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二章・愛の世界

脚長のおじさま

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 読んだ本に出ていたので知ってはいたけれど、とマドロラは思う。

「脚長のおじさま……」

 ある時から、彼女の人生は豊かなものになった。
世間知らずの娘でもわかるほどの変わりようだった、公爵邸のお金の使い方のほどは。
料理の一皿の盛りが違うし、服だってクローゼットから溢れて売り払うほどだった。
宝石箱の宝石すら、母の形見以外は存在のそすらなかったというのに、いつの間にやら増えていた。
追加された宝石の青々しさはさながら晴天の空のようで、マドロラは気に入った。小さくとも実用的な大きさは彼女の心を大いに満たした。

 いつものように出歩いた庭には、誕生日のお祝いだという木や花が植えられている。
義母からのもの、だというが、果たしてそうなんだろうか。
前にお礼を述べたが、義母はきょとんとした顔でいたのである。
どうも知らなかったようだ。

「どういうことかしら……」

 間違いなくパトロン、の存在が脳裏によぎる。

 だが、嫌な気配はなく……。
大概は物語のようにうまくいくはずがないのだ。
それなのにマドロラのやせ細った肉体はそれなりに脂肪がつき、通い始めた社交では、男女問わず話しかけられて褒めちぎられるようになった。

「なぜかしら……」

義母に尋ねても、なんとかなった、程度の答えしかかえってこない。
しかも聞くたびに答えは変わる。
はぐらかせられている……。

義母は未だ若々しい。彼女に無体なことが……! という可能性もあったので注意深く、マドロラは娘らしい優しさでもって見つめていたが、義母はさほどの悔恨のようなものは一切みせず、むしろ生き生きと生活を送っていた。まるで息が吹きかえったかのような元気さでもって、マドロラにあれこれと言い募る。

「もっと社交に励みなさい、とか……、
 学びなさい、とか……」

 よくわからないけれど、義母のいうことは母のいうことでもある。
実母はいつも義母のことを気にしていて、申し訳なさそうにしていたのだ。
彼女のためにも、義母に尽くすのがマドロラにとって最善なのだろう。

 そして、運命でこそなかったが、気持ちの通い合う男性と出会う。

(この人であれば……、義母も、母も、喜んでくださるだろう)

 見た目も良いし、家柄も良い。
 声もいいし、財産すらある。
あれほど苦労したお金を持つお相手だ。
今じゃ公爵家のほうがなんでか裕福な風情になっているが……。
 案の定、義母は両手を上げて大喜び、マドロラもそんな公爵夫人の様子にそっと安堵した。

プロポーズを受け、無事に結婚。

子供にも恵まれ、そこそこの幸せを噛み締める人生を送っている、といえよう。
それなのに、なぜ、

「ははうえ?」
「……」

 わたしは、義母に願い出たのだろうか。
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