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終章・女神
王族の一員になり、幸せな新婚生活を送り……、
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王族ならではの国民の皆様に手を振る、という今まで縁がなかった悩ましいイベントをやり遂げ、無事に私は王家の一員となった。新聞紙面もかなり好意的にみてくれていて、私を驚異の剛運姫だともてはやされている。たまに剛腕とも揶揄されるが、そこまで私には腕力も知恵もない。やっかみはあるが「あの王子の隣に2本の足で立っていられるだけで凄い人」扱いされているのは解せない。私の見ていない隙にヴィクリス様はアレコレとしていなさるらしいが、私には決してその姿は見せないので、まあいいかと楽観的に捉えている。どちらにせよ私は彼と歩むことを定めたのである。あとからグダグダ言われても、彼だって困るだろう。アネモネス国は脆弱国とかつては馬鹿にされていたが、その長い歴史を飄々と生きてきたのだ、ただの貧弱とは言えまい。
(そう、そのまさか、がこれから起きるとは私も思わなかったし)
考えもしなかった。
ただ、これから毎日起こりうるヴィクリス様の、この……。
「……起きた?」
沈むだけ沈む寝台に慣れてきた、朝。
目を覚ませばいつもの夫がいた。
朝日が眩しく、瞬きながら目を擦っていると、
「ほら、あんまり擦るとお目目に良くないよ」
と、まるで母親のようなことを言いながら、指先で優しく目元を撫でられ……、じっくりとそこに口づけをされる。そう、じっくり。ようやく離れたのは十数秒後。輝いてるのは朝日のみならず、優れた容貌の夫から放たれる充足感たっぷりの微笑みもだ……。
(……)
あまりにも甘い、甘すぎる。
すら、と肩からかけ布が落ち、影を生み出す首筋と、立派な胸板がお目見えする。
昨日も今日も、夫婦の営みというとんでもない行為を好意込みで行ってきたと言うのに、私はいつまでたっても夫のこの振る舞いに慣れなかった。隠れようとすると、すぐに取っ払われるし。
(うう……)
それでもと両手両腕で顔を交差させて隠すが、私の恥ずかしがりはバレバレなので、あちこちにキスの雨を降らせてくる。腕や手、頭や耳、首には赤い花を咲かせて……。
「んっ」
「可愛い声」
抵抗しなかったわけではない。理想の夫婦像を遥かに超えた甘々に徹底抗戦したことはあったが(それこそヴィクリス様より早起きしたり、執事や侍女たちを部屋に招いてさっさと着替えたり)すると、予想以上の激甘がたちまちに帰ってくる。それらの過程を経て理解したことは、されるがままが一番気力も体力も保つことができるということ。触れ合いは拒絶すると倍にして反撃される。必ず。当日ではなく後日にも。ヴィクリス様は執拗で、執念深かった。
両腕を解放され、しっかりと恋人繋ぎでシーツに力強く縫い止められての上からの集中的な深い口づけ。
あまりにも激しい愛の交歓に、私は涙を幾筋か流しながら受け止めた……。
未だに慣れないのは夫の激愛だけじゃない。
王族の一員として奮闘しているのだが、私が触れるもの全てが一級品を超えたものばかりなのだ。下手したら数十年前のティーカップとか出てくる。しかも隣国から当時の王妃への友好の証として贈られた品とか。今、私の前にある花瓶だって何百年も前に滅んだどこかにあった国のもの。美しい色合いが歴史を経てさらなる気品を際立たせているが、壊してはいけない気持ちが強くてなかなか今も気軽に使えない。侍女たちが自由にあちこち飾ってるけれど。
そう、こうして上の立場として人を使わねばならないのも気を遣う。
