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 嘘をついているようには思えなかった。
 頭が急速に冷えていく。
 じゃあ、誰? 母親を殺したのは、誰?

「……っ」
「コレット、ひとまず陛下に……父上に謁見しておいで。落ち着いたら話し合おう」

 セザールに背中をさすられ、コレットの意識が覚醒する。

「そう……ね」

 記憶力のずば抜けたコレットは、昨日のことのように母親が殺された場面を覚えている。
 そのときの狂いたいほどの絶望も、何もかも、忘れたくても忘れられない。思い出してしまえば、辛くて身動きがとれなくなる。ひとまず義母に対しては、コレットの要求を必ず飲むこと……ほとんど奴隷契約のような物を結んで終わった。
 この契約については他言無用。コレットも別になにかを要求するつもりはないので、これ以上の悪巧みを防ぐためのものである。しかし、かなり屈辱的なもののはずだ。

 脳内がドロドロのスープのような状態で見つめた父親は、コレットを正妃……母の名前で呼んだ。
 もはや記憶も曖昧で、コレットを娘と認識することができなかったらしい。小さな頃のコレットしか知らないのだから無理もない。コレットも王宮医師並みと言われた目で父親の病状を見たが、手の施しようがなかった。
 寿命なのだろう。
 虚しさと戦うようにして、謁見室を出ようとしたとき。

「──なぁ、愛している。…………お前の娘に、会いたいなぁ。元気に、しているかなぁ」

 自分のことだとわかり、崩れ落ちてしまいそうだった。
 コレットにとって親とはもはや、子爵家の二人である。それと天国の母親。
 父と言ってもぴんとくるものはなく、ただ血縁だとわかるだけ。それだけのはずなのに。

 少しでも自分を気にかけてくれたと知って、いつのまにか涙を溢していた。

「あれは……可哀想だ。私にはどうすることもできなくて、すまない。王国の子爵令嬢に気を付けろ。お前の娘を狙っている──」

 え。
 父の時間はどこで止まっているのだろう。
 わからない。わからないが、胸にどうも引っ掛かる。

「あれはおかしい。ベルティーナ・タルティーニは──まるで、悪魔の子だ」

 大切な姉の名前。
 急に飛び出た彼女の名前に動揺してしまう。姉を悪魔と罵られたことに怒りが沸くが、それよりも戸惑いが大きかった。

「きっとあの令嬢は、お前を殺す……目的のためなら人の命なんてなんとも思っていないんだ。護衛をふや……せ……」

 それから、父は眠ってしまった。
 自分の頭に警鐘が鳴り響く。
 おかしい。おかしい。おかしい。

 姉は悪魔じゃない。悪魔じゃない。
 否定したいのに、優しくて暖かくて素敵な人だと言いたいのに。
 なぜ、できない?
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