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第1部 魔王の妃なんて、とんでもない!
第7章 アリーシャ、いきなりパーティーの主役になる
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「ちょっと創君!私、パーティーになんて出たくない!」
「却下でーす。パーティーには各国VIPも招かれてるって言いましたよね?アリーシャ様がお出ましにならないとなれば大問題が発生しますんで」
どう見ても創君にしか見えない自称ユース・イジュオーサに無理矢理城へと連れ戻され、私は部屋に押し込められた。
そして待っていたのはパーティー用ドレスへの強制お着替えイベントだった。
メイド数人に取り囲まれ、服を着せるというより「ちょっと大道具を組み立ててます」とでも言いたくなるような大がかりな作業でドレスを着付けされていく。
ドレスだけでも時間がかかってげんなりしたのに、さらにヘアメイク、アクセサリーの装着が続く。
そうして完成した "アリーシャ誕生日パーティー仕様" はなかなかの出来だったが、鏡に見惚れたのは一瞬のこと。私はすぐにドレス一式脱ぎたくてたまらなくなった。
「うぅ……キツい、重い、動きづらい……っ。早く脱ぎたいよぅ……っ」
いつもよりスカートのボリュームの増したパーティードレスは、見た目こそ華やかに美しいが、所詮は大量の布のカタマリ。金銀宝石のアクセサリーだって、結局は金属と石の集合体だ。
そんなモノをびっしり身にまとって重くないはずがないのだ。
「まぁ……っ、何てお美しい……。きっと招待客全員、姫様に目を奪われるに違いありませんわ」
メイドさんたちはそう言って褒めてくれるが……
「目を奪ったらマズい人間もいるんだけどなぁ……」
私はメイドさんたちに気づかれないよう、こっそりとつぶやいた。
……そう。この誕生日パーティーには魔王の次の囚われイベントの主犯、大帝国ガルトブルグの皇子も招待されている。
彼はこのパーティーで王女を見初め、以来、何とか自分のモノにできないかと画策することになるのだ。
「あの……私、何だかお腹痛くなってきた気が……。パーティー休んじゃだめ?」
何とかパーティーを欠席できないものかと、上目遣いにメイドさんを見上げ訴えかけたその時、バーンと勢いよく部屋の扉が開かれた。
「お着替え済んだようですねー。じゃ、会場にお連れしますんで、おとなしくついて来てくださーい」
「そ……創君……っ」
創君は、まるで "ダレがちな進行を強引にサクサク進める司会者" のように有無を言わさず事を進めてくる。
「待って、創君!私やっぱ無理!だって舞踏会とかあるんでしょ!? 私、マイムマイムくらいしか踊れないしっ!」
「嘘言わないでください。オクラホマ・ミキサーだってイケますよね?今夜の舞踏はアリーシャ様のスペックに忖度してオクラホマ・ミキサーなんで」
「嘘っ!お城のパーティーでそんな体育祭のフォークダンスみたいなの、あり得ないでしょ!?」
「それがあり得るんですねー。ハイ着きましたー。会場入りどうぞー」
シェリーロワール城1階の大ホールに押し出され、扉脇に控えていた召使たちが声高らかに私の登場を告げる。
会場にいた招待客が一斉にこちらを振り向き、拍手と歓声と感嘆のため息を贈ってきた。……あぁ、もう逃げられない。
「アリーシャ姫様、15歳のお誕生日、おめでとうございます!」
次々と人が押し寄せ、祝いのあいさつを述べていく。
私は引きつった笑みを浮かべながら何とかお礼の言葉を返していった。
「……どうも。お招きいただきアリガトウゴザイマス。メトロポラリス第一王子ブラウルート・キングフィッシャーです。……ブルーと呼んでください。本日はどうも、誕生日オメデトウゴザイマス」
社交界に慣れてもいなければ好きでもない、という風に、ややぶっきらぼうにあいさつしてきた青年がいた。
……あぁ、なるほど。この人が創君イチオシの機巧帝国の天才技師ブルーか。
今夜は一応王子様らしく盛装し、髪も整えているが、私は知っている。この人が地元では油まみれのツナギにヤンキー風ヘアスタイルでメカいじりばかりしているヤンチャな王子だということを……。
ほぼ一人でキャラ設定をした創君が、ぽつり「マイスター・ヤンキー」とつぶやいて悦に浸っているのを「ばかじゃないの」という目で見ていたものだが……なぜに男子の一部はヤンキーとメカに過剰な憧れを抱きがちなんだろう……。
「あ……あの……っ、クレッセントノヴァ第一王女の、グウェンドリーン・ルゥナリエナと申します……。本日は、おめでとうございます、アリーシャ王女殿下。貴女様に創世の二神のご加護があらんことをお祈りいたします」
遠慮がちにおずおずと声をかけてきたのは、長く真っ直ぐな黒髪に緑の瞳の、とても可憐な容姿を持つ人物だった。ドレスを着せたらさぞ似合うだろうに、男女兼用の白い聖職者用ローブを身にまとっている。
この人が聖王国の "聖王女" グウェンドリーン……略してグリーン、か。
しかし私は知っている。このいかにもおとなしく繊細そうな "美少女" が、実は重大な家庭の事情により生まれた時から女の子として育てられている男の子だということを……。
「うーん……。先にネタバレ知っちゃってると、何だかフクザツな気分……」
どう見ても清楚な聖女にしか見えないグリーンちゃんを見送って、しみじみひとりごちていると、背後から声をかけられた。
