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幼少期編

13 お家に帰ろう

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「ひぃっ……」

 後ずさる。

「俺の家族は貴族のせいで死んだんだ。お前にも罪を償ってもらおう」

 怖い。怖い怖い怖い。
 おじさんが、ニンマリと笑って私に触れ──

 バチバチッ!!

 私とおじさんの間に電気が走り、おじさんがのけぞった。
 そして、さっきまで濁っていた空気が清涼なものになっていくのを感じた。

『余の愛し子に触れるな、人間風情が』

 振り返ると、真っ白な男が立っていた。
 頭の先っぽから靴まで全て純白。冷ややかな目とロングストレートな髪が目立つ。
 長身の美人だった。
 私はこの人を知っている。ゲームのスチルで見たから。

『なぁ、エイリーン。特別な魂の子。そなたが悪意を持って触れて良い存在ではない。失せよ』

 おじさんは、突然もがき苦しみだした。
 軽く血を吐いている。
 ……まずい。
 ゲーム開始前なのに血の雨なんて降るわけないと思っていたけど。

「リュー! やめて!」

 ぴたり。
 おじさんは苦しまなくなり、倒れ痙攣している。

「殺してないよね?」
『あぁ。少し時間が足りなかった』

 彼は隠れ攻略対象のリュー。
 逆ハーレム状態で攻略できるようになる特別なキャラクターだ。
 子供たちは恐ろしかったようで、私から離れている。

 ふう。
 とりあえず、アーネストを見つけられた。

「ねぇ、貴方。お家に帰りましょう? 大丈夫、もう痛いことはないから」

 おじさんの落とした鍵で解錠し、アーネストを助け出す。

「待って! こいつがいなかったら俺たち……」
「さっきはありがとう。でも、弟を傷つけていたあなたたちは好きではないわ」

 睨む。
 子供たちはたじろいた。

「エイリーン!」
「無事か!?」
「お嬢様!」

 ニコラスとアーサー、シェリーの声がする。もういいと思ったのか、リューが煙のように消えてしまう。
 子供たちが逃げていったのを確認して、私は返事をした。
 か細いアーネストの小さな体を抱く。

「だ、れ……なの」
「貴方の姉よ」

 ごめんね。もっと早く見つけてあげられなくて。
 今度は、嘘泣きではない涙が溢れ出す。ぼろぼろと泣く私をシェリーが慌てて慰めてくれた。この世界はゲームだけどみんなにとっては現実で、私にとっても現実だ。
 自分やヒロインのためだけじゃなくて、攻略対象のために、変えられる辛い過去は変えたい。酷くて悲しい過去なんてないほうが良いんだから。

「エイリーン!」


 ニコラスが私の肩を掴み引き寄せた。

「危険なことはするな。わかったか?」
「……」

 それは約束できない。心配をかけるのはわかっているけど、まだ攻略対象が二人いる。
 それにリューはどうして私のところに現れたんだろう。
 隠れ攻略対象、リュー。
 彼は人間ではない。この国の伝説的存在である龍だ。私のことを特別な魂と言っていた。前世の記憶があることを言っているんだろうか。

「……エイリーン」

 アーサーが、私を見つめている。

「下手したら死ぬかもしれないんだぞ」

 ……あ。そうか。死ぬかもしれないんだ。
 この世界はゲームだと、やはりどこかで高をくくっていた。だけど現実だ。死ぬはずだったアーサーが生きているんだから生きるはずの私が死んでもおかしくない。

「うん」
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