもいいんだがな。
「入学前から紫の石を使い続けているうち、石の中から声が聞こえてくるようになったのよ。しばらくすると、声が石を使ってなくても頭にこだまするようになったわ」
「声?」
「まるで石が自分を乗っ取ってしまいそうな声よ。なのに、他の子が使ってもそんな風にならなかったの。ただ魔法が強くなったって、ダンカンなんかははしゃぐだけよ」
おかしな話だ。
俺はゲームを中盤手前まで進めてたけど、そんな話はひとつも出てこなかった。
(……自分を乗っ取る、声……)
しかも、ダンカンとアラーナで、使った時の反応が違うらしいな。
「それで、使うのをやめて、代わりに入学前の貴族主義の生徒に渡してやったわ」
「石を使ってどうなるか、ダンカン以外でも観察するつもりだったんだな」
「何の変化もなかったし、無駄足よ。私の知ってる石の秘密は、本当にこれだけよ」
はあ、とため息をつくアラーナの前で、俺は自分の腕を組んだ。
こいつは禊が終わったと思い込んでるんだろうが、まったくもってそんなわけがない。
校内や入学前に配った石の所在や、石を使うとどうなるかの詳細な説明も聞きたいし、何より石を売り飛ばしたとかいうとんでもない輩の正体も聞かないと。
ここで聞ける限りの内容を吐かせるまで、俺はアラーナの拘束を解くつもりはなかった。
「いいや、足りないな。誰から石を買ったのか、洗いざらい吐いてもらう――」
――突如として、部屋の窓が割られるまでは。
――割れた窓の外側から、大斧を担いだテレサが飛び込んでくるまでは。
「なっ……!?」
呆気にとられるアラーナをぎろりと睨んだテレサは、ほとんど間髪入れずに大斧を振り回し、彼女の首を刈り取るかのように叩きつけようとした。
魔法で動きを制限された状態なら、確かにテレサは簡単に彼女を殺せただろうよ。
「融合魔法レベル6、『炎風竜巻』!」
「竜魔法『すらっしゅくろー』っ!」
『ぎゃおおおうっ!』
俺とソフィーの魔法が、刃を防がなければの話だがな。
火魔法レベル2と風魔法レベル4が合体した魔法は、強烈な斬撃すら受け止めて炎でカウンターを仕掛ける反撃特化の魔法。
ソフィーの指示でパフが繰り出したのは、金色に光る爪の一撃。
ここまでやってもなお、テレサは確実にアラーナやソフィーの息の根を止めようとしてきたけど、炎をまとった風と龍の爪のぶつかり合いで競り勝つなんて不可能だ。
ドカ、ガキン、バキン、と鈍い音が何度も激突する。
その末に、流石のテレサも耐えられなかったのか、部屋の端に弾き飛ばされた。
「あ、あばば……」
恐怖が限界に達して気絶したアラーナを庇うように立ち、俺はテレサを睨んだ。
「……テレサ……!」
「おや。ネイト様、また脂肪が分厚いだけの虫けらと逢瀬でございますか」
彼女の目に、もうかつての淡い優しさはない。
むくりと無機質に起き上がったテレサの目に宿るのは、紫の毒々しい光だ。
「『触の禁』を使ったのに、なんで俺のところまで来られたんだ? それに自室謹慎の期間は終わっていないはずだぞ」
「お答えするのは後でございます。今はそこの牝を駆逐しなくてはなりません」
刻印魔法の影響に抗える召使いなんているはずがないのに、テレサは俺のすぐ近くまで接近できるなんてありえない。本当なら、触れることすらできないはずなのに。
「ネイト君が言ってた通り、テレサちゃん、様子がおかしいね。彼女に懐いてたパフがこんなに警戒するなんて、絶対にヘンだよ」
ソフィーもまた、俺の隣で「信じられない」と言いたげな目をしている。
パフに至っては紫の石の被害を思い出すのか、ひどく鼻息が荒い。
「そうだな、俺の知ってるテレサは、俺の友達をメス呼ばわりなんてしないし、俺の命令なしに人を傷つけたり、ましてや殺そうなんてしない」
この時点で、俺の中にはある確信が生まれていた。
さっきまでの話もそうだが、テレサが本物ならありえない証拠を、俺は握ってるんだ。
「……テレサ、お前――本当にテレサか?」
「……どういう意味でしょうか。テレサは、ネイト様の忠実なメイド……」
「俺の知ってるテレサは、パンツなんか履かないんだよっ!」
俺が異議あり、といわんばかりにテレサを指さすと、全員の視線が集まった。
「「えっ?」」
もちろん、テレサも含めてだ。
「昨日、お前は白いパンツを履いてたよな? だけどな、テレサはずっとノーパンなんだ。特訓中に何度か見たから、間違いないぜ!」
ゴールディングの屋敷での格闘訓練の間、テレサは何度もアクロバティックな動きをして、そのたびにスカートの中が丸見えになった。
