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第283話 いささか違和感な単語

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「えっ!?
な、何っ…?」

 魔言将まげんしょうイルーラは俺の目を真っすぐ見つめながら
 俺の頬に両手を伸ばした。
 彼女の白くて細い柔らかな指先が俺の頬に触れて来て…気持ち良ッ!
 違う違う、そうじゃない!
 魔族のボス格である彼女に突如触れられてしまい、
 俺は呆気に取られてしまった。

「あ、あの…」

「…この感触が『気』を使う戦士なのね…」

 さわさわさわ

「一体何を…?」

「…確かに身体の奥から、魔力とは異なる力を感じるわ…」

 さわさわさわ

「ちょ…ちょっと…聞いてます?」

「…非常に興味深いわ、もっと深く調べたい…」

 さわさわさわ

 イルーラは俺の言葉を全く意に介さずに俺の頬を触りまくっている。
 女の子の柔らかい指先がうごめいて、俺の身体を快楽の波が駆け抜ける。
 俺はその波に翻弄されて身体が硬直してしまい一歩も動けなくなってしまった。

「…すまないナルガネ・ケイガ。
我があるじイルーラ様は”新しいもの”には目が無い。
とても好奇心旺盛なお方なのだ。
このエゾン・レイギスでは珍しい
キサマの『気』の力に、この上ない興味を示されてしまった。
こうなってしまっては、
もう我には止めらねぬ…許せ」

 いつの間にか俺の側に来ていたエクゼヴが
 ため息を吐きながら俺に謝罪した。
 えっ…何それ?
 俺の脳裏には不意にエクスラント聖王国の魔法学者ミリィが思い出された。
 彼女もことあることに好奇心旺盛だったなあ…。
 まあ彼女は出会ってすぐにさわさわと触れてくる様な真似はしなかったけどな!

「…もっと身体を重ねてみるわ…」

 イルーラは俺の背中に手を廻すと、
 そのか細い身体を俺の胸の中に預けた。

「う、うあああああああ!?」

 思わず声を上げてしまっう俺。
 いやだって…
 この異世界エゾン・レイギスの人間にとって、
 魔族は不倶戴天ふぐたいてんの敵であり凶悪無比な存在と俺は学んだ。
 そんな魔族のボス格と実際会ってみれば…
 そんな事を感じさせない、か細い印象の可愛い女の子で…
 しかも初対面なのに俺にいきなり触れてきて…
 その細い指の感触が気持ちよくて…
 あげくに俺に抱き付いて来て!?
 こんなことをされて動揺しない訳が無いのである。
 俺は生まれてきて25年の筋金入りの童貞なのだ!
 耐えられるわけが無い!
 俺は悪くない!
 俺は無実だ!

「…私の心臓と貴方の心臓を重ねてより解る…
…これが『気』と呼ばれる力なのね…
…それにしても、これ程の大きな未知の力を持っているなんて…
…流石は勇者ユウカの兄で『童貞』ということなのかしら…」

 魔族であり、魔族のボス格である高位魔族であり、
 か細い印象の美少女である彼女が口にするには
 ”いささか違和感な単語”が俺の耳に突き刺さった。
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