上 下
15 / 17

15 エラの心配

しおりを挟む
 急に弟子入りを認められてラウルは驚いた。

「嬉しいけど、薬草を採集してきてないよ? いいの?」
「ああ」
「弟子にしてくれてありがとう! 師匠!」
「だが、普通のことしか教えられるのじゃが、本当に構わぬかや?」
「もちろん!」

 弟子入りが決まった後、ラウルはエラと一緒に錬金術師ギルドに登録しに行った。
 それからエラの工房の近くにボロ長屋の一室を借りる。
 ちなみにラウルの部屋の隣はイルファの部屋だ。
 手続きは全部エラが進めてくれたのだった。


 部屋を借りた後は みんなでエラの工房に集まる。

 そこでラウルは元気に尋ねた。
「なにか仕事ないかな!」
「さっそく弟子の仕事をしたいのかや?」
「そうそう」
「そうじゃなぁ。普通の雑用しかないのじゃが……」
「もちろん雑用でもいいよ! 弟子だからね!」
「ふむ。素材集めをお願いしようかのう」

 そしてエラは必要な素材のリストを紙に書いていく。
 書き終わったそれをラウルに手渡した。

「いっぱいあるね!」
「別に急がなくてもよい。それにすべてを集めようとしなくともよい」
「全部集めなくていいの?」
「あったら嬉しい素材を全て書いたものじゃからな」
「ふむふむ。でもあったら助かるんでしょう?」
「それはそうじゃ。だが、到底集めるのが難しい物もあるゆえな」
「そんなに難しい素材もあるんだ」
「難度の高い物は手に入れずともよい。それは情報を仕入れるだけでも助かるのじゃ」

 それからエラは工房の説明に移った。
「工房にある器具などは好きに使ってよい。わからないことがあれば聞くがよい」
「はい!」
「ただし、素材に関してはわらわが使うのじゃ。自分で使いたい分は自分で集めるがよい」
「わかりました!」

 ラウルは素直に返事をする。
 エラは街の薬師として、依頼をうけて薬を製作している。
 その仕事には、当然期日や必要数があるのだ。

 いまエラの工房にある素材は、その仕事に必要な素材である。
 勝手にラウルが使ったら困ってしまう。

 そんなことをエラは改めて説明した。

「素材を集めさせておきながら、素材を使うなと言うのは心苦しいのじゃがな」
「弟子だし、当然だよ!」
「すまぬな」

 それから、ラウルとイルファはエラの作った夜ご飯をごちそうになった。
 食事の後、ラウルはケロと一緒に帰宅する。


 イルファはラウルとは一緒に帰らず工房に残った。
 そんなイルファにエラが言う。

「正直、わらわよりラウルの方が錬金術の腕は上じゃ」
「そうなの。すごいわね」
「うむ。それも少し上どころではない。わらわが弟子入りすべきぐらいじゃ」

 エラが弟子にしたのはラウルに錬金術師としての常識がなさ過ぎたからだ。
 瓶詰の仕方。薬の値付け方法。
 素材の買い取りや販売の相場。患者の優先度の判断法。

「わらわが、教えられる常識など、ラウルはすぐに覚えるじゃろう」
「でも患者の診断法とか、教えてもなかなかできないんじゃないかしら」
 錬金術の技術の中には、座学の知識ではどうにもならないものもある。
 特に患者の診断には熟練が必要だ。

 だが、エラは首を振る。

「ラウルの薬は診断法など、どうでもよいぐらい万能じゃ」

 ラウルのキュアポーションを使えば、ほとんどの病気は治るだろう。
 そうエラは判断した。
 少なくとも、エラが作れる薬で治る病気は全て治せてしまう。

 診断などせず、とりあえずラウルのキュアポーションを投与する。
 それだけでエラが診断して適した薬を投与するよりも、よい治療結果が得られるだろう。
 そんなことをエラは正直にイルファに告げた。

