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17.鉱山都市グラーザン
「そう言えば、どうしてマサルは儂の背に乗るのを断ったんじゃ?」
グラーザンへ向けて歩きながらルビィと談笑しているとそんな質問が飛んできた。
「そうだよご主人、ドラゴンのに乗せてもらうなんて王様でも出来ない機会だよ?」
「いやぁ、だってほら…初めての旅だし皆と仲良く歩いて行きたいと思ってさ?」
「嘘じゃな。」
「え!?」
「儂の勘が嘘じゃと言っておる、ドラゴンの勘を舐めるではないぞ?かっかっ」
ドラゴンって嘘見抜けるのか、凄いなドラゴンセンス…
「くっ…別に乗ろうと思えば乗れるんですけどね?乗れるんですけど、すこーし高い所が苦手というかなんと言うか…」
俺は今凄く惨めな言い訳をしているなと自分でも分かる。
「え~ご主人高い所怖いのかい?ぷぷ!案外可愛い所があるんだな!」
「くっ!【締縛】」
「ぐふ…久しぶりにご主人のそれ喰らったよ…」
「ほんと久しぶりだね、最近はナスハが良い子過ぎたから懐かしいよ。」
「ほぉ~お主ら奴隷と主人の関係なのに仲が良いのぅ。」
「まぁ、奴隷だからどうこうって考えはあまりないので…所でグラーザンってここからどの位遠いんですか?」
「何?お主グラーザンまでの距離を把握せずに行こうとしてたのか?この速度で行くと大体2週間以上かかるぞ?」
「え!?2週間以上!?そんな…車が恋しい…」
「車?が何かは分かりませんが街からグラーザンまでの馬車が出ていた気がします。」
「えぇ…レンカそれ知ってたんなら教えてよぉ。」
「申し訳ありません主、主がとても楽しそうにしておられましたので口に出すのは憚りました。」
「あ~こっちこそごめんね、グラーザンまでの距離位調べれば良かったよ。」
「どうする?今からでも儂の背に乗るか?儂なら3日ほどで着く事が出来るぞ。」
「でもなぁ、高いのは…うーん。」
「じゃあ低空飛行してもらえばいいじゃんご主人!何日も歩くの嫌だろ?」
ルビィの誘惑やナスハの説得で結局俺は乗せてもらう事にした。
「いやぁ、ほんとに凄いなぁ…ドラゴンの背に乗るなんて夢のまた夢みたいだから実感がまだ無いよ。」
「それは何よりじゃ、ほらそろそろ見えてきたぞ。」
ルビィの背に乗って3日目、俺達はグラーザンに着いたのだった。
「「守護竜様ー!守護竜様ー!」」
グラーザンの上を通ると人々が顔を上げて守護竜様と叫んでいる、そしてルビィはそれらに手を振って応えるが地上には降りない。
「あの、ルビィさん?ドラゴンが街の上通るのは大丈夫なのか心配だったけど、特に問題なさそうだから安心しましたが今別の心配が増えましたよ。守護竜様って何?お偉いさんなんですか??」
「かっかっ!今更気付いたのか、そうじゃ!儂は偉いんじゃ、じゃから今下降りるのはマズイし一先ず儂の巣に戻るぞ。」
そう言って向かったのは王城…ではなく王城を越えた火山の頂上付近だった。
「あっつぅ…」
《【多数・炎耐性】(Ⅷ)》
「おぉ、暑くなくなった!ありがと、ナズナ。」
「ほう、流石ナズナ殿じゃな。」
グラーザンに向かう間にナズナの事は話してある、何故かナズナを格上と認識しており最初は様付けで読んでいたがナズナ自ら様付けを辞めさせると殿呼びに安定した。
「ここがルビィの家ですか?」
「まぁ、家と呼べる物ではないし巣じゃな、あの子らにも顔を出すとするか。」
「火山の頂上付近なのにあそこだけ建造物がありますね。」
「まぁな、中に入れば分かるぞ。」
ルビィに案内されるまま俺達は建造物に入る。
「ピィ!ピィ!」
「おぉヨシヨシ、元気にしておったか?あまり人に迷惑をかけるでないぞ?」
「お帰りなさいませ、守護竜様!ご子息様達は食事を充分に召し上がれ健康そのものでございます!」
「うむ、お前達もよく働いてくれておる。この子らの世話は大変だろうが宜しく頼む。」
「はっ!命に換えましても!」
「なるほど、ここはルビィの子供達の家なんですね。」
「どっちかと言うとこの子らを世話する人の子らの為、じゃな。この子らにとってここは適温でも、人の子らにはちと暑すぎるのでな。」
「なるほど。」
「守護竜様、お連れの方々はどういった関係で?」
「おぉ、そうじゃった。このマサルは儂の恩人でな!その恩人がここに来る用事があったらしくて一緒に来たのじゃ、くれぐれもマサルとマサルの奴隷達に無礼を働くでないぞ?このお方には儂でさえ勝てない御方が付いてるからの。」
「は、ははぁ!マサル様には我らの守護竜様を助けて頂きありがとうございます!すぐさま下の者にもマサル様への対応を伝えさせて頂きます!」
「はい、ありがとうございます。ですがここには1冒険者として来たのであまり仰々しいのはやめて下さい。」
「なんと、そうでしたか。分かりました、ではパレードはやめておきますか?」
「絶対やめて下さい。」
危ない危ない、最初に宣言してなければパレードで見せ物にされる所だった…傅かれるのは気持ちいいけど、パレードはちょっと嫌だな。しかも守護竜の恩人ー何をしたかは知らないーなんて“何故か分からないけど偉い人”みたいで恥ずかしい。
「話は済んだか?では、街に行くかの。」
「「「「守護竜様ー!守護竜様こっち見てー!守護竜様握手してください!!」」」」
「守護竜様これ受け取って下さい!」
