10 / 59
二章・愛の世界
やれやれな人生モブおじさん
しおりを挟む
素直にガクっと肩が落ちそうになるけども、歴史に残る程度は浮気していたようで、ベタ惚れされてた妻と家庭円満という一時代を築いた運命の王子様は、そこそこの子供を作ってそれなりに良い人生を送っているようだった。良かった。私、がむしゃらに突撃しなくて。
もし運命が私と結びつくようなことがあったなら、危うく国際問題になるところだ。
人知れず身を引いた私は、そんな節操のない王子様を想いながら修道女になったけれど、まあまあ切ない前世よね。
ただ、問題は、そんな過去を宿したまま生まれてしまったのが大問題だ。
前世アネモネス国の、それも男である。
男だ。
拗らせたままとうとう私は性別をも超越してしまったものらしい。どういうこと?
(うーん……、
そこまで熱い想いを抱えてたっけ?)
慕っていただろうか?
うーん。疑問は尽きないが、ま、生まれてきてしまったものはどうしようもない。
商人の息子として誕生した私である、過去生を抱えたままのこの人生。どう謳歌しよう、と幼いのに賢しらなまま将来を悩む。
うんうん唸り、閃いたのは前世における新聞記事である。
偏屈そうな記者は旅人らしくあちこちのお国事情を日記帳記述で、読者の目を楽しませて居た。
たまにしか掲載しないコラムだったのでそれだけが惜しいところなれども、ああ、そうか。
世界中を旅するのも、良いかもしれない。
(たくさんの国へ行って見たい)
今、小さな男の子でしかない私は自国から出たことがなかった。特に何もない国だ。
あるとしたならば、私が生まれたこの国の隣がまたしても、あの第三王子の血脈、女王を擁したあの国である。
女王の国は常夏だ。
キラキラ輝くという海だって見てみたいし、しょっぱいというじゃないか。夕日が宝石みたいに眩しくて輝いているらしい。一度きりの人生、見なきゃ損だとか。前世でもこの目に入れたことのない、まさしく冒険。
(うん、最初そこに行こう)
ぐっと拳を握りしめる。
運命の相手である彼が生活して居た国であるので、なんともいえない黒々とした思いは前世からしてあるけれども、今じゃそんなもの邪魔でしかない。むしろ、かつての彼が楽しんだ空気や、環境、その景色に親しみを感じるのはワクワクして良いかも、と。気持ちを切り替えたくなった。そして。
世界中を旅する、という人生の最大目標を叶えるためにもまずは腕を磨かねば。商人としての。
決意表明と共に小さな握り拳はやがて大きくなり、上背も大きくなった私の商人としての職業はまさしく天職だったようで、みるみるうちに行商人としての立場は大商人、大商団となり、私はあっという間にその頂点に躍り出てしまった。
大出世にもほどがある。鼻高々。
隣国にはもちろん腐るほど行った。
生まれて初めて訪れた時の感動といったらない。
私の魂に刻まれる海辺の日暮れは、見事なものだった。
(あの人が行くぐらいだから、悪く無い場所だとは思ってたけど。
食べ物は少し辛いが祖国と味付け変わらないし、文化圏も一緒だから悪くない。
温暖な気候も良い。風が爽やかで心地よい……)
夕日が綺麗な海辺。
首都から見渡せるカラッとした景色は最高に気分も良かった。
(あの人も、この光景を毎日見てただろうか……)
どう見てもただの男が風光明媚な観光地で泣いてる姿は違和感しかないが、他の観光客は私を放っておいてくれて助かる。
そんな、順風満帆な人生を送っている、私。
30年、40年と歳を重ねていき、腕も拳も太ましくなり……。
「げぷっ」
三段腹になってしまったお腹をさすりつつ、おじさんとしての貫禄がすっかり身に付いてしまったなあ、とボヤく。
もし運命が私と結びつくようなことがあったなら、危うく国際問題になるところだ。
人知れず身を引いた私は、そんな節操のない王子様を想いながら修道女になったけれど、まあまあ切ない前世よね。
ただ、問題は、そんな過去を宿したまま生まれてしまったのが大問題だ。
前世アネモネス国の、それも男である。
男だ。
拗らせたままとうとう私は性別をも超越してしまったものらしい。どういうこと?
(うーん……、
そこまで熱い想いを抱えてたっけ?)
慕っていただろうか?
うーん。疑問は尽きないが、ま、生まれてきてしまったものはどうしようもない。
商人の息子として誕生した私である、過去生を抱えたままのこの人生。どう謳歌しよう、と幼いのに賢しらなまま将来を悩む。
うんうん唸り、閃いたのは前世における新聞記事である。
偏屈そうな記者は旅人らしくあちこちのお国事情を日記帳記述で、読者の目を楽しませて居た。
たまにしか掲載しないコラムだったのでそれだけが惜しいところなれども、ああ、そうか。
世界中を旅するのも、良いかもしれない。
(たくさんの国へ行って見たい)
今、小さな男の子でしかない私は自国から出たことがなかった。特に何もない国だ。
あるとしたならば、私が生まれたこの国の隣がまたしても、あの第三王子の血脈、女王を擁したあの国である。
女王の国は常夏だ。
キラキラ輝くという海だって見てみたいし、しょっぱいというじゃないか。夕日が宝石みたいに眩しくて輝いているらしい。一度きりの人生、見なきゃ損だとか。前世でもこの目に入れたことのない、まさしく冒険。
(うん、最初そこに行こう)
ぐっと拳を握りしめる。
運命の相手である彼が生活して居た国であるので、なんともいえない黒々とした思いは前世からしてあるけれども、今じゃそんなもの邪魔でしかない。むしろ、かつての彼が楽しんだ空気や、環境、その景色に親しみを感じるのはワクワクして良いかも、と。気持ちを切り替えたくなった。そして。
世界中を旅する、という人生の最大目標を叶えるためにもまずは腕を磨かねば。商人としての。
決意表明と共に小さな握り拳はやがて大きくなり、上背も大きくなった私の商人としての職業はまさしく天職だったようで、みるみるうちに行商人としての立場は大商人、大商団となり、私はあっという間にその頂点に躍り出てしまった。
大出世にもほどがある。鼻高々。
隣国にはもちろん腐るほど行った。
生まれて初めて訪れた時の感動といったらない。
私の魂に刻まれる海辺の日暮れは、見事なものだった。
(あの人が行くぐらいだから、悪く無い場所だとは思ってたけど。
食べ物は少し辛いが祖国と味付け変わらないし、文化圏も一緒だから悪くない。
温暖な気候も良い。風が爽やかで心地よい……)
夕日が綺麗な海辺。
首都から見渡せるカラッとした景色は最高に気分も良かった。
(あの人も、この光景を毎日見てただろうか……)
どう見てもただの男が風光明媚な観光地で泣いてる姿は違和感しかないが、他の観光客は私を放っておいてくれて助かる。
そんな、順風満帆な人生を送っている、私。
30年、40年と歳を重ねていき、腕も拳も太ましくなり……。
「げぷっ」
三段腹になってしまったお腹をさすりつつ、おじさんとしての貫禄がすっかり身に付いてしまったなあ、とボヤく。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる