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続・婚約破棄から始まる農業王国作り32
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絶望したわたしに、手をさしのべてくれたのは、グラッツだった。
「オレが、お前の親代わりになってやる」
だからこその、契約。
勿論、わたしの不在は従者たちはわかっていた。慌てて両親に知らせ、そこらじゅうを探したという。だけど、両親は。確かにわたしを探しても、どうでもよかったのだと思う。
いないならいないで、よかった。
愛なんてはなから注いじゃいない。
とりたてて困ることもなかったから、すぐに忘れられた。
大人の世界は広い。それに比べて、大人たちの隙間からのぞかなければいけない子供たちの世界は狭い。子供にとって、両親はほぼ全てをしめている。それなのに、両親がぽっかりといなくなって。
グラッツはわたしの穴を埋めようとしてくれた。
すごく楽しかった。
すごく、楽しくて。
嫌だったことを忘れてしまうくらい楽しかった。
でも、もう。
忘れる必要はない。
忘れなくても、もう大丈夫。絶望したりすることはない。わたしには、もう。友達が、仲間が、大好きな人がいるから。
「聞いてくれてありがとう。でも、もう乗り越えられたから、これは過去の話なんだけどね」
ヘラリと笑うと、ムッとしたようにグラッツがわたしの頭をはたいた。
「あーそうかよ。オレはもうお役ごめんってとこか」
そんなことは言ってないのに。
「うー……ついてきてほしい、けど」
チラリとレオンを見る。わたしは、まだやることがあった。
わたしとレオンは結婚している。
そのあたりがどうなるのかはわたしにはよくわからないけど……。
「そっか。決めたんだ」
「でも……その、レオンから離れるわけじゃないよ」
レオンから。
離れたいわけじゃない。
「わかってる……幸い、策はいくつか思いついてる。その中から一緒に最善を選べばいい」
そう、なんだ。
よかった。
「なぁ、アイリーン」
へ?
「お前さぁ、お妃様兼女王様になるんだろ?」
うおぅ。改めて聞くとめちゃくちゃな肩書きだな……。
ものすごくご都合主義な上になりたってるようなトンデモナイ奴だよわたし……。
「どんどん偉くなるだけなったみたいな感じだな」
「まぁ、あまり深く考えることないよ。農業王国がひとつでもふたつでもあんま変わんないって。そのうち世界全部になるんだから」
シーン。
わたし、おかしいこと言ったかな?
「おいレクド、本当にコイツでいいのか」
「いや……今ちょっと心配になってきた」
そこの魔神コンビ、失礼だよっ。
「戦争も回避できたし諸々面倒くさいことは王組にお任せして、わたしはちょっと農業でもしてくるね」
いやー、丸く収まったようでヨカッタヨカッタ。
「……えと。俺も農業してきたくなったから、あとよろしく」
レオンもリグルスさんに丸投げしたようだ。
「……そんなに楽しいのか?農業」
お、リグルスさんも興味あるの?
「待って、わたしもやる!」
ペトラも来たか。
「あいりーーーーーーん!」
あの声は……うぎゃあああああああああああ、クリスだっ、なんでここにいるのよっ。
「最終回パワーでやってきたぜっ」
うん。やってこなくていいからっ。
「クリス様、ちょっと待ってください」
ヴァイオレットまで。最終回パワーってすげぇな。
「じゃあ、そこのアルバート王国主従コンビにもたっぷり農業教えてやるからこいよ」
グラッツがなんか怖い。
ほぼ脅しみたいな感じでリグルスさんシンさんを連れていってる……。
「まぁ、あの人もアイリーンをさらった二人を簡単には許せないんだろ」
ふぅん。まぁ、農業して許すならいいかな。
「あ、でも仕事……」
「そこの魔神コンビに押し付ければいい」
……ピコーン。
めっちゃいいこと思いついたね!
「じゃあ、そういうわけで。魔神さんたちよろしくー!」
わたしはみんなと、ちょっとそこの畑にお邪魔するから。
「おいふざけ……」
「もう無理だ。諦めろ」
納得してくれたみたいでよかったよかった。
「アイリーン!」
レオンの呼ぶ声。
ねぇ。
お母様、お父様。
わたしは、お母様とお父様が愛してくれなかったことが悲しかったんじゃないんです。
それもあるけど。
それだけじゃなくて。
仕事にしか目を向けないことが悲しかったんです。お母様とお父様が愛し合っていないのが悲しかったんです。
勿論、仕事も大事。
でも。
「レオン」
わたしは、レオン以外に聞こえないように囁く。
「大好きだよ」
きっと。
大好きなことも、仕事も、恋も。
欲張りだって言われても、頑張りたいから。
「!あいり、」
「行こ」
わたしは、レオンの手を引っ張って、みんなのほうへと走る。
農業王国の空は青かった。
あとがきみたいなの
これで、『婚約破棄から始まる農業王国作り』は完結になります。
これを読んでくださっているということは、不定期更新だったのに根気強くつきあってくださったということですよね(感涙)
まさか最終話まで書けるとは(書くような根性があったとは)思いませんでしたが、すごく嬉しいです。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました(土下座)!