「守護竜様是非これ食べてみてくだせぇ!」
ルビィとグラーザンの城下町に行くとまるで大スターが来日した様な熱狂が起きてしまった、どんどん人が集まってきて歩けもしない。
「ドラゴンなのに人気者なんですね。」
「まぁの、数百年はこの土地を守っておるから儂に対する恐怖心は消え、信仰心ばかり高まった結果じゃな。とはいえこのままじゃ歩く事も出来んか…ふむ。」
ルビィが空に飛び上がりドラゴンの姿になる
「皆の気持ちしかと受け止めた!今から王城前で【挨拶参り】を許可するから列になって付いてくるが良い!」
挨拶参りってなんだよ…と思っていると
〘という訳じゃからマサルは今の内に街を見てくるとよい、儂はこのまま王城に戻るから後で来るといい。〙
(分かりました、ありがとうございます。)
ルビィに念話で感謝を告げると俺達はグラーザンを観光することにした。
「ご主人グラーザン焼きだって!美味しそう!気になる!」
「主殿、あちらに良さそうな鍛冶屋があります、少し覗いていきませんか。」
「“守護竜様の御加護付きドラゴン置物”?御加護とやらは胡散臭いが可愛い見た目をしているな…」
「ご主人様今から組合に向かわれますのですか?」
ナスハが名物に釣られ、ライドが鍛冶屋に興味を持ち、レンカが置物に惹かれている。唯一ユタは俺にどうするかを聞いてきたが、目につくもので興味を引くものがなかったからだろう。
「とりあえずお腹減ったからグラーザン焼きでも食べるかな、その後に色々巡って最後に組合に行けば良いでしょ緊急性がある訳でもないし。」
皆が賛同した後は色々観光して結局組合に行くのは明日になった、因みにグラーザン焼きは火山の様な金型に生地を流し込み味を染み込ませた細切れ肉をタネにした肉まんとたい焼きの中間の様な物で結構美味しかった。
一通り観光し終わって王城に行くとルビィの元へ案内される。
「おぉマサル、グラーザンは楽しめたかの?」
「お陰様で、土産物とか名物があって観光地として来ても良さそうですね。」
「そうじゃろそうじゃろ!鉱石がよく採れるから鍛冶屋の街と思われるが文化が発展しておるし、温泉もある。そして儂が守護しておるから他のモンスターに襲われる心配がなく食料も安定していて観光地としても魅力があるのじゃ!」
「成程、だから街の人は皆笑顔でルビィに感謝してたんですね。所で温泉って何処にあるんですか?是非入ってみたいです。」
「温泉なら王城の中にでもある、今日は王城に泊まると良い。良いじゃろ王よ?」
「はっグラーザンの物は全て守護竜様の物でございます。」
「お、王様!?ルビィの後ろにいたからてっきり従者か何かと思った…」
俺は驚いたと同時に跪く、跪いた事なんてないから合ってるか分からないが立ってるよりはマシだろう。
「マサル殿おやめ下さい、我が国の民に守護竜様の恩人を跪かせたと知られれば末代までの恥です。どうかお立ちになって下さい。」
「分かりました、ありがとうございます。それと今日はお世話になります」
たまたま1匹のドラゴンを手助けしただけで、とんでもない事になったなと思いながら俺達はグラーザン国王になすがままに持て成された。
「いやぁ、とんでもない体験が出来たねぇ。」
「俺は粗相が出ないか胃がキリキリしました…」
「王城内に入れるだけでなく王と会食とは…二度と忘れる事はないでしょう。」
「王宮料理ほんとに美味しかったです…見た目も美しくて食べるのが勿体ない位でした…」
部屋に戻るとナスハ、ライド、レンカ、ユタが思い思いの感想を大きなため息と共に吐いた。良かった、皆ガチガチに緊張していたけど楽しんでくれていたみたいだ。
「ライド、温泉行こっか!落ち着いたら皆も温泉行っていいからね。」
俺はライドを誘って王城内にある温泉へ向かった。
「あぁ~良い気持ち~」
「流石は王族御用達の温泉ですね。」
「そう言えばグラーザンって鉱山都市じゃなかった?何で都市に王様がいるの?都市なのに国なの?」
まるで疑問に思ってなかったが冷静になるとおかしい事に気付く。
「それは私から説明いたしましょう。」
「王様!?すいません、湯煙で全然気付きませんでした。」
「かまいません、王様と言っても人々の意見を纏め守護竜様にこの国を住み心地良く思ってもらう為仕えてる身ですから。ここグラーザンは鉱石が豊富で守護竜様の加護もあり、孤立したとしても都市の経済を回せる事が出来ます。
その為国からの援助を受けない代わりに国からの指図も受けません。そうなってくるといよいよ1都市ではなく1つの国ではないか?という声が上がり始め次第に独立を求め国との対立する動きになりました。
しかし守護竜様が国と戦う事を窘め、国もまた守護竜様が守るここと衝突する事を恐れ超法規的措置としてグラーザンを都市であるものの独立した封権制度を行う事を黙認されました。そうして今に繋がるのです」
「へぇ~そんな歴史があったんですね、勉強になります。」
グラーザンの歴史を聞きながら俺は忘れかけていた力による蹂躙や支配に対する憧れを思い出していた、風呂から上がり皆が寝静まった深夜。
「なぁナズナ、俺は小説とかで力を手に入れた主人公が力に溺れず人の為に使うのを見て甘っちょろくて嫌だったんだ。でも今の俺を振り返るとそんな甘っちょろい主人公達と似た様な事をしていて案外そんなもんなんだなって思い始めたよ。」