「それほどなのね……」
「うむ。だからこそ危険なのじゃ」
 エラは真剣な表情でそう言った。

「なぜ危険になるのかしら?」
「考えてみるがよい。ラウルの薬は神の奇跡クラスじゃ」
 エラはラウルの作ったキュアポーションを掲げながら言う。

「それほど?」
「ああ。聖教会も黙ってはおるまい。それに王宮もな」

 神の奇跡を独占している聖教会は面白く思わないだろう。
 そして、王侯貴族はラウルを抱えこもうとするに違いない。

「神の奇跡があるからこそ、聖教会には王侯貴族も逆らえないのじゃ」

 王侯貴族も人の子。当然病気にもなれば怪我もする。
 そのようなとき、聖教会の神の奇跡にすがりたい。
 だから、王侯貴族と言えど聖教会には頭が上がらない。

 ちなみに魔法皇国は聖教会にさほど敬意を払っていない。
 だから、聖教会から嫌われて神の奇跡を扱えるものを派遣してもらえないのだ。

「ラウルの錬金術は政治的な力関係を大きく動かしかねぬのじゃ」
「……そう聞くと恐ろしい気がしてきてたわ」
「ラウルを王侯貴族、聖教会の手から保護しなければなるまいと思うてな」

 そしてエラは遠い目をして言う。
「だから先代の弟子にしようと剣聖は考えたのやも知れぬ」

 先代のエラ・シュリクは二百歳を優に超えたドワーフだった。
 正確な年齢は、弟子である当代のエラも知らない。

 先代が錬金術師の世界に入ったのは二百年ほど前だ。
 錬金術ギルドの最古参。重鎮だった。
 王侯貴族や聖教会にも、コネを持っている。

「危ういラウルを保護するならば、先代は適役といえるのじゃ」
 そういって、エラはため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

私と離婚して、貴方が王太子のままでいれるとでも?

光子
恋愛
「お前なんかと結婚したことが俺様の人生の最大の汚点だ!」 ――それはこちらの台詞ですけど? グレゴリー国の第一王子であり、現王太子であるアシュレイ殿下。そんなお方が、私の夫。そして私は彼の妻で王太子妃。 アシュレイ殿下の母君……第一王妃様に頼み込まれ、この男と結婚して丁度一年目の結婚記念日。まさかこんな仕打ちを受けるとは思っていませんでした。 「クイナが俺様の子を妊娠したんだ。しかも、男の子だ!グレゴリー王家の跡継ぎを宿したんだ!これでお前は用なしだ!さっさとこの王城から出て行け!」 夫の隣には、見知らぬ若い女の姿。 舐めてんの?誰のおかげで王太子になれたか分かっていないのね。 追い出せるものなら追い出してみれば? 国の頭脳、国を支えている支柱である私を追い出せるものなら――どうぞお好きになさって下さい。 どんな手を使っても……貴方なんかを王太子のままにはいさせませんよ。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。

光子
恋愛
貴族の縦社会が厳しいここ、へーナッツ国。 「俺は、カナリア=ライネラールとの婚約を破棄し、ここにいるメアリー=マイカーンを、俺の新しい婚約者とすることを宣言する!」 貴族のご子息、ご令嬢が通う学園の卒業式前夜。 婚約者である公爵家ご子息から、全校生徒、教師の前で、突然、婚約破棄を告げられた私。  男爵令嬢より1つ身分の高いだけの子爵令嬢の私は、公爵子息に突然告げられた婚約破棄に従う他無く、婚約破棄を了承した。  公爵家に睨まれた我が家は針のむしろになり、没落に追い込まれ、家族からも、没落したのは私のせいだ!と非難され、一生、肩身の狭い思いをしながら、誰からも愛されず生きて行く事になったーーー ーーーな訳ありませんわ。 あんな馬鹿な公爵子息と、頭の悪そうな男爵令嬢なんかに、良い様に扱われてたまるものですか。 本当にただの子爵令嬢なら、そういった未来が待っていたのかもしれませんが、お生憎様。 私は、貴方がたなんかが太刀打ち出来る相手ではございませんの。 私が男爵令嬢を虐めていた? もし本当に虐めていたとして、何になるのです? 私は、この世界で、最大の力を持つ国の、第1皇女なのですから。 不定期更新です。 設定はゆるめとなっております。 よろしくお願いします。

処理中です...