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悪役貴族のスクールライフ!

早すぎる再会

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 俺は目を丸くした。
 いきなりソフィーが突っ込んできたのも理由のひとつだけど、どっちかと言えばそれは大した問題じゃない。

(おかしいだろ、まだソフィーはトライスフィア魔導学園に来てないはずだ!)

 一番ヤバいのは、本来ならソフィーがまだしてない点だ。
 彼女はノアと舞踏会で出会って、入学式からひと月ほど遅れてトライスフィア魔導学園に編入してくる。主人公が最初に出会うヒロインは彼女じゃなく、眉目秀麗びもくしゅうれいの生徒会長だ。

 なのに、彼女がここにいるということは、彼女は入学式に出るに違いない。
 根本的な話をすれば、そもそもノアと出会いすらしないのだから、俺を探しに来る理由なんてのもないはずだ。

「久しぶり、ネイト君! 舞踏会以来だね、元気にしてたかなー?」

 だけど現実問題として、ソフィーはここにいる。
 跳ねひとつないブロンドと星のように輝く大きな目は、以前のようなドレスの代わりにトライスフィアの制服を着ていても間違えようがない。
 ついでに大型犬のように、俺にすりすりと身を寄せてくるんだ。

「どしたの? 私の顔に、何かついてる?」

 ソフィーは無邪気に聞いてくるけど、ついてるのはどっちかというと俺の方だ。
 さっきからずっと、スイカと同サイズのが俺の腹にくっついてる。

「そ、ソフィー? どうしてここにいるんだ?」
「どうしてって……トライスフィア魔導学園に入学するからだよ?」
「じゃ、じゃあ、なんでいきなり俺にくっついたんだ?」
「くっつきたいから! こんな風に、ぎゅーって♪」
「わああっ!?」

 まずい、この子はお嬢様だけど、本能で生きるタイプのゴールデンレトリバーだ。
 異性にくっつくのに全然抵抗感がなくて、やりたいことをやるタイプだ。
 だから、信じられないくらい大きいのが俺と彼女の間で形を変えているのも構わないし、周りの生徒達がすごい形相で俺を見てるのも構いやしない。

 そりゃそうだ、絶世の美女に抱き着かれてる男なんて、注目を浴びて当然だ!
 ソフィーが早期入学した点も気になるけど、とりあえずこっちをどうにかしないと!

「よーし、よし! 色々聞きたいことはあるけど、まずは離れような!」

 どうにか引きはがしはしたけど、なんだかソフィーは不満そうだ。

「むー……やっと会えたのに、なんだか冷たくなーい?」

 やっと会えたも何も、2ヶ月ほど前に顔を合わせたばかりだろ。
 周囲の目線が早くよそに向いてほしいと心の中で必死に祈る俺を、ソフィーは頬を膨らませて睨んでる。悪いのは俺じゃないってのに。

「パフも会いたかったって言ってるよ、ほら!」

 どうしたものか、と俺が頬をポリポリと掻いてると、ソフィーは別の手段に打って出た。
 彼女の後ろから――どこからともなくというべきか、彼女よりも少し小さなサイズのドラゴンがにょきっと首を伸ばしてきたんだ。

『ぎゃあおうっ!』
「どわっ!?」

 今度こそ、俺は驚いてしりもちをついた。
 そうだった。ソフィーは無属性魔法の使い手だけど、その中でもさらに特異な召喚魔法の使い手だ。
 『召喚魔法サモン・マギ』は読んで字のごとく、魔力を得た時に召喚獣を生み出し、共に戦う魔法だ。
 誘拐された日は偶然パフがいなかったけど、もしも一緒に居たら誘拐犯共は間違いなく生きて帰ってこられなかったな。
 ただでさえ稀少な召喚魔法でも、超強力なドラゴンを相棒にするのは一握りなんだから。
 ソフィーがそこまでレアな力を持っているのには、彼女の出生と血筋に大きな理由があるんだが、その話はまた今度。

