潤 閉ざされた楽園

第三章

マッチ売りの潤 17

「うわぁ、これは、父さんの論文」

潤は、散逸していた父の研究をまとめて、『大洗竹秋遺文集』という本にした。

出版の費用を出してくれるものはなかなかいなかったが、かつてのマッチ売りをさせた商人が、潤にしたことの罪を悔い改めて大商人となり成功していたのを、教会を通じて知った。

それで、罪滅ぼしに是非出版費用を出させてほしいと言われ、潤は本を出版した。

潤は、満足した。

大学を卒業すると、潤は、また付属学校の教職に戻った。

学士の学位を得て戻ってきた潤には、ラテン語教師のほかに、付属学校の副校長の役職が与えられた。

そこで、潤は、潤と同じような境遇や経験のある子どもたちへの援助のあり方を工夫した。

孤児院のほかに寄宿舎も作り、両親はあるものの、一緒に暮らすのが適切でない子どもたちも預かれるようにした。

寄宿学校は評判になり、各地から親や子どもたちがつめかけた。

潤は毎日、大わらわだった。

自分のつらい経験が役立って、今はつらかったことも神に感謝するようになった。

潤は充実した日々を送った。

校長が高齢のため隠居を申し出たので、潤は若き校長に就任した。

潤先生は、親にも、子どもたちにも、先生たちにも、信頼された。

誰にでも優しくて、公平で、美しかったので、大人気だった。