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少年少女期編

31 最後のお願い

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 昔はこういう集まり事は私も色んな人に囲まれたけど、今ではそうでもない。
 子供の無邪気さと言い切るには難しい年齢になれば、下の位の人間から話しかけるのは無礼にあたる。そして私自身が爵位を持っているわけではないが、これでも公爵令嬢。
 王族や同じ公爵家以外からは滅多に話しかけられない。

 安心して一人、空を眺めながら待っていた。

「……ちょっといいかな」
「え?」

 急に降ってきた声に驚いて、ついぼーっとしていた思考が現実に引き戻される。
 視線を上げれば、目の前には黄金の微笑み。見慣れたニコラスの顔と似ているようで違う。なにより、身長がニコラスよりもずっと高い。

「アーサー、なの?」
「うん……久しぶり。エイリーン」

 細められた瞳には慈愛の色がこもっていた。

「……ふーん。わざわざ私のために時間を作ってくれたのですね。光栄ですわ、殿下。手紙も出さないような他人の、私のために! 殿下はどうせ私を友達だと思っていないのでしょうけど、私は、友達だと思っていたんですからね」

 突っぱねてやる。
 ニコラスには色々言われたけど、だからといって優しく迎えてあげられるような寛大な心はない。そんなもの、ヒロインしか持っていないのだから期待するだけ無駄なのだ。

「……すまないと思っている。君を傷つけるとわかっていたのに、自分が傷つきたくなくて楽な方を選んだ」

 はぁ。兄弟揃って何を言ってるのかわからないよ。

「もう、君に何かを言うこともできないし、君が察してくれるとも思っていない……君は、昔から妙なところで鋭いくせに、このあたりは鈍感なんてすっ飛ばしてもはや感動するほど無関心だからね。何の希望も期待もいていないし……もう、気づかれては困るからこれでいいんだけど」
「私を貶していることに気づいてらっしゃいます?」

 アーサーは、一瞬だけ切なげな笑みを湛え、私の方に手を伸ばした。
 だが、その手が私に触れることはない。

「この婚約は、僕が望んだことなんだ。後のニコラスが兄とアスパラガス王家の繋がりをうまく活用してくれると信じてね」

 なるほど。
 生まれたばかりの赤子にプロポーズかましたんですね。
 そんな趣味だとは存じませんでした。

 皮肉な言葉は出てくるのに、口を飛び出さず胸に残る。
 何も……何も言えなかった。

「……エイリーン。君に、最後のお願いをしてもいいかな」
「なんですか?」

 うまくはぐらかして、私との関係を言及しなかったくせに。
 友達だとも言わなかったくせに。

「形式ばった挨拶ではなく……祝福、してくれないか」

 何を、と祝いの席で聞くほど私は野暮ではない。何かを渇望しているような、全てを諦めたような、変な顔の友人。

「……婚約おめでとう、アーサー。幸せになってね。これからは手紙くらいちゃんと書いて」

 アーサーが笑う。
 眩しい眩しい顔で、心の底から幸せそうに。
 次に目を開いた彼は、大きな壁を乗り越えたような、爽快感のある面構えになっていた。

「ありがとう。エイリーン。君はいつまでも、僕の最高の友達だよ」
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みんなの感想(4件)

じゅう
2022.08.18 じゅう

久しぶりに読み直しました。
やっぱり面白いですこの作品。

続きを投稿されるか分かりませんが、期待しております。

解除
スパークノークス

お気に入りに登録しました~

真咲
2021.08.18 真咲

ありがとうございます(*´▽`)

解除
マヒル
2021.08.03 マヒル

先程垂らしたです私の血→先程垂らした私の血
ア―サ―の6歳の誕生日→ニコラスの6歳の誕生日の間違いでは

真咲
2021.08.03 真咲

ありがとうございます!
修正しました。

解除

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