《優様はこの世界を支配したいのですか?》
「まさか、支配するのはめんどくさいし、今の俺は弱いから簡単に打ち倒されてしまうよ。ただまぁ出来る事なら人生で1回くらい弱い者いじめをしてやりたいって思ってたんだけどね…どうやら俺は小心者の平和主義者だったらしい。ははっ」
《私は優様が力に溺れるよりも小心者の方が良かったです。》
「それもそうだね、でもこの世界の各国の情報はあっても良いかもしれないから時間がある時に情報を集めていてくれる?」
《承知しました、では魔水晶の制作を一時停止し、情報収集を優先いたします。》
「お願いね。」
俺はこの世界でやりたい事を考えながら明日に備えて寝る事にした。
✂ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー✂
18.ズルというかチート
「採掘場所ですがグラーザン坑道の浅瀬は正式な鉱夫が採掘しておりますので坑道と繋がっている洞窟をお使いください、その際に現れる鉱石喰いを倒し魔石を持ち帰ってもらいますと買い取らせて頂きます。」
グラーザンの冒険者組合にいる受付嬢さんから依頼の詳細を聞き俺達はグラーザン火山の洞窟へ向かう。
「しっかし、折角貸して貰った冷気が出る作業着もナズナさんがいれば必要なかったね。」
「そうだね、ナズナ様々だ。」
組合で渡された冷気が出る作業着はグラーザンの坑道では必需品だ、しかしナズナによる火に対する耐性魔法の前では無用の長物だった。
「人もいないし、そこそこ魔水晶もあるし、ここら辺で良いかな?」
「じゃあ皆予定通り軽く掘ろっか、ナズナお願いね。」
《承知しました。》
俺達が魔水晶を掘っている間にナズナが事前に用意していたただの水晶ーバスケットボール程の大きさーにどんどん魔力を入れていく、すると段々生き物の気配が近寄ってくるのが分かる。
《優様、鉱石喰いが釣れました。合計50匹ほどです。》
「予想以上に釣れたな!?ナズナ皆に補助魔法をお願い!」
《【多数・全能力上昇】(Ⅸ)、【多数・斬撃無効】(Ⅸ)、【多数・打撃無効】(Ⅸ)》
「なにこれなにこれぇ!?」
「凄すぎる、力がどんどん漲ってくる…」
「まるで自分の体じゃないみたいだ!」
「明らかに魔力量が増えてる!?魔力容量と魔力その物を増やすなんて効率が悪すぎるのに…ナズナ様凄すぎです!!」
ナズナが惜しげも無く最上級の補助魔法をかけてくれる、おかげでライズ達は奇声を上げて興奮していた。
「興奮してるとこ悪いけどもうすぐ鉱石喰いがくるから気を引き締めてね!」
注意したあと直ぐに大量の足音と共に鉱石喰いが現れる。
「これが鉱石喰い…サソリみたいだな!」
鉱石喰いは体長5m程のサソリの様な見た目で尻尾は針の代わりにハンマー状になっており、尻尾を使って鉱石を砕き食べるらしい。
「この量は不味いか…?皆!だいじょうb…あれ?」
「ははは!凄い凄い!鉱石喰いの甲殻が紙みたいに切れるよ!」
「ぐっ…!痛く、ない…?鉱石喰いの尻尾に当たっても全然痛くない!」
「はぁぁ!【風刃】(Ⅲ)!はははっ!俺の風刃で3体纏めて切れたぞ!明らかに攻撃力と範囲が上がっている!!」
「えい!えい!!はふぅ…まさか私が鉱石喰いを殴り殺せる日が来るとは…ナズナ様、素晴らしすぎますぅ…!」
ナスハが鉱石喰いの攻撃を掻い潜りながら攻撃し、レンカは攻撃を受けながらゴリ押しで反撃し、ライズは威力が上昇したスキルに感嘆してスキルを連発し、ユタは鉱石喰いをメイスで撲殺しながら恍惚とした表情でナズナに感謝の言葉を送る。なんだこれ、俺の奴隷ってこんなに戦闘狂だったっけ…
「まぁ、皆楽しんでるなら良いか!よし!俺も行くぞぉ!」
鉱石喰いを半数以上倒した所で鉱石喰いが逃走し、残った鉱石喰いが数体になった所で魔法の効果が切れる。ナズナ曰く《バフ付与での戦いは修行になりませんので残りの鉱石喰い位は自力で倒して下さい。》との事らしい。
「はぁ~!終わったぁぁぁ…普通に戦ったらめっちゃ強いじゃん…」
「ナズナさんのバフが異常なんだよご主人。」
「相手の攻撃が効かないのは些か反則じみていたな…素晴らしかったが。」
「まさかスキルまで強くなるなんて思わなかったです。」
「あぁ…鉱石喰いを殴り殺す感触…もう一度味わいたいです…」
1人完全に戦闘狂にジョブチェンジしてるな…と思いながら俺も戦ってた時の気持ち良さの余韻に浸っていた。
(やっぱり命の奪い合いは病みつきになるよなぁ、こう生きてるってのを実感するというか…)
コツンッ
物音がした方を向くとそこには鉱石喰いの子供だろうか、50センチ程の鉱石喰いが威嚇しながら後ずさりしていた。
「こいつ可愛いな!ナズナこの子ペットに出来ない?」
《申し訳ありません、従属魔法は付与されていないので難しいかと…魔力で脅す事なら出来ますが。》
そう言うとナズナは鉱石喰いの子供の元まで近づき
「シャー!シャー!」
《黙りなさい、あなたの生殺与奪権はこちらにあるのです。》
「キューン、キューン。」
ナズナが一声かけるとさっきまで威嚇していた鉱石喰いの子供が小さく縮こまって震えている。
《優様、これでこちらに敵意は無くしたかと。後は餌でもやれば懐くのではないでしょうか。》
「ありがとナズナ!可愛いなぁお前、ほらほらこれでも食べて元気出せよ。」
俺は持ち歩いていたナズナ製の魔水晶を与える。
「ッ!」ガツガツガツ!
