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幼少期編

2 お父様の心配

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「エイリーン様は、龍血の儀式から変わられましたね」
「国王陛下に圧倒されたのでなくて?」
「穏やかになられましたよね。笑顔も非常にかわいらしくて……以前は暴れてばかりだったのに」
「根っこのところは変わりませんわ。昔から、嫌いな食べ物は眉根を寄せて召し上がるんです。残すことは絶対にしませんの」
「ふふふ。女性が変わるとしたらあれしかありませんでしょう?」
「あれ?」
「恋ですよ、恋! 物憂げに外を眺めてらっしゃって……きっと、王子殿下にヒトメボレしたのですわ!」

◆◆◆◆


 なぜだろうか。
 最近、使用人たちから生暖かい目で見られるのだ。

 記憶を取り戻す前は全く気にしていなかったが、彼らには多大な迷惑をかけた。給料が良いから頑張っているだけだろうけど、暴れん坊の小娘の相手などできればしたくないはずである。
 龍血の儀式を終えて、使用人たちから向けられていた視線は問題児を見るものだった。

 ニコラス殿下のような敵意のこもった眼差しがなくてほっとした。

 できれば打ち解けたいなと思って、使用人たちと話したり優しくするようになってから、段々と私を見る視線が優しいものになってきたのはわかっていた。
 特に、調理場の人達から可愛がってもらえる。

 ……だけど。
 いつしか、優しい視線が生暖かいものになっていた。
 よくわからないけど、ムズムズする。気になってしまう。
 仲の良い使用人に話を聞いたが「大丈夫です、わかってますから」と自信満々で言い切られた。

 因みに、お父様は私が倒れてからかなり心配みたいで、冷酷無慈悲な宰相の顔はどこへやら、休日は私に構い倒すようになった。急につめられた距離感に嬉しさ半分、戸惑い半分ってとこだ。
 で、本日はお日柄も良く。
 親子で散歩をしていた。

 私の家は公爵家なので、呆れるほど庭が大きい。
 公爵っていうのは、貴族の中でもトップの位なんだとか。

「そういえばお父様、私王宮に行きたいのですけど」

 何気なく放った一言。
 お父様と控えていた使用人がピシリ、と固まった。
 自分に人を凍らせる能力はないのだけど、と焦っていたらお父様は

「……どういうことだ? まさか使用人たちが言っていたことは本当なのか? だとしたら許せん……」

 なんて意味のわからないことをブツブツと言う。

「あの、お父様?」
「エイリーン。確かに王子殿下は見目麗しいかもしれない。だけど、考え直して欲しい。まだ結婚を決めるのは早い」

 んんん?
 どうしてそんな話になるんだ。
 確かに王宮には王子がいる。ぶっちゃけ、頭のネジがぶっとんでいる攻略対象代表の殿下には会いたくない。恋愛ドラマは見たいが、流血沙汰なんて御免だ。私は関わらない方向でいきたい。もしも成功すればヒロインも守ってやりたい。

「あの、お父様。私は陛下に謝りたいんです。儀式の中で倒れるという無礼を働いてしまいましたので……。王子殿下とは関係ありません」
「……あぁ、なんだ。そういうことか。それならもう私が処理しておいた。お前は心配せず休むといい」

 は、はぁ。
 急にご機嫌になったお父様の綺羅綺羅しい笑顔を間近で受け、ダメージをくらいながら屋敷に戻った。
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