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終章・女神

真なるモブおじさん

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 まさか自分の墓掃除をする羽目になるとは。

「あんまり水かけるなよ。
 表面が割れてるのにさらに割れてしまう」
「はい」
「サラッとでいい。そうそう、そうだ上手だ」

 乾いた布で自分の墓をゴシゴシ拭う。
いつ自然回帰してもおかしくない小さな石塊だが、なんとも感慨深いものである。しゃがんでアチコチ綺麗にする。おじさんは隣の大きめな墓を掃除するようだが、時折、私に顔を向けて指示をするので言われた通りに手入れを行った。
 雑多な草は抜いたが、草蔓はそのままでいいらしい。小さな花が風に揺れている。
ピカピカ……というほどではないが、それなりの格好にはなった。

「おお、ありがとうよ。
 随分と見違えるようになった」
「あ、いえ……ありがとうございます」
「ははは、助かったよ」

ついお礼を述べてしまったが、おじさんはあまり気にしていないようだ。
 
「ところで、この隣にあるお墓には誰が眠っているんでしょうか?」
「ん?」

自分の墓を指差し確認する。

「この小さい墓にはわた……、
 修道女が眠っているはずですが」
「なんだ知らないのか?」

ふむふむ、と掃除夫のおじさんは顎を撫でやりながら説明してくれた。
視線は掃除したての大きな墓に向いている。

「誰も眠っていないぞ」
「え?」

おじさん曰く、

「このお墓はな、本当はお骨が入る予定だったんだがなぁ……、
 身分にふさわしくない、ということで結局、何もない」
「何も……」
「そう、何も入ってない」

ただの墓標だ、と。

「隣国に先祖代々の墓があるからなあ。
 そっちに迎え入れられてしまった」

話を聞く限りではずいぶんと身分のあるお方であるらしかった。
魂に刻まれた、運命のお方の姿が浮かんだ。
……彼の方の髪はサラサラとたなびいていらして、背は高く、整った顔は綺麗な笑みをしてみせている。
ドク、ドクと心臓が脈打つ。

「だから、そのお方は遺言を残されたのだ。
 お前さんが手入れをしたその修道女のお墓には、
 そのお方の遺髪が納められている」

未だかつてない衝撃が、私を襲った。

「え……」
「いやーずいぶんと大変だったらしいぞ。
 側仕えをしていたご先祖様が日記にしつこく残すぐらい、
 第二の祖国も散々に文句を言っていたらしいし。
 遺髪目当てに墓を掘り起こそうとする罰当たりもいたがなぁ、ははは」
「は、墓荒らし……」

衝撃波は私の頭の中を真っ白にさせた。

「それぐらい、主君は人気者だったのだ。
 わしのご先祖様も婿入りの立場であったが、
 結局は嫁さんをこっちに呼び、夫婦ともども、
 仲良く墓守王子が日参するほど大事にしていたお墓を、
 代々守ることにしたのだよ」

墓守王子のことを散々に愚痴っていたというのになあ。
 
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