鉱石喰いの子供は凄い勢いで魔水晶を貪る。
「ナズナ、その子…名前どうするか、蠍だからスコーピオン…スコール?スコールを見張っといて。」
俺はナズナにスコールの見張りを任せナスハ達と倒した鉱石喰いから魔石を取り出す。
「これが魔石?魔水晶とは違うんだね。」
「はい、魔石は魔水晶を食べたり、魔力を生み出す魔物の体内にあり、ある一定の強さになると魔法を覚え、魔法が使える魔物から取れる魔石を魔法石と呼びます。魔法石は魔力を通す事で魔物が覚えていた魔法を使えるので、とても高く売買されています。」
「へぇ~面白いね、スコールもいっぱい魔水晶食べさせたら魔法覚えたりしないかな。」
「鉱石喰いは覚えるのは確か強撃や、斬撃、酸吐きだった気がします。」
「うーん、イマイチだなぁ。よし!スコールをもっと育てて最強の鉱石喰いにしよう。」
全部の魔石を取り出し、俺達は冒険者組合に戻った。
「お帰りなさいまsきゃぁぁ!鉱石喰い!」
「待って待って!俺のペットにしたから攻撃しないで!」
組合にいた冒険者に切られそうになったスコールを抱き抱える。
「…テイムしたって事ですか?そうであれ隷属の首輪を着用しないとテイムしたと認められませんので忘れないように。」
「すいません、分かりました。あとこれ精算して欲しいんですけど。」
「魔水晶の採掘と魔石の買い取りですね、魔水晶はノルマ分ありますね、魔石は…なんですかこの量!ちょっ、ちょっと待ってて下さい!組合長~!!」
組合長が呼ばれ俺達は別室に案内された。
「流石は守護竜様の恩人様でございます、まさか鉱石喰いを50匹以上も倒すとは…」
「まぁ、皆と協力して頑張ったので俺1人の力じゃないですよ。」
「なるほど、お強い仲間様もいるとは心強い。ですがテイムしたモンスターの首輪の着用は守って貰いたい。」
「すいません、今持ち合わせがなくて…」
「なんと…テイマーなのに首輪を持ち合わせてないのですか?」
「テイマーじゃないので…」
「これは失礼した!いやしかしテイマーではないのによく鉱石喰いをテイム出来ましたな…よし、分かりました。魔石の精算している間に首輪はこちらが用意しますので暫くお待ち下さい。」
そう言うと組合長は部屋を出る。
「ふぅ~怒られちゃったな、魔石っていくら位するんだろ?」
「鉱石喰いの魔石は大体1つ銀貨50枚はするんじゃないかな?」
「へぇ魔水晶より安いね。」
「いや、ご主人の魔水晶の質が異常なだけで普通は魔水晶より魔石の方が高いよ?魔石は魔力を蓄える所だからね。」
「あ~そっか、流通してる魔水晶は最低魔力100とかだもんね。」
そんな話をしていると組合長が戻ってくる。
「精算が終わったので確認して下さい、基本報酬の銀貨50枚にノルマの魔石5個を除いた魔石75個で金貨38枚です。それと隷属の首輪です」
「ありがとうございます、隷属の首輪の代金は幾らですか?」
そこから首輪の代金は受け取らないと断ってきた組合長と10分程言い合いをし、なんとか代金を受け取ってもらい王城へ戻った。
「おぉ、マサル鉱石喰いを狩りまくったそうじゃな!流石は儂の恩人じゃ!」
「めっちゃ恩人を強調するじゃん…ありがと、依頼も終わったし明日には帰るよ。」
「そうか、寂しくなるのぅ。」
「そうだ、明日帰る前に王様に会えるように伝えてくれるかな。」
「?よく分からぬが良いぞ!」
王様とのアポを取った俺はナズナにサプライズの用意をお願いして、最後の高級ふかふかベットを堪能した。
「そう言えば、どうしてマサルは儂の背に乗るのを断ったんじゃ?」
グラーザンへ向けて歩きながらルビィと談笑しているとそんな質問が飛んできた。
「そうだよご主人、ドラゴンのに乗せてもらうなんて王様でも出来ない機会だよ?」
「いやぁ、だってほら…初めての旅だし皆と仲良く歩いて行きたいと思ってさ?」
「嘘じゃな。」
「え!?」
「儂の勘が嘘じゃと言っておる、ドラゴンの勘を舐めるではないぞ?かっかっ」
ドラゴンって嘘見抜けるのか、凄いなドラゴンセンス…
「くっ…別に乗ろうと思えば乗れるんですけどね?乗れるんですけど、すこーし高い所が苦手というかなんと言うか…」
俺は今凄く惨めな言い訳をしているなと自分でも分かる。
「え~ご主人高い所怖いのかい?ぷぷ!案外可愛い所があるんだな!」
「くっ!【締縛】」
「ぐふ…久しぶりにご主人のそれ喰らったよ…」
「ほんと久しぶりだね、最近はナスハが良い子過ぎたから懐かしいよ。」
「ほぉ~お主ら奴隷と主人の関係なのに仲が良いのぅ。」
「まぁ、奴隷だからどうこうって考えはあまりないので…所でグラーザンってここからどの位遠いんですか?」
「何?お主グラーザンまでの距離を把握せずに行こうとしてたのか?この速度で行くと大体2週間以上かかるぞ?」
「え!?2週間以上!?そんな…車が恋しい…」
