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第2部 大帝国のヤンデレ皇子に囚われたりなんてしない!
第23章 創治(ユース)、勇者に救出される
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ちょっと時間を巻き戻して、アリーシャがお忍び探索に出掛ける前のことを説明しよう。
ユースを身替わりに監禁部屋を脱出しようとするアリーシャが、脱ぎ捨てたドレスを手にこんなことを言ってきた。
『じゃあハイ、ユース。私のドレス』
あまりに当たり前のように手渡してくるので、ついうっかりユースにドレスを受け取らせ、俺は「ん?」と思った。
『あの、アリーシャ様……。何ですか、このドレス。保管しておけってことですか?』
『え?ユースが着るんでしょ?だって私の身替わりなんだから』
『は!? いや、身替わりだからって何もドレスまで着なくてもいいでしょう!?』
『でも、見回りの兵士さんとかが急に覗き窓から部屋の中チェックしてきたらどうする?あからさまに「男!」って感じの人間がいたらマズくない?ドレス着て、後頭部に大きなリボンとかつけて、扉になるべく背を向けて過ごしてたら、いろいろ誤魔化せるんじゃない?』
『いや、そうかも知れませんけど……。着れないでしょう、アリーシャ様サイズのドレスなんて』
『大丈夫だよ!この世界の服ってすっごく伸びるんだから!ヘンだと思ってったんだよねー。明らかに体型の違うキャラ同士が装備を交換したり、同じ種類の服を着られたりするの』
言いながらアリーシャはユースの頭に無理矢理ドレスを被せ、下の方へと引っ張った。
ドレスはまるでゴム風船のようにびよーんと伸び、ユースの身体にフィットする。
『うわぁ、ピッタリ!カワイイよ、ユース!』
『ちょ……っ、嫌ですよ、こんなの!脱ぎます!何と言われようと脱ぎます!』
『脱ぎ方分かる?ドレスの脱ぎ着ってコツが要るんだよ。私も慣れないうちは一人で脱げなかったし』
『え!? アレ!? 嘘だろっ!? 脱げない!マジで脱げない!どうなってんだ、コレ!』
『じゃあ私、行って来るから。お留守番よろしくねー』
『いや、ちょ……っ!コレ、脱がせてくださいよ!』
だがアリーシャはユースを置いてサッサと隠し通路に入っていく。
アリーシャの奴……ユースが俺だと思って雑に扱い過ぎじゃないか?
「俺に対する扱いヒドくね!?」
思わずボヤいてしまう。
まぁ、愛理咲がこういう奴だってのは嫌と言うほど知っているわけだが……。
その後、アリーシャは "一人で危ないことしたりしない" という言葉はアッサリ忘れ果て、聖霊戦士の大量発生した迷宮都市を走り回り、皇妃とうっかりバトりかけ、ついには皇帝を倒さずに呪いから解放してしまった。
俺は制作者なので、当然その行動は全て把握していたわけだが……
「……クソッ。ユースを登場させるスキが無ぇ……っ」
ユースを投入して展開を修正しようにも、チェリーにアッシュにフィオレンジーヌと、キャラの濃い面々が次々と現れ自由に動きまくるせいで、ユースについての記述が入れられない。
何と言うか、 "会話に入りたいのに、既に話が盛り上がり過ぎていて上手く言葉をはさめない" みたいな状況だ。
……どうもアリーシャとふれ合わせると、どのキャラも同じように好き勝手し始める気がするのだが……暴走というのは伝染するのだろうか。
「結局、勇者を差し置いて大団円、か。勇者の立場もあったもんじゃないな」
魔王アッシュの時にも倒れたままで終わった勇者は、今回も気絶したままだ。
本来なら呪われた皇帝を倒し、皇妃と王女を囚われの身から救出するオイシイ役どころだと言うのに……。
ちなみにベージュおじさんこと皇帝ベルージュリオはその後、皇妃の囚われていた北の塔に今度は自分が幽閉されることになる。
しかし元からやる気がなくM気質の皇帝は、Sっ気のある皇妃に囚われ時々ネチネチ嫌味を言われる状況を『悪くない』と思っているようだ。
「何だかんだで、結局不憫なのはユースと勇者ばかりか……」
勇者と俺を重ね合わせ哀れみながら、ふと俺はユースの現状に気づいた。
「ん?これって、ユースがまだ例の監禁部屋で留守番してることにならないか?」
ユースに関する記述は、アリーシャが皇子をデートに連れ出す前で止まっている。
場所は例の監禁部屋。しかもユースはドレスを脱がしてもらえないままだ。
「……いや!今からでも記述を足せば……。実はユースは密かにアリーシャの後をついて回ってたみたいな……」
だが、その記述を打ち込むよりも早く、俺の頭にあるシーンが浮かんだ。
クリスパレスの奥深くにある隠し部屋……。固く閉ざされたその扉が、一人の男の手により開け放たれる。
『アリーシャ姫!ご無事ですか!?』
蹴破るような勢いで扉を開けたその男……勇者レッドは部屋に駆け込み、中にたたずむドレス姿の人物の手を取る。
『良かった!アリー……』
名を呼びかけ、勇者は硬直する。
呼びかけられた側も、何とも言えずに固まった。
『…………えっと……君は、アリーシャ姫ではない……よな?』
『……ああ。俺はアリーシャではないんだが』