何度も俺は注意したんだけど、健康法だとか、俺が油断しないようにするためだとか言いくるめられて、結局こっちが極力気にしないように努力したんだよ。
今回は恥ずかしい目撃談が、いい方向に転がったみたいだな。
「大方履いてないのに違和感を覚えたんだろ? でも、テレサの真似なんかしても、ノーパン健康法までは見抜けなかったみたいだな……」
さながら逆転する裁判のごとく、俺はテレサに証拠を突き付けてゆく。
俺の手で、このままあいつの秘密を全部暴いてやる、と意気込んでた。
「……テレサちゃんが履いてないのと、下着の柄も知ってるの?」
『ぎゃう』
ソフィーとパフが、白い目でこっちを見ているのに気づくまでは。
そうだ。今更察したけど、今の俺は完全に変態だ。
自分専属のメイドとはいえ、女の子の下着事情に詳しいどころか、履いてないことを知ってるなんてカミングアウトする方がおかしいだろ。
「……あ、あの、違うんだよ、俺が見たくて見たわけじゃ……」
だらだらと汗をかく俺を見つめるひとりと1匹の目は、なんだか冷たい。
「ネイト君のすけべ」
『ぎゃあーす』
美少女に蔑まれて喜ぶやつは多いが、俺はそうじゃない。
「と、とにかく! お前はテレサじゃないか、テレサを……」
ひとまず話を戻そうとしたとき、テレサに異変が起きた。
「乗っ取った、とおっしゃりたいのですね。まったく――」
テレサが俯いて、びくりと震えたんだ。
そうしてごく、ごく、と何かが押し出されるような音と共に、彼女は顔を上げた。
「――大人しく騙されていればバ、よかったものヲ」
声はもう、テレサの声じゃない。
低く、地の底から這い上がるような声を出しながら、口から飛び出したもの。
――彼女の手のひらに転がったそれは、紫の石だった。
『ごおおうっ!』
パフが火を吹いて吼えると、アラーナがびくりと震えあがった。
「え、な、何!? 暴れたって、大きくなったってどういう意味よ!?」
「ダンカンが使ってた紫の石が、パフに吸い込まれて巨大化したんだ。ただの魔力増幅装置に、そこまでできるとは思えないけどな」
魔力を増幅する、要するに攻撃力や防御力を上げるアイテムはゲームの中でもいくつかあった。購買で買えるくらいには、普通に置いてあるものだ。
でも、紫の石の効力はその程度じゃあ留まらないだろ。
「百歩譲ってあんたにそんな力がないとして、石を使ってどうして平然としてられるんだ? ダンカンはともかく、そこのパフは巨大化して、テレサは性格が豹変してるんだぞ?」
当然といえば当然の疑問に、アラーナは少しためらってから答えた。
「……石は、すぐに使うのをやめたわ」
「なんだと?」
この状況を覆せないと判断したらしいアラーナの口調は、やけくそにも聞こえる。
潔く話してくれるなら、どうでもいいんだがな。
「入学前から紫の石を使い続けているうち、石の中から声が聞こえてくるようになったのよ。しばらくすると、声が石を使ってなくても頭にこだまするようになったわ」
「声?」
「まるで石が自分を乗っ取ってしまいそうな声よ。なのに、他の子が使ってもそんな風にならなかったの。ただ魔法が強くなったって、ダンカンなんかははしゃぐだけよ」
おかしな話だ。
俺はゲームを中盤手前まで進めてたけど、そんな話はひとつも出てこなかった。
(……自分を乗っ取る、声……)
しかも、ダンカンとアラーナで、使った時の反応が違うらしいな。
「それで、使うのをやめて、代わりに入学前の貴族主義の生徒に渡してやったわ」
「石を使ってどうなるか、ダンカン以外でも観察するつもりだったんだな」
「何の変化もなかったし、無駄足よ。私の知ってる石の秘密は、本当にこれだけよ」
はあ、とため息をつくアラーナの前で、俺は自分の腕を組んだ。
こいつは禊が終わったと思い込んでるんだろうが、まったくもってそんなわけがない。
校内や入学前に配った石の所在や、石を使うとどうなるかの詳細な説明も聞きたいし、何より石を売り飛ばしたとかいうとんでもない輩の正体も聞かないと。
ここで聞ける限りの内容を吐かせるまで、俺はアラーナの拘束を解くつもりはなかった。
「いいや、足りないな。誰から石を買ったのか、洗いざらい吐いてもらう――」
――突如として、部屋の窓が割られるまでは。
――割れた窓の外側から、大斧を担いだテレサが飛び込んでくるまでは。
「なっ……!?」
呆気にとられるアラーナをぎろりと睨んだテレサは、ほとんど間髪入れずに大斧を振り回し、彼女の首を刈り取るかのように叩きつけようとした。
魔法で動きを制限された状態なら、確かにテレサは簡単に彼女を殺せただろうよ。
「融合魔法レベル6、『炎風竜巻』!」