「車?が何かは分かりませんが街からグラーザンまでの馬車が出ていた気がします。」
「えぇ…レンカそれ知ってたんなら教えてよぉ。」
「申し訳ありません主、主がとても楽しそうにしておられましたので口に出すのは憚りました。」
「あ~こっちこそごめんね、グラーザンまでの距離位調べれば良かったよ。」
「どうする?今からでも儂の背に乗るか?儂なら3日ほどで着く事が出来るぞ。」
「でもなぁ、高いのは…うーん。」
「じゃあ低空飛行してもらえばいいじゃんご主人!何日も歩くの嫌だろ?」
ルビィの誘惑やナスハの説得で結局俺は乗せてもらう事にした。
「いやぁ、ほんとに凄いなぁ…ドラゴンの背に乗るなんて夢のまた夢みたいだから実感がまだ無いよ。」
「それは何よりじゃ、ほらそろそろ見えてきたぞ。」
ルビィの背に乗って3日目、俺達はグラーザンに着いたのだった。
「「守護竜様ー!守護竜様ー!」」
グラーザンの上を通ると人々が顔を上げて守護竜様と叫んでいる、そしてルビィはそれらに手を振って応えるが地上には降りない。
「あの、ルビィさん?ドラゴンが街の上通るのは大丈夫なのか心配だったけど、特に問題なさそうだから安心しましたが今別の心配が増えましたよ。守護竜様って何?お偉いさんなんですか??」
「かっかっ!今更気付いたのか、そうじゃ!儂は偉いんじゃ、じゃから今下降りるのはマズイし一先ず儂の巣に戻るぞ。」
そう言って向かったのは王城…ではなく王城を越えた火山の頂上付近だった。
「あっつぅ…」
《【多数・炎耐性】(Ⅷ)》
「おぉ、暑くなくなった!ありがと、ナズナ。」
「ほう、流石ナズナ殿じゃな。」
グラーザンに向かう間にナズナの事は話してある、何故かナズナを格上と認識しており最初は様付けで読んでいたがナズナ自ら様付けを辞めさせると殿呼びに安定した。
「ここがルビィの家ですか?」
「まぁ、家と呼べる物ではないし巣じゃな、あの子らにも顔を出すとするか。」
「火山の頂上付近なのにあそこだけ建造物がありますね。」
「まぁな、中に入れば分かるぞ。」
ルビィに案内されるまま俺達は建造物に入る。
「ピィ!ピィ!」
「おぉヨシヨシ、元気にしておったか?あまり人に迷惑をかけるでないぞ?」
「お帰りなさいませ、守護竜様!ご子息様達は食事を充分に召し上がれ健康そのものでございます!」
「うむ、お前達もよく働いてくれておる。この子らの世話は大変だろうが宜しく頼む。」
「はっ!命に換えましても!」
「なるほど、ここはルビィの子供達の家なんですね。」
「どっちかと言うとこの子らを世話する人の子らの為、じゃな。この子らにとってここは適温でも、人の子らにはちと暑すぎるのでな。」
「なるほど。」
「守護竜様、お連れの方々はどういった関係で?」
「おぉ、そうじゃった。このマサルは儂の恩人でな!その恩人がここに来る用事があったらしくて一緒に来たのじゃ、くれぐれもマサルとマサルの奴隷達に無礼を働くでないぞ?このお方には儂でさえ勝てない御方が付いてるからの。」
「は、ははぁ!マサル様には我らの守護竜様を助けて頂きありがとうございます!すぐさま下の者にもマサル様への対応を伝えさせて頂きます!」
「はい、ありがとうございます。ですがここには1冒険者として来たのであまり仰々しいのはやめて下さい。」
「なんと、そうでしたか。分かりました、ではパレードはやめておきますか?」
「絶対やめて下さい。」
危ない危ない、最初に宣言してなければパレードで見せ物にされる所だった…傅かれるのは気持ちいいけど、パレードはちょっと嫌だな。しかも守護竜の恩人ー何をしたかは知らないーなんて“何故か分からないけど偉い人”みたいで恥ずかしい。
「話は済んだか?では、街に行くかの。」
「「「「守護竜様ー!守護竜様こっち見てー!守護竜様握手してください!!」」」」
「守護竜様これ受け取って下さい!」
「守護竜様是非これ食べてみてくだせぇ!」
ルビィとグラーザンの城下町に行くとまるで大スターが来日した様な熱狂が起きてしまった、どんどん人が集まってきて歩けもしない。
「ドラゴンなのに人気者なんですね。」
「まぁの、数百年はこの土地を守っておるから儂に対する恐怖心は消え、信仰心ばかり高まった結果じゃな。とはいえこのままじゃ歩く事も出来んか…ふむ。」
ルビィが空に飛び上がりドラゴンの姿になる
「皆の気持ちしかと受け止めた!今から王城前で【挨拶参り】を許可するから列になって付いてくるが良い!」
挨拶参りってなんだよ…と思っていると
〘という訳じゃからマサルは今の内に街を見てくるとよい、儂はこのまま王城に戻るから後で来るといい。〙
(分かりました、ありがとうございます。)
ルビィに念話で感謝を告げると俺達はグラーザンを観光することにした。
「ご主人グラーザン焼きだって!美味しそう!気になる!」
「主殿、あちらに良さそうな鍛冶屋があります、少し覗いていきませんか。」