……勇者……アリーシャが既に自分で勝手に囚われ状態を脱出したことも知らされず、こんな所まで助けに来てしまったのか……。
「いや……これじゃ、勇者の扱いもヒド過ぎるだろうが……愛理咲……」
ユースを身替わりに監禁部屋を脱出しようとするアリーシャが、脱ぎ捨てたドレスを手にこんなことを言ってきた。
『じゃあハイ、ユース。私のドレス』
あまりに当たり前のように手渡してくるので、ついうっかりユースにドレスを受け取らせ、俺は「ん?」と思った。
『あの、アリーシャ様……。何ですか、このドレス。保管しておけってことですか?』
『え?ユースが着るんでしょ?だって私の身替わりなんだから』
『は!? いや、身替わりだからって何もドレスまで着なくてもいいでしょう!?』
『でも、見回りの兵士さんとかが急に覗き窓から部屋の中チェックしてきたらどうする?あからさまに「男!」って感じの人間がいたらマズくない?ドレス着て、後頭部に大きなリボンとかつけて、扉になるべく背を向けて過ごしてたら、いろいろ誤魔化せるんじゃない?』
『いや、そうかも知れませんけど……。着れないでしょう、アリーシャ様サイズのドレスなんて』
『大丈夫だよ!この世界の服ってすっごく伸びるんだから!ヘンだと思ってったんだよねー。明らかに体型の違うキャラ同士が装備を交換したり、同じ種類の服を着られたりするの』
言いながらアリーシャはユースの頭に無理矢理ドレスを被せ、下の方へと引っ張った。
ドレスはまるでゴム風船のようにびよーんと伸び、ユースの身体にフィットする。
『うわぁ、ピッタリ!カワイイよ、ユース!』
『ちょ……っ、嫌ですよ、こんなの!脱ぎます!何と言われようと脱ぎます!』
『脱ぎ方分かる?ドレスの脱ぎ着ってコツが要るんだよ。私も慣れないうちは一人で脱げなかったし』
『え!? アレ!? 嘘だろっ!? 脱げない!マジで脱げない!どうなってんだ、コレ!』
『じゃあ私、行って来るから。お留守番よろしくねー』
『いや、ちょ……っ!コレ、脱がせてくださいよ!』
だがアリーシャはユースを置いてサッサと隠し通路に入っていく。
アリーシャの奴……ユースが俺だと思って雑に扱い過ぎじゃないか?
「俺に対する扱いヒドくね!?」
思わずボヤいてしまう。
まぁ、愛理咲がこういう奴だってのは嫌と言うほど知っているわけだが……。
その後、アリーシャは "一人で危ないことしたりしない" という言葉はアッサリ忘れ果て、聖霊戦士の大量発生した迷宮都市を走り回り、皇妃とうっかりバトりかけ、ついには皇帝を倒さずに呪いから解放してしまった。
俺は制作者なので、当然その行動は全て把握していたわけだが……
「……クソッ。ユースを登場させるスキが無ぇ……っ」
ユースを投入して展開を修正しようにも、チェリーにアッシュにフィオレンジーヌと、キャラの濃い面々が次々と現れ自由に動きまくるせいで、ユースについての記述が入れられない。
何と言うか、 "会話に入りたいのに、既に話が盛り上がり過ぎていて上手く言葉をはさめない" みたいな状況だ。
……どうもアリーシャとふれ合わせると、どのキャラも同じように好き勝手し始める気がするのだが……暴走というのは伝染するのだろうか。
「結局、勇者を差し置いて大団円、か。勇者の立場もあったもんじゃないな」
魔王アッシュの時にも倒れたままで終わった勇者は、今回も気絶したままだ。
本来なら呪われた皇帝を倒し、皇妃と王女を囚われの身から救出するオイシイ役どころだと言うのに……。
ちなみにベージュおじさんこと皇帝ベルージュリオはその後、皇妃の囚われていた北の塔に今度は自分が幽閉されることになる。
しかし元からやる気がなくM気質の皇帝は、Sっ気のある皇妃に囚われ時々ネチネチ嫌味を言われる状況を『悪くない』と思っているようだ。
「何だかんだで、結局不憫なのはユースと勇者ばかりか……」
勇者と俺を重ね合わせ哀れみながら、ふと俺はユースの現状に気づいた。
「ん?これって、ユースがまだ例の監禁部屋で留守番してることにならないか?」
ユースに関する記述は、アリーシャが皇子をデートに連れ出す前で止まっている。
場所は例の監禁部屋。しかもユースはドレスを脱がしてもらえないままだ。
「……いや!今からでも記述を足せば……。実はユースは密かにアリーシャの後をついて回ってたみたいな……」
だが、その記述を打ち込むよりも早く、俺の頭にあるシーンが浮かんだ。
クリスパレスの奥深くにある隠し部屋……。固く閉ざされたその扉が、一人の男の手により開け放たれる。
『アリーシャ姫!ご無事ですか!?』
蹴破るような勢いで扉を開けたその男……勇者レッドは部屋に駆け込み、中にたたずむドレス姿の人物の手を取る。
『良かった!アリー……』
名を呼びかけ、勇者は硬直する。
呼びかけられた側も、何とも言えずに固まった。
『…………えっと……君は、アリーシャ姫ではない……よな?』
『……ああ。俺はアリーシャではないんだが』
……勇者……アリーシャが既に自分で勝手に囚われ状態を脱出したことも知らされず、こんな所まで助けに来てしまったのか……。
「いや……これじゃ、勇者の扱いもヒド過ぎるだろうが……愛理咲……」
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