「竜魔法『すらっしゅくろー』っ!」
『ぎゃおおおうっ!』
俺とソフィーの魔法が、刃を防がなければの話だがな。
火魔法レベル2と風魔法レベル4が合体した魔法は、強烈な斬撃すら受け止めて炎でカウンターを仕掛ける反撃特化の魔法。
ソフィーの指示でパフが繰り出したのは、金色に光る爪の一撃。
ここまでやってもなお、テレサは確実にアラーナやソフィーの息の根を止めようとしてきたけど、炎をまとった風と龍の爪のぶつかり合いで競り勝つなんて不可能だ。
ドカ、ガキン、バキン、と鈍い音が何度も激突する。
その末に、流石のテレサも耐えられなかったのか、部屋の端に弾き飛ばされた。
「あ、あばば……」
恐怖が限界に達して気絶したアラーナを庇うように立ち、俺はテレサを睨んだ。
「……テレサ……!」
「おや。ネイト様、また脂肪が分厚いだけの虫けらと逢瀬でございますか」
彼女の目に、もうかつての淡い優しさはない。
むくりと無機質に起き上がったテレサの目に宿るのは、紫の毒々しい光だ。
「『触の禁』を使ったのに、なんで俺のところまで来られたんだ? それに自室謹慎の期間は終わっていないはずだぞ」
「お答えするのは後でございます。今はそこの牝を駆逐しなくてはなりません」
刻印魔法の影響に抗える召使いなんているはずがないのに、テレサは俺のすぐ近くまで接近できるなんてありえない。本当なら、触れることすらできないはずなのに。
「ネイト君が言ってた通り、テレサちゃん、様子がおかしいね。彼女に懐いてたパフがこんなに警戒するなんて、絶対にヘンだよ」
ソフィーもまた、俺の隣で「信じられない」と言いたげな目をしている。
パフに至っては紫の石の被害を思い出すのか、ひどく鼻息が荒い。
「そうだな、俺の知ってるテレサは、俺の友達をメス呼ばわりなんてしないし、俺の命令なしに人を傷つけたり、ましてや殺そうなんてしない」
この時点で、俺の中にはある確信が生まれていた。
さっきまでの話もそうだが、テレサが本物ならありえない証拠を、俺は握ってるんだ。
「……テレサ、お前――本当にテレサか?」
「……どういう意味でしょうか。テレサは、ネイト様の忠実なメイド……」
「俺の知ってるテレサは、パンツなんか履かないんだよっ!」
俺が異議あり、といわんばかりにテレサを指さすと、全員の視線が集まった。
「「えっ?」」
もちろん、テレサも含めてだ。
「昨日、お前は白いパンツを履いてたよな? だけどな、テレサはずっとノーパンなんだ。特訓中に何度か見たから、間違いないぜ!」
ゴールディングの屋敷での格闘訓練の間、テレサは何度もアクロバティックな動きをして、そのたびにスカートの中が丸見えになった。
何度も俺は注意したんだけど、健康法だとか、俺が油断しないようにするためだとか言いくるめられて、結局こっちが極力気にしないように努力したんだよ。
今回は恥ずかしい目撃談が、いい方向に転がったみたいだな。
「大方履いてないのに違和感を覚えたんだろ? でも、テレサの真似なんかしても、ノーパン健康法までは見抜けなかったみたいだな……」
さながら逆転する裁判のごとく、俺はテレサに証拠を突き付けてゆく。
俺の手で、このままあいつの秘密を全部暴いてやる、と意気込んでた。
「……テレサちゃんが履いてないのと、下着の柄も知ってるの?」
『ぎゃう』
ソフィーとパフが、白い目でこっちを見ているのに気づくまでは。
そうだ。今更察したけど、今の俺は完全に変態だ。
自分専属のメイドとはいえ、女の子の下着事情に詳しいどころか、履いてないことを知ってるなんてカミングアウトする方がおかしいだろ。
「……あ、あの、違うんだよ、俺が見たくて見たわけじゃ……」
だらだらと汗をかく俺を見つめるひとりと1匹の目は、なんだか冷たい。
「ネイト君のすけべ」
『ぎゃあーす』
美少女に蔑まれて喜ぶやつは多いが、俺はそうじゃない。
「と、とにかく! お前はテレサじゃないか、テレサを……」
ひとまず話を戻そうとしたとき、テレサに異変が起きた。
「乗っ取った、とおっしゃりたいのですね。まったく――」
テレサが俯いて、びくりと震えたんだ。
そうしてごく、ごく、と何かが押し出されるような音と共に、彼女は顔を上げた。
「――大人しく騙されていればバ、よかったものヲ」
声はもう、テレサの声じゃない。
低く、地の底から這い上がるような声を出しながら、口から飛び出したもの。
――彼女の手のひらに転がったそれは、紫の石だった。
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