「“守護竜様の御加護付きドラゴン置物”?御加護とやらは胡散臭いが可愛い見た目をしているな…」
「ご主人様今から組合に向かわれますのですか?」
ナスハが名物に釣られ、ライドが鍛冶屋に興味を持ち、レンカが置物に惹かれている。唯一ユタは俺にどうするかを聞いてきたが、目につくもので興味を引くものがなかったからだろう。
「とりあえずお腹減ったからグラーザン焼きでも食べるかな、その後に色々巡って最後に組合に行けば良いでしょ緊急性がある訳でもないし。」
皆が賛同した後は色々観光して結局組合に行くのは明日になった、因みにグラーザン焼きは火山の様な金型に生地を流し込み味を染み込ませた細切れ肉をタネにした肉まんとたい焼きの中間の様な物で結構美味しかった。
一通り観光し終わって王城に行くとルビィの元へ案内される。
「おぉマサル、グラーザンは楽しめたかの?」
「お陰様で、土産物とか名物があって観光地として来ても良さそうですね。」
「そうじゃろそうじゃろ!鉱石がよく採れるから鍛冶屋の街と思われるが文化が発展しておるし、温泉もある。そして儂が守護しておるから他のモンスターに襲われる心配がなく食料も安定していて観光地としても魅力があるのじゃ!」
「成程、だから街の人は皆笑顔でルビィに感謝してたんですね。所で温泉って何処にあるんですか?是非入ってみたいです。」
「温泉なら王城の中にでもある、今日は王城に泊まると良い。良いじゃろ王よ?」
「はっグラーザンの物は全て守護竜様の物でございます。」
「お、王様!?ルビィの後ろにいたからてっきり従者か何かと思った…」
俺は驚いたと同時に跪く、跪いた事なんてないから合ってるか分からないが立ってるよりはマシだろう。
「マサル殿おやめ下さい、我が国の民に守護竜様の恩人を跪かせたと知られれば末代までの恥です。どうかお立ちになって下さい。」
「分かりました、ありがとうございます。それと今日はお世話になります」
たまたま1匹のドラゴンを手助けしただけで、とんでもない事になったなと思いながら俺達はグラーザン国王になすがままに持て成された。
「いやぁ、とんでもない体験が出来たねぇ。」
「俺は粗相が出ないか胃がキリキリしました…」
「王城内に入れるだけでなく王と会食とは…二度と忘れる事はないでしょう。」
「王宮料理ほんとに美味しかったです…見た目も美しくて食べるのが勿体ない位でした…」
部屋に戻るとナスハ、ライド、レンカ、ユタが思い思いの感想を大きなため息と共に吐いた。良かった、皆ガチガチに緊張していたけど楽しんでくれていたみたいだ。
「ライド、温泉行こっか!落ち着いたら皆も温泉行っていいからね。」
俺はライドを誘って王城内にある温泉へ向かった。
「あぁ~良い気持ち~」
「流石は王族御用達の温泉ですね。」
「そう言えばグラーザンって鉱山都市じゃなかった?何で都市に王様がいるの?都市なのに国なの?」
まるで疑問に思ってなかったが冷静になるとおかしい事に気付く。
「それは私から説明いたしましょう。」
「王様!?すいません、湯煙で全然気付きませんでした。」
「かまいません、王様と言っても人々の意見を纏め守護竜様にこの国を住み心地良く思ってもらう為仕えてる身ですから。ここグラーザンは鉱石が豊富で守護竜様の加護もあり、孤立したとしても都市の経済を回せる事が出来ます。
その為国からの援助を受けない代わりに国からの指図も受けません。そうなってくるといよいよ1都市ではなく1つの国ではないか?という声が上がり始め次第に独立を求め国との対立する動きになりました。
しかし守護竜様が国と戦う事を窘め、国もまた守護竜様が守るここと衝突する事を恐れ超法規的措置としてグラーザンを都市であるものの独立した封権制度を行う事を黙認されました。そうして今に繋がるのです」
「へぇ~そんな歴史があったんですね、勉強になります。」
グラーザンの歴史を聞きながら俺は忘れかけていた力による蹂躙や支配に対する憧れを思い出していた、風呂から上がり皆が寝静まった深夜。
「なぁナズナ、俺は小説とかで力を手に入れた主人公が力に溺れず人の為に使うのを見て甘っちょろくて嫌だったんだ。でも今の俺を振り返るとそんな甘っちょろい主人公達と似た様な事をしていて案外そんなもんなんだなって思い始めたよ。」
《優様はこの世界を支配したいのですか?》
「まさか、支配するのはめんどくさいし、今の俺は弱いから簡単に打ち倒されてしまうよ。ただまぁ出来る事なら人生で1回くらい弱い者いじめをしてやりたいって思ってたんだけどね…どうやら俺は小心者の平和主義者だったらしい。ははっ」
《私は優様が力に溺れるよりも小心者の方が良かったです。》
「それもそうだね、でもこの世界の各国の情報はあっても良いかもしれないから時間がある時に情報を集めていてくれる?」