『ぎゃうっ、ぎゃううっ!』

 少なくとも、ドラゴンが俺の顔を舐め回すのをやめさせてからだ。

「わぶ、ちょ、おい、よせっての!」

 涎まみれになる俺を見て、ソフィーが嬉しそうに頷く。

「うんうん、パフもネイト君が気に入ったみたいだね♪」
「ぱ……パフ?」
「私の召喚獣、ピュアドラゴンの名前だよ! 子供の頃はぱふぱふしてて柔らかかったから、パフって名前を付けたの!」

 人懐っこいのはソフィーと似てるから、似た者同士で仲が良いってわけか。
 パフが顔から離れた頃には、俺の頬も鼻もびちゃびちゃだった。

「はあ……ちょっと聞かせてくれ。トライスフィア魔導学園に来たのはいいとしてだ、なんで俺に会いに来るのが関係してるんだ?」
「なんでって、ネイト君だよね? 私を舞踏会の日に助けてくれたのは――」
「だーっ! 言わなくていい、言うなって!」

 俺がバタバタと手を振って話を誤魔化すと、いよいよ悪い意味で注目の的だ。
 何となく予想はついてたんだが、俺の予想は見事に当たってた。あの日、ソフィーは俺が彼女を助けたのを知ってて、それで俺を探しに来たんだ。

「わ、分かった、俺を探しに来たのは分かった! お礼は後で聞いてやるから……」
「え、お礼だけじゃないよ?」
「……ん?」

 いよいよもって首を傾げるほかなくなった俺を、ソフィーが見つめる。
 星の形に煌めく目は信じられないほど綺麗で、皆の注目を浴びるのも分かる。

「だって私、ネイト君が――」

 そうしてソフィーが何かを言おうとした時。

「……ネイト様、そちらのお嬢様と随分と仲がよろしいようで」

 テレサの大きな咳払いが、彼女の会話を遮った。
 長年(半年)付き合ってきた俺だから分かるけど、今のテレサは無表情のように見えて、めちゃくちゃイライラしてる。理由はさっぱりだけど、超怒ってる。

「親睦を深めるのはまたの機会に。入学式に遅れないよう、大講堂へ向かいましょう」

 どうしてだろうか、と聞くよりも先に、テレサが俺の手を引いて大講堂へと歩き出した。

「おいおい、まだ時間はあるって……」
「ありません。遅刻してはいけませんので、テレサが目的地まで案内いたします」

 俺の言い分を突っぱねるテレサを見て、ソフィーも動いた。

「あーっ! メイドさんだけずるーい!」

 テレサが引っ張る腕とは別の手を引いて、走り出したんだ。

「おいおいおい、よせって、待ってくれってば!」

 俺の懇願なんて、ふたりとも聞いてくれない。

「ネイト君、今日からよろしくねっ♪ 一緒のクラスだといいなーっ♪」
「ネイト様、交友にテレサは口出ししません。ええ、しませんとも」

 右にソフィーとパフ、左にテレサ、ついでに後ろからパフが飛んでくる。
 両手に花と言いたいけど、この状況じゃあ目立って仕方がない。
 別段実力を隠したいわけじゃないし、黒幕に威圧するような意味合いでなら、いくらでも目立ってもいいんだが、こんな目立ち方は恥ずかしくて仕方がないだろ!

(女の子に挟まれるなんてのは男の夢だけどさ、もうちょっと雰囲気とか……ん?)

 自分でもわけのわからないことを考えていた俺だったけど、ふと気づいた。

 俺を――俺達をじっと見てる男子生徒がいる。
 見られてるって意味合いなら、誰もが俺を見つめてるんだけども、そいつの視線はどこか冷たくて、しかも初めて見た顔じゃない気がしてたんだ。
 まるで、相手が俺を知っているような目線だ。

(……あいつ、どこかで……)

 面識なんかないはずだけど、そいつの顔がどうしても頭から離れなかった。
 もっとも、ふたりに連れられて大講堂に入った俺は、謎の男のことなんて考えられていなかった。

 なんせ「美女ふたりをはべらせた公爵家の次男坊」なんて噂されるんだからな!
 しかも本来会うはずの生徒会長は「遠征先から王都に帰ってきてない」とかで入学式でも会えなかったし……ここで会えないと次に遭遇するのはいつになるやら!
 まだ入学して2時間も経ってないけど、あえて言わせてもらう!

 ――なんて日だっ!
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