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「……っ」

 会うことができない。
 会うわけにはいかない。

 絶対に、どんなことがあっても。
 この姿なら尚更。ドレスで動けるか若干不安だったが、体は自然と動いてくれた。音もなく地面に着地すると、庭園を急いで駆け抜け、馬車の方へと向かう。……早く。早く、帰らないと。

「──」

 すごい勢いで引っ張られ、カルロッタは誰かの胸の中に抱かれた。
 懐かしいバラの匂いがして、息がつまる。
 会いたくない。
 会いたくなくて逃げ出したのに。
 でもそういえば、この人はパーティーに出るたびにヘラヘラ笑いながら庭園に出ていった。華々しい場所は苦手だとか言って。リベリオとは大きな違いだ。恐ろしいほど美しい顔なのに、気配を消すことに慣れている。

「……やっと、会えた」

 掠れた声に、カルロッタは我に返り、やんわりと離れた。

「お初にお目にかかります、ラルエット帝国の皇子殿下」
「……コレット」
「人違いです。それでは、急いでいますので」

 失礼なのは知っている。
 でも、全部全部……捨てたことだから。
 会いたくなかった。会えば、傷つくことも傷つけることもわかっていた。
 会えば、彼は、自分を取り戻そうと無茶をすることもわかっていた。

「──っ」

 でも。
 それでも、会えて嬉しい──と、心が叫んでいた。

◆◆◆

「セザール殿下とタルティーニ嬢が抱き合っていました」

 事務的な報告に、天上の美貌と称賛されたリベリオ王子が危うく紅茶を噴き出すところだった。
 すんでのところで堪えたあたりが男前である。そんじょそこらの男とは違う。

「……なんだって? どういうことだ。セザール殿下は初対面の女性に抱きつくような方ではないし、タルティーニ嬢がセザール殿下に抱きつくところも想像できない」

 リベリオにとって、隣国で皇族、さらに年が近いセザールとはそれなりに長い付き合いになる。
 彼は女性方面に華やかな方ではないどころか、女性と見るたびに嫌悪を滲ませ、パーティー会場で五分と持ったことがない。タルティーニ嬢はいつだって不遜な態度なので油断していたら、ふと可愛らしい一面が覗く。だが、基本的に姉にべったりであり、男性とまともに話すことなんて少ないだろうと思っていた。

 だというのに、今日はあんなに可愛かったせいで男どもの視線を浴びていたし、ジーノとかいう知らんやつがいたし、挙げ句皇子だって?
 不愉快だ。

「……セザール殿下と知り合いなのか」
「もしかすると恋な」

 ガチャン!

 忠臣の生真面目な受け答えに、リベリオはカップを乱暴に置いて遮った。

「憶測で物を言うものではないよ」
「……はい」
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