《承知しました、では魔水晶の制作を一時停止し、情報収集を優先いたします。》
「お願いね。」
俺はこの世界でやりたい事を考えながら明日に備えて寝る事にした。
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18.ズルというかチート
「採掘場所ですがグラーザン坑道の浅瀬は正式な鉱夫が採掘しておりますので坑道と繋がっている洞窟をお使いください、その際に現れる鉱石喰いを倒し魔石を持ち帰ってもらいますと買い取らせて頂きます。」
グラーザンの冒険者組合にいる受付嬢さんから依頼の詳細を聞き俺達はグラーザン火山の洞窟へ向かう。
「しっかし、折角貸して貰った冷気が出る作業着もナズナさんがいれば必要なかったね。」
「そうだね、ナズナ様々だ。」
組合で渡された冷気が出る作業着はグラーザンの坑道では必需品だ、しかしナズナによる火に対する耐性魔法の前では無用の長物だった。
「人もいないし、そこそこ魔水晶もあるし、ここら辺で良いかな?」
「じゃあ皆予定通り軽く掘ろっか、ナズナお願いね。」
《承知しました。》
俺達が魔水晶を掘っている間にナズナが事前に用意していたただの水晶ーバスケットボール程の大きさーにどんどん魔力を入れていく、すると段々生き物の気配が近寄ってくるのが分かる。
《優様、鉱石喰いが釣れました。合計50匹ほどです。》
「予想以上に釣れたな!?ナズナ皆に補助魔法をお願い!」
《【多数・全能力上昇】(Ⅸ)、【多数・斬撃無効】(Ⅸ)、【多数・打撃無効】(Ⅸ)》
「なにこれなにこれぇ!?」
「凄すぎる、力がどんどん漲ってくる…」
「まるで自分の体じゃないみたいだ!」
「明らかに魔力量が増えてる!?魔力容量と魔力その物を増やすなんて効率が悪すぎるのに…ナズナ様凄すぎです!!」
ナズナが惜しげも無く最上級の補助魔法をかけてくれる、おかげでライズ達は奇声を上げて興奮していた。
「興奮してるとこ悪いけどもうすぐ鉱石喰いがくるから気を引き締めてね!」
注意したあと直ぐに大量の足音と共に鉱石喰いが現れる。
「これが鉱石喰い…サソリみたいだな!」
鉱石喰いは体長5m程のサソリの様な見た目で尻尾は針の代わりにハンマー状になっており、尻尾を使って鉱石を砕き食べるらしい。
「この量は不味いか…?皆!だいじょうb…あれ?」
「ははは!凄い凄い!鉱石喰いの甲殻が紙みたいに切れるよ!」
「ぐっ…!痛く、ない…?鉱石喰いの尻尾に当たっても全然痛くない!」
「はぁぁ!【風刃】(Ⅲ)!はははっ!俺の風刃で3体纏めて切れたぞ!明らかに攻撃力と範囲が上がっている!!」
「えい!えい!!はふぅ…まさか私が鉱石喰いを殴り殺せる日が来るとは…ナズナ様、素晴らしすぎますぅ…!」
ナスハが鉱石喰いの攻撃を掻い潜りながら攻撃し、レンカは攻撃を受けながらゴリ押しで反撃し、ライズは威力が上昇したスキルに感嘆してスキルを連発し、ユタは鉱石喰いをメイスで撲殺しながら恍惚とした表情でナズナに感謝の言葉を送る。なんだこれ、俺の奴隷ってこんなに戦闘狂だったっけ…
「まぁ、皆楽しんでるなら良いか!よし!俺も行くぞぉ!」
鉱石喰いを半数以上倒した所で鉱石喰いが逃走し、残った鉱石喰いが数体になった所で魔法の効果が切れる。ナズナ曰く《バフ付与での戦いは修行になりませんので残りの鉱石喰い位は自力で倒して下さい。》との事らしい。
「はぁ~!終わったぁぁぁ…普通に戦ったらめっちゃ強いじゃん…」
「ナズナさんのバフが異常なんだよご主人。」
「相手の攻撃が効かないのは些か反則じみていたな…素晴らしかったが。」
「まさかスキルまで強くなるなんて思わなかったです。」
「あぁ…鉱石喰いを殴り殺す感触…もう一度味わいたいです…」
1人完全に戦闘狂にジョブチェンジしてるな…と思いながら俺も戦ってた時の気持ち良さの余韻に浸っていた。
(やっぱり命の奪い合いは病みつきになるよなぁ、こう生きてるってのを実感するというか…)
コツンッ
物音がした方を向くとそこには鉱石喰いの子供だろうか、50センチ程の鉱石喰いが威嚇しながら後ずさりしていた。
「こいつ可愛いな!ナズナこの子ペットに出来ない?」
《申し訳ありません、従属魔法は付与されていないので難しいかと…魔力で脅す事なら出来ますが。》
そう言うとナズナは鉱石喰いの子供の元まで近づき
「シャー!シャー!」
《黙りなさい、あなたの生殺与奪権はこちらにあるのです。》
「キューン、キューン。」
ナズナが一声かけるとさっきまで威嚇していた鉱石喰いの子供が小さく縮こまって震えている。
《優様、これでこちらに敵意は無くしたかと。後は餌でもやれば懐くのではないでしょうか。》
「ありがとナズナ!可愛いなぁお前、ほらほらこれでも食べて元気出せよ。」
俺は持ち歩いていたナズナ製の魔水晶を与える。
「ッ!」ガツガツガツ!