「お初にお目にかかります、アリーシャ・シェリーローズ様。ガルトブルグ帝国第一皇子クリスティアーノ・アイントラハトと申します」
「却下でーす。パーティーには各国VIPも招かれてるって言いましたよね?アリーシャ様がお出ましにならないとなれば大問題が発生しますんで」
どう見ても創君にしか見えない自称ユース・イジュオーサに無理矢理城へと連れ戻され、私は部屋に押し込められた。
そして待っていたのはパーティー用ドレスへの強制お着替えイベントだった。
メイド数人に取り囲まれ、服を着せるというより「ちょっと大道具を組み立ててます」とでも言いたくなるような大がかりな作業でドレスを着付けされていく。
ドレスだけでも時間がかかってげんなりしたのに、さらにヘアメイク、アクセサリーの装着が続く。
そうして完成した "アリーシャ誕生日パーティー仕様" はなかなかの出来だったが、鏡に見惚れたのは一瞬のこと。私はすぐにドレス一式脱ぎたくてたまらなくなった。
「うぅ……キツい、重い、動きづらい……っ。早く脱ぎたいよぅ……っ」
いつもよりスカートのボリュームの増したパーティードレスは、見た目こそ華やかに美しいが、所詮は大量の布のカタマリ。金銀宝石のアクセサリーだって、結局は金属と石の集合体だ。
そんなモノをびっしり身にまとって重くないはずがないのだ。
「まぁ……っ、何てお美しい……。きっと招待客全員、姫様に目を奪われるに違いありませんわ」
メイドさんたちはそう言って褒めてくれるが……
「目を奪ったらマズい人間もいるんだけどなぁ……」
私はメイドさんたちに気づかれないよう、こっそりとつぶやいた。
……そう。この誕生日パーティーには魔王の次の囚われイベントの主犯、大帝国ガルトブルグの皇子も招待されている。
彼はこのパーティーで王女を見初め、以来、何とか自分のモノにできないかと画策することになるのだ。
「あの……私、何だかお腹痛くなってきた気が……。パーティー休んじゃだめ?」
何とかパーティーを欠席できないものかと、上目遣いにメイドさんを見上げ訴えかけたその時、バーンと勢いよく部屋の扉が開かれた。
「お着替え済んだようですねー。じゃ、会場にお連れしますんで、おとなしくついて来てくださーい」
「そ……創君……っ」
創君は、まるで "ダレがちな進行を強引にサクサク進める司会者" のように有無を言わさず事を進めてくる。
「待って、創君!私やっぱ無理!だって舞踏会とかあるんでしょ!? 私、マイムマイムくらいしか踊れないしっ!」
「嘘言わないでください。オクラホマ・ミキサーだってイケますよね?今夜の舞踏はアリーシャ様のスペックに忖度してオクラホマ・ミキサーなんで」
「嘘っ!お城のパーティーでそんな体育祭のフォークダンスみたいなの、あり得ないでしょ!?」
「それがあり得るんですねー。ハイ着きましたー。会場入りどうぞー」
シェリーロワール城1階の大ホールに押し出され、扉脇に控えていた召使たちが声高らかに私の登場を告げる。
会場にいた招待客が一斉にこちらを振り向き、拍手と歓声と感嘆のため息を贈ってきた。……あぁ、もう逃げられない。
「アリーシャ姫様、15歳のお誕生日、おめでとうございます!」
次々と人が押し寄せ、祝いのあいさつを述べていく。
私は引きつった笑みを浮かべながら何とかお礼の言葉を返していった。
「……どうも。お招きいただきアリガトウゴザイマス。メトロポラリス第一王子ブラウルート・キングフィッシャーです。……ブルーと呼んでください。本日はどうも、誕生日オメデトウゴザイマス」
社交界に慣れてもいなければ好きでもない、という風に、ややぶっきらぼうにあいさつしてきた青年がいた。
……あぁ、なるほど。この人が創君イチオシの機巧帝国の天才技師ブルーか。
今夜は一応王子様らしく盛装し、髪も整えているが、私は知っている。この人が地元では油まみれのツナギにヤンキー風ヘアスタイルでメカいじりばかりしているヤンチャな王子だということを……。
ほぼ一人でキャラ設定をした創君が、ぽつり「マイスター・ヤンキー」とつぶやいて悦に浸っているのを「ばかじゃないの」という目で見ていたものだが……なぜに男子の一部はヤンキーとメカに過剰な憧れを抱きがちなんだろう……。
「あ……あの……っ、クレッセントノヴァ第一王女の、グウェンドリーン・ルゥナリエナと申します……。本日は、おめでとうございます、アリーシャ王女殿下。貴女様に創世の二神のご加護があらんことをお祈りいたします」
遠慮がちにおずおずと声をかけてきたのは、長く真っ直ぐな黒髪に緑の瞳の、とても可憐な容姿を持つ人物だった。ドレスを着せたらさぞ似合うだろうに、男女兼用の白い聖職者用ローブを身にまとっている。
この人が聖王国の "聖王女" グウェンドリーン……略してグリーン、か。
しかし私は知っている。このいかにもおとなしく繊細そうな "美少女" が、実は重大な家庭の事情により生まれた時から女の子として育てられている男の子だということを……。
「うーん……。先にネタバレ知っちゃってると、何だかフクザツな気分……」
どう見ても清楚な聖女にしか見えないグリーンちゃんを見送って、しみじみひとりごちていると、背後から声をかけられた。
「お初にお目にかかります、アリーシャ・シェリーローズ様。ガルトブルグ帝国第一皇子クリスティアーノ・アイントラハトと申します」
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