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帰ろう
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息苦しくも時間はあっという間に過ぎ、放課後となった。
学園中のあちこちから騒がしい学生の足音が響き渡る。
「バイバイ、サギリ! またね!」
「あ、うん。バイバイ……」
「んー元気ないなぁ」
名残り惜しそうなオメガたちをヒラヒラ片手を振って見送る。
大丈夫だとサギリは伝えたのに、健気なクラスメイトたちである。
彼らはこれからお稽古や用事があり、帰宅を急いでいる。ちらちら見返してくる小動物のごとき彼らの動きに、サギリの心は和んだ。
「荷物持つよ」
そして、ヒョロ長ベータを心配して居残るオメガ二人組もいた。
「ごめん」
「いいよ」
「さ、いこ?」
モタモタと教科書を片付けていたサギリの周りに留まり、帰宅準備が整うのを今か今かと待ち構えていたのだ。
もう一人も僕の腕を支えようと二の腕を掴んだ。ふらふらとした立ち上がりであったため、目眩を起こしたように見えたのだろう。実際、ずっと座りっぱなしで悩んでたからちょっと貧血気味だ。
(寝てないのもあるけど)
助かった。
花園クラスで一番背が高いというのに、情けない。
「……ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
恐縮しきりのサギリに、上目遣いで対応してくるオメガのまつげは異常に長くて愛らしい。
廊下に出ると、まばらに生徒が散っている。
二人の気の良いオメガは挟んだサギリの歩調に合わせ、オメガのオメガらしいオメガのためのアドバイスを施してくれた。
「ほら、今日は帰ってすぐ寝たら良いよ。
もしかするとヒートかもしれないし」
(それはない)
と言いたいが言えず、頷く。
原因は特に告げていない。
「うんうん。
サギリはまだヒートなってないもんね」
「あれはなったらホントひどいよね。
早く帰って寝たらいいよ。初ヒートは辛いよ? お薬飲んでる?」
「うん……」
(飲んでない)
が、言えない。
クラスメイトたちとは仲が良いため、サギリがヒートが未だきていないことを知られている。
逆も然り。他クラスは不明だが、少なくともこのオメガクラスではサギリを含めて数人はいる。ヒートを体験したことのないオメガが。その事実は大いにサギリを安堵させたが、しかし今思えばそりゃそうか、と納得できる真実である。なんせ、サギリはベータなのである。ヒートするわけがない。ヒートしないなら、薬だって必要としない。
(……薬、……今後はもう……)
ただ、捨ててはいないだけで。使う機会がなくなっただけである。
きゅ、と唇を真一文字に結ぶ。
すると隣のオメガがサギリの額に手を当てる。ふわり、と良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「風邪かもしれないね」
「熱はない?」
「ないと思う、多分」
この二人のオメガは特に心配性な気があり、こうしてサギリの周りにずっとついてくれていた。授業の合間合間から、朝からずっと。
婚約者よりも婚約者らしい彼らの振る舞いに、じん、と心が温まる。
「……ありがとう」
頬を緩ませる二人のオメガは、砂糖菓子みたいな外見通りに優しい。
学園中のあちこちから騒がしい学生の足音が響き渡る。
「バイバイ、サギリ! またね!」
「あ、うん。バイバイ……」
「んー元気ないなぁ」
名残り惜しそうなオメガたちをヒラヒラ片手を振って見送る。
大丈夫だとサギリは伝えたのに、健気なクラスメイトたちである。
彼らはこれからお稽古や用事があり、帰宅を急いでいる。ちらちら見返してくる小動物のごとき彼らの動きに、サギリの心は和んだ。
「荷物持つよ」
そして、ヒョロ長ベータを心配して居残るオメガ二人組もいた。
「ごめん」
「いいよ」
「さ、いこ?」
モタモタと教科書を片付けていたサギリの周りに留まり、帰宅準備が整うのを今か今かと待ち構えていたのだ。
もう一人も僕の腕を支えようと二の腕を掴んだ。ふらふらとした立ち上がりであったため、目眩を起こしたように見えたのだろう。実際、ずっと座りっぱなしで悩んでたからちょっと貧血気味だ。
(寝てないのもあるけど)
助かった。
花園クラスで一番背が高いというのに、情けない。
「……ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
恐縮しきりのサギリに、上目遣いで対応してくるオメガのまつげは異常に長くて愛らしい。
廊下に出ると、まばらに生徒が散っている。
二人の気の良いオメガは挟んだサギリの歩調に合わせ、オメガのオメガらしいオメガのためのアドバイスを施してくれた。
「ほら、今日は帰ってすぐ寝たら良いよ。
もしかするとヒートかもしれないし」
(それはない)
と言いたいが言えず、頷く。
原因は特に告げていない。
「うんうん。
サギリはまだヒートなってないもんね」
「あれはなったらホントひどいよね。
早く帰って寝たらいいよ。初ヒートは辛いよ? お薬飲んでる?」
「うん……」
(飲んでない)
が、言えない。
クラスメイトたちとは仲が良いため、サギリがヒートが未だきていないことを知られている。
逆も然り。他クラスは不明だが、少なくともこのオメガクラスではサギリを含めて数人はいる。ヒートを体験したことのないオメガが。その事実は大いにサギリを安堵させたが、しかし今思えばそりゃそうか、と納得できる真実である。なんせ、サギリはベータなのである。ヒートするわけがない。ヒートしないなら、薬だって必要としない。
(……薬、……今後はもう……)
ただ、捨ててはいないだけで。使う機会がなくなっただけである。
きゅ、と唇を真一文字に結ぶ。
すると隣のオメガがサギリの額に手を当てる。ふわり、と良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「風邪かもしれないね」
「熱はない?」
「ないと思う、多分」
この二人のオメガは特に心配性な気があり、こうしてサギリの周りにずっとついてくれていた。授業の合間合間から、朝からずっと。
婚約者よりも婚約者らしい彼らの振る舞いに、じん、と心が温まる。
「……ありがとう」
頬を緩ませる二人のオメガは、砂糖菓子みたいな外見通りに優しい。
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