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第2部 大帝国のヤンデレ皇子に囚われたりなんてしない!

第21章 アリーシャは皇帝と皇子を救いたい

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 オリジナルのシナリオで、勇者レッドと皇子クリアの共闘により倒された皇帝は、死の間際、初めて息子の顔をまともに見つめる。
 
 そして、今気づいたかのように言うのだ。
 
『クリスティアーノ……お前、こんなに大きくなっていたのか……?』
 
『はい。貴方は母上と骨董品にばかり夢中で、少しも私のことを見てくださらなかった。その間に、もうこんなに成長していたのです』
 
 これまでのうらみをぶつけるように言うクリアに、皇帝はさみしげに微笑みかける。
 
『少し、フィオに似てきたのぅ……。そうか……もうこんなに育ったのか……』
 
 苦しい呼吸の中、皇帝は息子に最期さいごの言葉を伝えようとする。
 
『お前は、私のようにはなるまいな。お前は昔から、私とは比べものにならぬほどに出来できの良い息子であった。周囲から何も望まれぬ "おかざりの皇帝" の私とは違う……』
 
 そしてクリアは初めて、父の胸の中にあった劣等感と葛藤かっとうを知ることになる。
 
 能力も容姿も平凡で、自分に自信を持てなかったばかりに、皇妃の愛を信じられず、誰にも奪われぬよう閉じ込めてしまったこと。"形だけの皇帝" としてしか求められなかったために、どんどん政務に対する意欲を失っていったこと……。
 
 そして、自分とはまるで違う優秀な息子に、みにくいコンプレックスを抱き、避けていたこと……。
 
『皇帝となるべく生をけながら、結局私は何も得ることができなかった。何もすことができなかった。クリスティアーノ、許せとは言わぬ。だが……お前は決して、私のようになるでないぞ』
 
 最後の最後でほんの少しだけ父親らしい顔を見せた皇帝に、クリアは自分自身さえ気づいていなかったひそかな願いに気づくのだ。
 
『私は……貴方に私を見て欲しかった。言葉をかけてもらいたかった。普通のありふれた父子のように何気なにげない会話をわし、笑い合えたら、どんなに……』
 
 それ以上は言葉にならず、クリアは事切こときれた父親を抱き泣き崩れる。
 
 この父親の遺言が、クリアを改心させ、ジェラルディンちゃんを囚われの身から解き放つこととなるのだ。
 
「今、感情のままにお父さんを見放してしまったら、もしかしたら叶うかも知れない夢だって、永遠に失われちゃう!可能性がゼロかゼロじゃないかは、すごく大きな違いなんだよ!」
 
 私は必死にクリアを説得する。
 あんな哀しい父子の別れは一度プレイすれば充分だ。
 
「このままじゃ、ゼッタイ後悔する!恨みやにくしみに囚われないで、何を一番に望んでいるのか思い出して!あなた自身も見失ってる、本当の願いに気づいて!」
 
 私の懇願こんがんを、クリアはただじっと聞いていた。やがて、しみじみと声を出す。
 
「……本当に不思議な方だ。なぜ私などのために、そんなに必死になるのです?私は貴女を幽閉し、無理矢理妻にしようとしたのに……」
 
 ……それはそうなんだけど、実際あまりちゃんと囚われてなかったし、クリアの悲劇は元はと言えば私と創君のせいだしなー……。
 
「アリーシャ姫は恨みや憎しみに囚われるより、もっと大切なものを知っているのだ。わらわとてそれは同じ。恨みを晴らすことよりも、みなが幸福になれる最善の未来を、妾は望んでおる。それはあの男のためだけではなく、お前のためでもあるのだ、クリスティアーノ」
 
 皇妃がクリアに歩み寄り、その肩を優しくたたき、抱きめる。
 
 クリアは目を見開いた後、おそるおそる手を伸ばし、十数年ぶりの母との抱擁を交わす。
 
 久しぶりのその感触を味わうようにじっと目を閉じていたクリアだったが、やがて決意を秘めた眼差しで顔を上げた。
 
「……分かりました。共に父上を呪いから解放しましょう、母上」
 
 皇妃は慈愛に満ちた微笑みでうなずくと、唇を開いた。
 母の歌声にわずかにおくれて、クリスティアーノも歌い出す。
 
 柔らかな皇妃の声と、深みのあるクリアの声が重なり、美しいハーモニーとなって闘技場アリーナを満たす。
 
「綺麗……。それに、神秘的……」
 
 ボス戦の最中だと言うのに、思わずうっとりと聴きれてしまう。「心が洗われるようだ」とは、きっとこんな気持ちを言うのだろう。
 
「ヴゥヴヴゥ…………ッ?」
 
 皇帝の動きが再び止まった。
 
 その身をおおうどす黒い瘴気しょうきが、銀のラメをまぶしたかのようにチラチラと輝きだす。最初はひかえめだったその輝きは、徐々じょじょに明るく大きくなっていった。
 
「剣に宿りし荒ぶる御霊みたまよ、しずまれ。眠りにくのだ!」
 
 歌の合間に皇妃が厳しく告げると、輝きは一層増し、皇帝の身体を光で包み込んだ。
 
 断末魔のような "声" が、皇帝の口から・・・・・・ではなく、その手ににぎった剣から・・・響く。それは二人の歌に抵抗するようにしばらく続いたが、やがて力きたように止んでいった。
 
 目がくらむほどにまぶしかった光も薄れ、皇帝の輪郭りんかくがハッキリ見えてくる。
 さっきまであった中ボスらしい "強敵感" はすっかり消え去り、すっかり元の地味でヒョロリとしたベージュおじさんに戻っている。
 
 だが、激しい戦闘の名残なごりで、衣服にはところどころ赤いみが広がり、顔には血のが無く、その目は固く閉じられている。
 
 皇帝はそのまま糸の切れた操り人形のようにその場にくずおれた。
 その手から、カランと音を立てて呪いの剣がこぼれ落ちた。
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