が、彼らも心得たもので、使われやすいように接してくれるので、まだ壊したらヤバそうな王族由来のものよりは、侍女たちと気軽に喋っているほうが楽だ。女官もいる。女官たちは私がもっとどうすれば活躍できるかと、王家の教育係とともに日夜あーだこーだと相談しているらしい。というのも、侍女たちがあけすけなく教えてくれるからだ。そうすることにより、私の心を軽くしてくれているのだろう。ありがたい。
何もかもが、至れり尽くせり。
色気すら操作するヴィクリス様に毎日朝から晩まで愛された健康体である私が、そうしてストレスを軽減させてくれて、上にも下にも置かない扱いをされて心尽くされると、どうなるかといえば、そう、子供ができました。
(そう、そのまさか、がこれから起きるとは私も思わなかったし)
考えもしなかった。
ただ、これから毎日起こりうるヴィクリス様の、この……。
「……起きた?」
沈むだけ沈む寝台に慣れてきた、朝。
目を覚ませばいつもの夫がいた。
朝日が眩しく、瞬きながら目を擦っていると、
「ほら、あんまり擦るとお目目に良くないよ」
と、まるで母親のようなことを言いながら、指先で優しく目元を撫でられ……、じっくりとそこに口づけをされる。そう、じっくり。ようやく離れたのは十数秒後。輝いてるのは朝日のみならず、優れた容貌の夫から放たれる充足感たっぷりの微笑みもだ……。
(……)
あまりにも甘い、甘すぎる。
すら、と肩からかけ布が落ち、影を生み出す首筋と、立派な胸板がお目見えする。
昨日も今日も、夫婦の営みというとんでもない行為を好意込みで行ってきたと言うのに、私はいつまでたっても夫のこの振る舞いに慣れなかった。隠れようとすると、すぐに取っ払われるし。
(うう……)
それでもと両手両腕で顔を交差させて隠すが、私の恥ずかしがりはバレバレなので、あちこちにキスの雨を降らせてくる。腕や手、頭や耳、首には赤い花を咲かせて……。
「んっ」
「可愛い声」
抵抗しなかったわけではない。理想の夫婦像を遥かに超えた甘々に徹底抗戦したことはあったが(それこそヴィクリス様より早起きしたり、執事や侍女たちを部屋に招いてさっさと着替えたり)すると、予想以上の激甘がたちまちに帰ってくる。それらの過程を経て理解したことは、されるがままが一番気力も体力も保つことができるということ。触れ合いは拒絶すると倍にして反撃される。必ず。当日ではなく後日にも。ヴィクリス様は執拗で、執念深かった。
両腕を解放され、しっかりと恋人繋ぎでシーツに力強く縫い止められての上からの集中的な深い口づけ。
あまりにも激しい愛の交歓に、私は涙を幾筋か流しながら受け止めた……。
未だに慣れないのは夫の激愛だけじゃない。
王族の一員として奮闘しているのだが、私が触れるもの全てが一級品を超えたものばかりなのだ。下手したら数十年前のティーカップとか出てくる。しかも隣国から当時の王妃への友好の証として贈られた品とか。今、私の前にある花瓶だって何百年も前に滅んだどこかにあった国のもの。美しい色合いが歴史を経てさらなる気品を際立たせているが、壊してはいけない気持ちが強くてなかなか今も気軽に使えない。侍女たちが自由にあちこち飾ってるけれど。
そう、こうして上の立場として人を使わねばならないのも気を遣う。
が、彼らも心得たもので、使われやすいように接してくれるので、まだ壊したらヤバそうな王族由来のものよりは、侍女たちと気軽に喋っているほうが楽だ。女官もいる。女官たちは私がもっとどうすれば活躍できるかと、王家の教育係とともに日夜あーだこーだと相談しているらしい。というのも、侍女たちがあけすけなく教えてくれるからだ。そうすることにより、私の心を軽くしてくれているのだろう。ありがたい。
何もかもが、至れり尽くせり。
色気すら操作するヴィクリス様に毎日朝から晩まで愛された健康体である私が、そうしてストレスを軽減させてくれて、上にも下にも置かない扱いをされて心尽くされると、どうなるかといえば、そう、子供ができました。
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