鉱石喰いの子供は凄い勢いで魔水晶を貪る。
「ナズナ、その子…名前どうするか、蠍だからスコーピオン…スコール?スコールを見張っといて。」
俺はナズナにスコールの見張りを任せナスハ達と倒した鉱石喰いから魔石を取り出す。
「これが魔石?魔水晶とは違うんだね。」
「はい、魔石は魔水晶を食べたり、魔力を生み出す魔物の体内にあり、ある一定の強さになると魔法を覚え、魔法が使える魔物から取れる魔石を魔法石と呼びます。魔法石は魔力を通す事で魔物が覚えていた魔法を使えるので、とても高く売買されています。」
「へぇ~面白いね、スコールもいっぱい魔水晶食べさせたら魔法覚えたりしないかな。」
「鉱石喰いは覚えるのは確か強撃や、斬撃、酸吐きだった気がします。」
「うーん、イマイチだなぁ。よし!スコールをもっと育てて最強の鉱石喰いにしよう。」
全部の魔石を取り出し、俺達は冒険者組合に戻った。
「お帰りなさいまsきゃぁぁ!鉱石喰い!」
「待って待って!俺のペットにしたから攻撃しないで!」
組合にいた冒険者に切られそうになったスコールを抱き抱える。
「…テイムしたって事ですか?そうであれ隷属の首輪を着用しないとテイムしたと認められませんので忘れないように。」
「すいません、分かりました。あとこれ精算して欲しいんですけど。」
「魔水晶の採掘と魔石の買い取りですね、魔水晶はノルマ分ありますね、魔石は…なんですかこの量!ちょっ、ちょっと待ってて下さい!組合長~!!」
組合長が呼ばれ俺達は別室に案内された。
「流石は守護竜様の恩人様でございます、まさか鉱石喰いを50匹以上も倒すとは…」
「まぁ、皆と協力して頑張ったので俺1人の力じゃないですよ。」
「なるほど、お強い仲間様もいるとは心強い。ですがテイムしたモンスターの首輪の着用は守って貰いたい。」
「すいません、今持ち合わせがなくて…」
「なんと…テイマーなのに首輪を持ち合わせてないのですか?」
「テイマーじゃないので…」
「これは失礼した!いやしかしテイマーではないのによく鉱石喰いをテイム出来ましたな…よし、分かりました。魔石の精算している間に首輪はこちらが用意しますので暫くお待ち下さい。」
そう言うと組合長は部屋を出る。
「ふぅ~怒られちゃったな、魔石っていくら位するんだろ?」
「鉱石喰いの魔石は大体1つ銀貨50枚はするんじゃないかな?」
「へぇ魔水晶より安いね。」
「いや、ご主人の魔水晶の質が異常なだけで普通は魔水晶より魔石の方が高いよ?魔石は魔力を蓄える所だからね。」
「あ~そっか、流通してる魔水晶は最低魔力100とかだもんね。」
そんな話をしていると組合長が戻ってくる。
「精算が終わったので確認して下さい、基本報酬の銀貨50枚にノルマの魔石5個を除いた魔石75個で金貨38枚です。それと隷属の首輪です」
「ありがとうございます、隷属の首輪の代金は幾らですか?」
そこから首輪の代金は受け取らないと断ってきた組合長と10分程言い合いをし、なんとか代金を受け取ってもらい王城へ戻った。
「おぉ、マサル鉱石喰いを狩りまくったそうじゃな!流石は儂の恩人じゃ!」
「めっちゃ恩人を強調するじゃん…ありがと、依頼も終わったし明日には帰るよ。」
「そうか、寂しくなるのぅ。」
「そうだ、明日帰る前に王様に会えるように伝えてくれるかな。」
「?よく分からぬが良いぞ!」
王様とのアポを取った俺はナズナにサプライズの用意をお願いして、最後の高級ふかふかベットを堪能した。
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