潤 閉ざされた楽園

第三章

〈2節〉潤校長 1(大人編 マッチ売りの潤)妄想

潤校長が講演会をすると、大勢の人がつめかけた。

美貌の紳士を一目みようというご婦人方も多かった。

しかし、潤はとても真面目だったので、浮いた話し一つ作ることはなかった。

こうして、恋人も恋愛も考える暇もなく月日は過ぎた。

「潤校長、いくら教会付属学校とはいえ、校長は神父というわけではないのだから、結婚なさってはいかがですか？」

と勧めるものも多かった。

けれど潤は、子どもの頃の経験が尾をひいていたので、誰かと性行為をする気持ちには、なれなかった。

教会付属学校だからという理由で、修道士のごとく、清らかな身でいるほうが、心が安らかだ、と思った。

自分の子どもが欲しくないわけではないが、たくさんの子どもたちに囲まれて、みんなが潤を父親のように母親のように慕ってくれるので、潤は満たされていた。

それでも、ほとんどの寄宿学校の生徒が家に帰る長い休暇には、ぽつぽつと残っている生徒や、孤児院の生徒と過ごしながらも、空いた時間には、ふと寂しさを覚えることもあった。

ある時、一通の手紙が舞い込んだ。

多額の遺産相続の話しだった。

父の遺産が叔父にいっていたが、叔父が亡くなって遺言で、潤に、とあったらしいものだった。

潤は、住む場所は、質素な教会の教員宿舎の小さな部屋で満足していたし、年金も保証されていたので、遺産はいらないと返事をしようとした。