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続・婚約破棄から始まる農業王国作り15
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「みんな、逃げて」
声をひそめたミシュアがわたしたちに言う。
「はっ、ミシュアを置いていくわけないだろ。オレのご主人様はさ」
グラッツはそう言って、突然わたしに膝まづく。
「アイリーン。オレはお前の父であり、右腕だーーすきに使え。ただし、何があっても、お前ひとりだろうと、国に生きて帰れ。腕はなまっちゃいない。必要なら人を殺す」
本気だ。
グラッツが、本気だった。
「ーーグラッツに、人を殺させるわけないでしょ」
わたしはそう言うと、ペトラをちらりと見る。勇気ある少女に微笑みかける。
「悪いわねーーペトラ。わたしは、出ていく。恩を仇で返すようなものだけど、どうにか貴女に迷惑がかからないようにしてみるから」
ペトラの返事も聞かず、わたしはグラッツを従えてミシュアの家から出る。
外の空気にさらされながら、わたしはマントを脱ぎ捨てた。
☆☆☆
シンーーアルバート王国の千人隊長であるシンは、目を見張った。
可憐な少女の登場に。
堂々と胸を張った少女は、りんとした水色の瞳をきらめかせ、太陽のごとく輝く金髪をなびかせていた。その美しさに呆けそうになる。
「わたしは、隣国キュリラーレの王妃、アイリーン・ルナ・キュリラーレよ」
シンは、忘れそうになっていた自分の役目をようやく思い出す。
「ーー捕らえろ」
美しい少女は、悲しそうな笑みを浮かべて、こちらを見た気がした。
どくん、と心臓が波打つ。
「お願いーーもう、これ以上、わたしを絶望させないでーー」
☆☆☆
王妃、アイリーン・ルナ・キュリラーレ。
「確かに本物だ、シン」
リグルス・ヴィオ・アルバートは、アイリーンが本物であることを確認する。
そのアイリーンといえば。
すやすやと、可愛らしい寝息をたてて眠っていた。アイリーンの側には、むっつりした男がたっている。なにせ、王族だ。捕らえるといっても、丁重にもてなさねばなるまい。
そこで、最高級の部屋を用意したというわけなのだが。
彼女にうった麻酔が切れていないーーというわけではない。
そもそも、麻酔なんてうってない。
彼女は、なんと敵国アルバートのど真ん中で絶賛お昼寝中なのだった。
そのメンタルには感服するばかりだが、可愛らしい寝顔を男三人で見物するというのも、なにか罪悪感を感じる。
「はぁ……なんだかなぁ。独り身の僕としてはレオン殿が羨ましい限りだな」
リグルスの呟きに答えたのは、意外にもグラッツだった。
「まぁ、愛のある結婚というわけじゃーー少なくとも、アイリーンにとっては。だから、アイリーンがリグルス様のことを好きだというなら、オレはそれを応援しますーー彼女の親代わりとして」
声をひそめたミシュアがわたしたちに言う。
「はっ、ミシュアを置いていくわけないだろ。オレのご主人様はさ」
グラッツはそう言って、突然わたしに膝まづく。
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本気だ。
グラッツが、本気だった。
「ーーグラッツに、人を殺させるわけないでしょ」
わたしはそう言うと、ペトラをちらりと見る。勇気ある少女に微笑みかける。
「悪いわねーーペトラ。わたしは、出ていく。恩を仇で返すようなものだけど、どうにか貴女に迷惑がかからないようにしてみるから」
ペトラの返事も聞かず、わたしはグラッツを従えてミシュアの家から出る。
外の空気にさらされながら、わたしはマントを脱ぎ捨てた。
☆☆☆
シンーーアルバート王国の千人隊長であるシンは、目を見張った。
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堂々と胸を張った少女は、りんとした水色の瞳をきらめかせ、太陽のごとく輝く金髪をなびかせていた。その美しさに呆けそうになる。
「わたしは、隣国キュリラーレの王妃、アイリーン・ルナ・キュリラーレよ」
シンは、忘れそうになっていた自分の役目をようやく思い出す。
「ーー捕らえろ」
美しい少女は、悲しそうな笑みを浮かべて、こちらを見た気がした。
どくん、と心臓が波打つ。
「お願いーーもう、これ以上、わたしを絶望させないでーー」
☆☆☆
王妃、アイリーン・ルナ・キュリラーレ。
「確かに本物だ、シン」
リグルス・ヴィオ・アルバートは、アイリーンが本物であることを確認する。
そのアイリーンといえば。
すやすやと、可愛らしい寝息をたてて眠っていた。アイリーンの側には、むっつりした男がたっている。なにせ、王族だ。捕らえるといっても、丁重にもてなさねばなるまい。
そこで、最高級の部屋を用意したというわけなのだが。
彼女にうった麻酔が切れていないーーというわけではない。
そもそも、麻酔なんてうってない。
彼女は、なんと敵国アルバートのど真ん中で絶賛お昼寝中なのだった。
そのメンタルには感服するばかりだが、可愛らしい寝顔を男三人で見物するというのも、なにか罪悪感を感じる。
「はぁ……なんだかなぁ。独り身の僕としてはレオン殿が羨ましい限りだな」
リグルスの呟きに答えたのは、意外にもグラッツだった。
「まぁ、愛のある結婚というわけじゃーー少なくとも、アイリーンにとっては。だから、アイリーンがリグルス様のことを好きだというなら、オレはそれを応援しますーー彼女の親代わりとして」
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