潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第九章 再び潤の部屋にて

救急車のサイレンとともに

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 救急車のサイレン音が、遠くから聞こえてきた。
「サイレンの音の高まりとともに、お前は欲情するのだ」
叔父様が、鞭の枝を潤の尻から引き抜いた。
「ああっ」
潤は切なげに腰を揺らした。
「叔父様、お願い、抜かないで。潤は、お尻に欲しいんです」
「欲しかったら、もっと感じて見せるんだ」
叔父様は潤をムチ打った。
「あっ……あぁ……」
救急車のサイレン音が、どんどん近づいてきた。
「友達に、潤のいやらしい姿を見せてあげなさい」
叔父様は、僕に潤の姿がよく見えるよう潤の向こう側に移動した。叔父様が、潤の裸の尻を掌で撫でると、裸の尻は、心地よげにふるふると動いた。
 叔父様は、パドルのような形の短い鞭を、潤の尻にペチペチと当てた。
「ああっ」
潤は、まるで鞭を欲するかのように、お尻を振った。
「もっと喘ぎなさい」
「あっ、ああっ」
潤は、身体をくねらせた。救急車が家の前に止まった。
 僕は、外の様子を見ようとベッドを降りて、窓に寄った。僕は、潤の隣に立って、窓の外を覗いた。譲が救急隊員とともに、開いた門の側にいた。
「あっ、あっ」
潤の喘ぎ声が大きくなってきた。
「友達の目の前で、裸で喘ぐなんて恥ずかしい犬だな」
ぴたぴたとパドル型の鞭が、潤の尻を撫でていた。潤の摘ままれた乳首が赤くなっていた。唇は、だらしなく開かれ、口の端から涎を垂らし、目は充血していた。そしてその形相で狂ったように叫ぶのだ。
「あーっ! あーっ! アーッ!」
鞭を、ピシャッ、ピシャッ、と当てられるたびに、潤は喜んでいるようにしか思えない叫び声をあげた。叔父様が僕に言った。
「見てごらん、エレクトさせている」
潤は、さえぎった。
「だめ……見ないで……」
「見てほしいんだろう。先から、いやらしい液が、溢れてきている」
叔父様は意地悪く言った。
「窓から救急隊員を誘惑するんだ。できないと、ご褒美は、あげないよ」
潤の叔父様は、そう言い残して部屋を出て行った。僕は、どうしていいかわからなかった。潤は言いつけ通り乳首をいじり喘いで、窓から、いやらしい姿をさらした。
「潤……」
僕が声をかけると、潤は激しく拒否した。
「見るな! 見ないで!」
「目を閉じて触れるのも、だめ?」
「だめだ! だって軽蔑してるんだろ、こんな俺を」
「ううん……僕、潤の姿見て、さっきから感じちゃっているんだ」
「…………」
僕と潤は、窓辺でキスをした。
「こんな恥ずかしい俺なのに……人間として、最低だ……母様が救急車で運ばれる時に、自慰に耽っているなんて」
母様?
「潤、何かしたの?」
「断ったんだ。もう、こういうことは、しないって。今夜限りだって」
潤は、震えていた。何のことだろう。
「それでいい、って言ったから……最後だと思ったから……」
潤は、涙を浮かべ、よろけて僕に支えられながら続けた。
「昨夜、瑤が、隣の部屋にいるって、わかってたのに、聞こえるってわかってたのに、でも、これっきりだって、言うから……俺も……」
潤は、僕の腕の中で、がたがた震え、涙を流した。隣の部屋に僕がいた? 聞こえる? 昨夜?
「ううん。僕は、いなかったんだ。譲さんの部屋にいたから」
僕が譲さんの部屋にいる間に、潤と母上の間に何かいざこざが、あったのだろうか。
「いたよ……瑶は、いた」
カップが割れた時、潤は母上と言い争いになったから。
「それが、いなかったんだよ。潤が部屋を出て行った後、僕は、だいぶ長い間、譲さんの部屋にいたから……。と言っても、最初は、キスとかされたんだけど、二人とも眠くなって、そのまま眠っちゃったから、大したことは、してなくて……」
「違うんだ……そうじゃなくて……どうしよう、捨てられる」
捨てられる。潤は、幼くして両親を失った時、そんな感覚を持ったのだろうか。
「大丈夫だよ、僕がいるよ。潤は、母上に、捨てられるのが怖いんだろう?」
「うわぁーっ」
潤が、叫んだ。
「捨てないで、潤を捨てないで」
潤は、発作のように泣き叫んだ。
「大丈夫だったら。誰も、潤のこと捨てたりできないよ。潤は大切に養育される権利があるんだから。僕も友人として、ここにいるし。潤の、エッチだったり僕を殺めようとしたり取り乱した姿見ても、ここにいるんだよ。僕のこと少しは信頼してよ」
苦しむ潤を前にして、何もできないでいる僕の方が泣けてきた。
「潤のことが好きだからだよ。愛してるからだよ。だから、潤が、どんなに、おかしなことをしたとしても、ここにいるよ」
「でも、俺が母様を殺して、またママンも殺してしまった」
母様とママン?
「殺してないでしょ? 潤が何かしたの? 断っただけって言ってたじゃない」
「俺のせいだって、みんな言う。俺のせいなんだ」
「全然、潤のせいじゃないよ。母上の問題でしょ? それと、叔父様の問題だ」
「俺が寝たから、俺が甘えたくて、叔父様から横取りしたから」
潤が寝た? 叔父様から横取り? ちょっと待った……隣の部屋の男女の声……潤!? え? ええ!? 僕の表情の変化を見てとったのか潤が叫びだした。
「うわあーっ! 瑶、言わないで! 言っちゃいやだ! 言ったら死ぬ……」
潤は、窓から身を乗り出して飛び降りそうになった。僕は、あわてて取り押さえた。
「言わないよ。何も言わない。わかってないんだ、僕は、何も知らない」
「ううん、瑶は、知ってしまったんだ、俺は、瑶が知ってしまうと、わかってたんだ。だから、瑶に死んでほしかったんだ。そして俺も死ぬ。わかってほしかった、誰かに、わかってほしかったんだよ……でも言ったらだめ……知られたら……」
「僕も潤も死ぬ必要なんてないよ。誰かが秘密をしゃべったら殺すとか言ったの?」
「うん……頭が痛いよ……誰だっけ。言ったの」
潤は頭を抱えた。
「そんなのウソだよ。死なない。生き延びるんだ」
「俺……混乱してるんだ……秘密……死んじゃう……こわい」
僕は震えて泣きじゃくる潤を抱きしめた。
「……潤は、甘えたかっただけなんでしょ? だったら、潤からすすんで寝るわけないじゃない。そうでしょ? 子どもなのに」
「違う、俺は、悪い子どもだから、悪魔の子どもだから、自分から誘ったんだ。いつもそうなんだ」
誰が、潤にそんなことを言ったのだろう。叔父様だろうか。
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