「オレが、お前の親代わりになってやる」
だからこその、契約。
勿論、わたしの不在は従者たちはわかっていた。慌てて両親に知らせ、そこらじゅうを探したという。だけど、両親は。確かにわたしを探しても、どうでもよかったのだと思う。
いないならいないで、よかった。
愛なんてはなから注いじゃいない。
とりたてて困ることもなかったから、すぐに忘れられた。
大人の世界は広い。それに比べて、大人たちの隙間からのぞかなければいけない子供たちの世界は狭い。子供にとって、両親はほぼ全てをしめている。それなのに、両親がぽっかりといなくなって。
グラッツはわたしの穴を埋めようとしてくれた。
すごく楽しかった。
すごく、楽しくて。
嫌だったことを忘れてしまうくらい楽しかった。
でも、もう。
忘れる必要はない。
忘れなくても、もう大丈夫。絶望したりすることはない。わたしには、もう。友達が、仲間が、大好きな人がいるから。
「聞いてくれてありがとう。でも、もう乗り越えられたから、これは過去の話なんだけどね」
ヘラリと笑うと、ムッとしたようにグラッツがわたしの頭をはたいた。
「あーそうかよ。オレはもうお役ごめんってとこか」
そんなことは言ってないのに。
「うー……ついてきてほしい、けど」
チラリとレオンを見る。わたしは、まだやることがあった。
わたしとレオンは結婚している。
そのあたりがどうなるのかはわたしにはよくわからないけど……。
「そっか。決めたんだ」
「でも……その、レオンから離れるわけじゃないよ」
レオンから。
離れたいわけじゃない。
「わかってる……幸い、策はいくつか思いついてる。その中から一緒に最善を選べばいい」
そう、なんだ。
よかった。
「なぁ、アイリーン」
へ?
「お前さぁ、お妃様兼女王様になるんだろ?」
うおぅ。改めて聞くとめちゃくちゃな肩書きだな……。
ものすごくご都合主義な上になりたってるようなトンデモナイ奴だよわたし……。
「どんどん偉くなるだけなったみたいな感じだな」
「まぁ、あまり深く考えることないよ。農業王国がひとつでもふたつでもあんま変わんないって。そのうち世界全部になるんだから」
シーン。
わたし、おかしいこと言ったかな?
「おいレクド、本当にコイツでいいのか」
「いや……今ちょっと心配になってきた」
そこの魔神コンビ、失礼だよっ。
「戦争も回避できたし諸々面倒くさいことは王組にお任せして、わたしはちょっと農業でもしてくるね」
いやー、丸く収まったようでヨカッタヨカッタ。
「……えと。俺も農業してきたくなったから、あとよろしく」
レオンもリグルスさんに丸投げしたようだ。
「……そんなに楽しいのか?農業」
お、リグルスさんも興味あるの?
「待って、わたしもやる!」
ペトラも来たか。
「あいりーーーーーーん!」
あの声は……うぎゃあああああああああああ、クリスだっ、なんでここにいるのよっ。
「最終回パワーでやってきたぜっ」
うん。やってこなくていいからっ。
「クリス様、ちょっと待ってください」
ヴァイオレットまで。最終回パワーってすげぇな。
「じゃあ、そこのアルバート王国主従コンビにもたっぷり農業教えてやるからこいよ」
グラッツがなんか怖い。
ほぼ脅しみたいな感じでリグルスさんシンさんを連れていってる……。
「まぁ、あの人もアイリーンをさらった二人を簡単には許せないんだろ」
ふぅん。まぁ、農業して許すならいいかな。
「あ、でも仕事……」
「そこの魔神コンビに押し付ければいい」
……ピコーン。
めっちゃいいこと思いついたね!
「じゃあ、そういうわけで。魔神さんたちよろしくー!」
わたしはみんなと、ちょっとそこの畑にお邪魔するから。
「おいふざけ……」
「もう無理だ。諦めろ」
納得してくれたみたいでよかったよかった。
「アイリーン!」
レオンの呼ぶ声。
ねぇ。
お母様、お父様。
わたしは、お母様とお父様が愛してくれなかったことが悲しかったんじゃないんです。
それもあるけど。
それだけじゃなくて。
仕事にしか目を向けないことが悲しかったんです。お母様とお父様が愛し合っていないのが悲しかったんです。
勿論、仕事も大事。
でも。
「レオン」
わたしは、レオン以外に聞こえないように囁く。
「大好きだよ」
きっと。
大好きなことも、仕事も、恋も。
欲張りだって言われても、頑張りたいから。
「!あいり、」
「行こ」
わたしは、レオンの手を引っ張って、みんなのほうへと走る。
農業王国の空は青かった。
あとがきみたいなの
これで、『婚約破棄から始まる農業王国作り』は完結になります。
これを読んでくださっているということは、不定期更新だったのに根気強くつきあってくださったということですよね(感涙)
まさか最終話まで書けるとは(書くような根性があったとは)思いませんでしたが、すごく嬉しいです。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました(土下座)!
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