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0.そして勇者は父になる

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「お前が……魔王だと!? 馬鹿な!どう見ても人間じゃないか!」
 魔王城の玉座の間に、勇者の声が響く。
 魔王は泰然と座したまま、勇者の狼狽ろうばい嘲笑わらった。
「人間だった・・・の間違いだ。魔神と契約し、その力を身に宿した俺は、既に人ではない。……試してみるか?」
何故なぜだ!? 何故、人が魔物をひきいて人を滅ぼそうとするんだ!?」
 その問いに、魔王は不快げに眉をひそめた。
「人だった・・・からこそだ。人間が俺に……俺の一族に何をしたと思う?いにしえの異教の神をあがめているというだけで、奴らは俺たちを迫害した。……聞くか?奴らの、魔物にもおとる悪逆非道の数々を……」
 そうして魔王は語った。彼の辿たどった壮絶な半生を。
 それを耳にするうちに、勇者の顔から怒気どきが消え、血のが引いていった。
 その腕からは力が抜け、かまえていた剣が下ろされる。
「いけません、勇者様!これは奴の手です!戦意を失ってはなりません!」
 かたわらにいた賢者が、顔色を変えて叫ぶ。
「……そうだな。お前たちが俺に同情しようが何を思おうが、俺はお前たちを殺し、人類を滅ぼす。それが俺の復讐。生きる目的なのだから」
 魔王はゆっくりと立ち上がると、容赦ようしゃ無く勇者たちに攻撃魔法を放った。
「危ないっ!」
 賢者が魔法でそれをね返す。
「しっかりして下さい、勇者様!そんなことでは、貴方あなたも私も死んでしまいます!」
 しかし、勇者の手はカタカタと震え、剣を持ち上げることができない。
「私には……できない。そんな目にった人間を、さらに傷つけろと……?それが、人のすることなのか?勇者のすることなのか?」
 魔王は勇者のその迷いを嘲笑あざわらい、さらに攻撃を仕掛しかける。
「勇者様!剣を!戦って下さい、勇者様!」
 立て続けに攻撃を防ぎながら、賢者が叫ぶ。しかし、勇者は動けない。
 しばらくそんな攻防が続いた後……賢者は、やおらめ息をついた。
「……仕方しかたがありませんね。では、魔王を殺さずに無力化することにいたしましょう」
「何……?そんなことが、可能なのか……!?」
「ええ。ですが非常に複雑な魔法ですので、私が準備している間、殺さない程度ていどに魔王と戦って時間をかせいで下さい」
 そして賢者は呪文をとなえ始める。その呪文は光となり、広間に巨大な魔法陣を描いていく。
 魔王は止めようと賢者に襲いかかるが、勇者の剣によって防がれた。
「彼女には指一本触れさせない!」
 幾度いくどかの剣のやりとりと、魔法の応酬おうしゅう……その間に魔法は完成した。
 出来上がった魔法陣はまばゆく輝き、魔王をその光で包み込む。
「何だ、これは……!? 貴様ら、俺に何をした!?」
 叫びもむなしく、魔王の身は見る見るうちにちぢんでいく。
 大人の男から少年へ、少年から幼子へ。そして……後には言葉にもならぬ声で泣き叫ぶ赤ん坊が残された。
「これは……一体?」
「魔王の時間を逆行させ、赤子に戻しました。魔王としての力も記憶も一切持たぬ、ただの無垢むくな人の子に……。本来なら禁術ですので、内緒ないしょですよ」
 悪戯いたずらっぽく微笑ほほえむと、賢者は赤子に歩み寄り、静かに抱き上げた。
 そして勇者を振り返り、告げる。
「今からこの子を、私たちの子として育てましょう。貴方を父、私を母として……間違っても世界を滅ぼそうなどとは思わぬよう、幸せな子に育ててあげましょう」
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