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32 領主の館

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 領主の館の地下にいた不死者たちも、人神の神殿地下にいた者同様に腕が立つようだった。

(不死者の精鋭を揃えているということか? まあいい。考えるのは後だ)

 全ての不死者の魂を天に還すと、俺は他に不死者の気配がないか、周囲を探る。
 どうやら、近くには不死者はもういないらしい。

 俺は神具を短い棒の形態に戻すと、静かに、音を立てずに帰路につく。
 来た道を戻り、井戸のはしごを登る。

 井戸から顔を出すと、
「…………曲者を捕らえよ」

 井戸の周囲は三十人ほどの兵士に囲まれていた。
 兵士たちは槍を俺に向けている。

 指示を出したのは身なりの良い男だ。
 領主なのか、領主配下の幹部なのか、それはわからない。

(顔を隠していて良かった)

 俺は無言のまま井戸から勢いよく飛び出す。
 空中に上がった俺をめがけて、槍が繰り出される。

(お?)

 少し俺は驚いた。
 槍の速度がなかなかだ。構え方も動きもいい。
 かなり兵士の練度は高いようだ。

 俺を的確に貫こうとする槍を空中で掴み、体移動させる。
 そうしておいて、兵たちの頭を飛び越えると、一気に走った。

 殺して良いなら簡単だ。
 だが、今の俺は銀髪赤目の死神の使徒なのだ。
 生物は殺さないほうがいい。

「逃がすな!」

 続々と兵士が集まってくる。
 領主の館には、どうやら百人を超す兵士がいるようだ。

 逃げても逃げても、目の前に兵士が現われる。
 全員がそれなりに練度が高く、繰り出してくる槍が速い。

 殺さずに切り抜けるのは面倒だ。だが、仕方がない。
 俺は死神の使徒なのだから。

「食らえ!」

 突然、火球が飛んできた。その火球にあわせて槍が繰り出され、矢が飛んでくる。
 領主の館には魔導師もいたようだ。
 そのうえ、兵種間の連携の練度が高い。

 その火球を魔力で覆った左手でかき消して、右手で風魔法を発生させて矢を弾く。
 そうして、繰り出される槍の柄を足で踏みつけて一気に兵士の頭を飛び越し、壁を越える。

「なに? とんだ!? 逃がすな!」

 指揮していた男の声を聞きながら、俺は領主の館の外に降り立つ。
 一気に加速すると、領主の館から離れた。

 町外れまで移動して、人の目がないことを確認してから黒髪黒目に戻る。
 そうしてから仮面を外し服を着替えた。

 そうやって、俺はフレキの元まで歩いて戻る。

『おわったのかや?』
「うん、おわった」

 まだ領主の館周辺は騒がしい。俺を探しているのだろう。
 だから、俺とフレキは急いでその場を離れた。

 そのまま、従魔可の宿屋に向かう。
 自然に振る舞って、夜ご飯を済ませると、部屋の中で作戦会議だ。
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