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第三章
マッチ売りの潤 8
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家には、癇癪もちの、おかみさんがいて、潤を追い出した。
男は潤を手放したくないようだったが、恐妻家の男は、潤に、男に似て不器量な娘のお古をありったけ着せた。
寒くなる季節だったからだ。
男は、潤に籠にマッチを入れて売るように言った。
わずかな売り上げだが、食べ物が買えた。
男はこっそり、潤に寝る場所を与えた。
そしてこっそり潤の身体を触った。
マッチだけでなく、潤を買いたがる者がいることを潤は知った。
豪勢な食事や、豪華な宿や、きれいな服を与えられることもあった。
けれどクリスマスシーズンになると、家族が集まるために、潤は邪魔にされた。
客たちは、妖しい小さな愛人を家族に知られるわけにはいかなかったからだ。
それで潤は、その日、寒さに凍えていた。
家には、癇癪もちの、おかみさんがいて、潤を追い出した。
男は潤を手放したくないようだったが、恐妻家の男は、潤に、男に似て不器量な娘のお古をありったけ着せた。
寒くなる季節だったからだ。
男は、潤に籠にマッチを入れて売るように言った。
わずかな売り上げだが、食べ物が買えた。
男はこっそり、潤に寝る場所を与えた。
そしてこっそり潤の身体を触った。
マッチだけでなく、潤を買いたがる者がいることを潤は知った。
豪勢な食事や、豪華な宿や、きれいな服を与えられることもあった。
けれどクリスマスシーズンになると、家族が集まるために、潤は邪魔にされた。
客たちは、妖しい小さな愛人を家族に知られるわけにはいかなかったからだ。
それで潤は、その日、寒さに凍えていた。
でもどうやら、これで宿にも食事にもありつけそうだ。
あのまま路上で凍えていたら命も危なかっただろう。
潤は、口髭のある大柄な男に腰を抱かれて建物の石段を上がった。
路の脇に、除けられた雪が積み上がっていた。
雪が凍って石造りの建物の入り口もつるつるしていた。
滑らないよう足を垂直におろして、潤は進んだ。
石段を上がった潤は、男の部屋に連れて行かれた。
男の部屋は階段をいくつか登った先にあって、部屋は、慎ましかった。
9
男は部屋に入ると、コートと帽子、手袋をはずして、入り口のコート掛けにかけた。
男は、ストーブに火を起こした。
薄暗い部屋に、あたたかいストーブの火が、明るくチロチロと揺れた。
その内に、ストーブにかけたやかんがシュンシュンと音をたてはじめた。
男は、ストーブで沸かしたお湯を器に注いで、小さな四角い木目の浮き出た古びたテーブルに置いた。
男は、潤に椅子に座って白湯を飲むようすすめた。
潤は、無骨な革の手袋を取って、長い指を露わにした。
潤の手が丸い陶製の器を包み込むと、かじかんだ指先からじんじんとあたたかさが伝わってきた。
男は優しく潤の髪を撫でた。
男の顔は、いつの間にか、潤の叔父である、大洗竹春の顔になっていた。
「寒かっただろう?」
男は、大柄な体躯を折って、質素な小さな木のテーブルについている潤の片手を取った。
男の両手が潤の右手を包み込んで、はさんだ。
男は、愛おしそうに潤の手の甲に口づけした。
「君は、男の子なんだね?」
「ダメですか?」
潤は、おそるおそる聞いた。
「いいや、かまわないよ」
男は、潤の被っている赤いマントの、首のところのボタンとリボンをはずした。
潤の頭から頭巾を取ると、男は、感嘆したように言った。
「君は、とても美しいよ」
10
潤は、そう褒められて、ぼうっとした。
男は、潤の髪に鼻をつけて、臭ってから言った。
「あとで身体を拭いてあげよう」
潤は、そして抱かれるのかな、と思った。
きっと潤の身体が臭いから、今すぐには抱きたくないのだろう、と思った。
そんな風におあずけされると、少し反射的にペニスが疼いた。
「その前に、何かお腹に入れた方がいいだろう」
男は、台所の小さな鍋の蓋を取って覗いた。
「スープでいいかい? あたたまるよ」
男は、ストーブからやかんをおろして、代わりに鍋をかけた。
しばらくすると、コトコト、クツクツと鍋の中で、具材が踊る音がしてきた。
具が入っているスープらしい。
しかも、いい匂いがしてきた。
「お腹が空いただろう? 外は寒かったから。ずっと、街頭に立っていたの?」
潤は男の問いに頷いた。
「ひもじいのは、つらいだろう。どうだ、よかったら、ここに、私と住まないかい?」
潤は、黙っていた。
願っても無いことだったけれど、まだ、どんな人物かわからなかったから。
とても悪い人かもしれないし。
「ああ、返事は急がないから。でも、もし行くところがないのだったら、と思って。クリスマスシーズンを一人で過ごすのは、お互い寂しいじゃないか、と思ってね」
男は、寂しげに微笑んで言った。
潤は、男を見て、今はいない父のことを思い出した。
潤の目に涙があふれ、頬に涙が伝った。
心に灯がともったように。
「ちょっと、潤、そういう話なの?」
僕は遮った。
途中から、潤が話を引き継いでいたのだ。
どこからかというと、男の顔が大洗竹春になった、ちょっと前あたりだ。
それまでは、僕が潤に妄想を語っていたのに。
潤は、本当に涙を流していたが、それはそれでいい話だったが、僕には僕の構想があったのだ。
「感動してるんだから、邪魔するなよ、瑤」
「僕は、エッチぃ展開を用意してたのに」
「どうせまた、俺が犯される話だろう?」
「いいでしょ!」
「まったく、瑤も好きだなぁ」
「うぅぅ。だってぇ……」
「俺は、純愛物にするつもりなんだから」
「潤が純愛って想像できない」
「俺も想像できないんだけどさ。そもそも、純愛ストーリーって、どういうのを言うの? エッチしないってことかと思ったんだけど、俺はそのつもりなんだけど、そうでもないみたいだね」
「僕もよく知らない」
「純愛でない愛ってあるの? 不純な愛だったら愛じゃないんじゃない?」
「潤が言い出したんじゃないかぁ」
「前から疑問だったから。愛から出ていないものは全て罪、という説もあるからさ。愛か、罪かの二択とは言わないけど、そこまで厳しいことは言わないけど、愛か、愛でないか、だよね?」
「潤、白黒思考じゃない? それ。愛の原理主義者」
「せめて理想主義と言ってよ」
「で、どういう展開なの? ざっと説明してよ」
「説明はできないよ。マッチ売りの潤と男は、いっしょに暮らすんだよ」
「まあいいや、少しだけ時間あげるから」
潤は、続きを語った。
12
潤と男は、肉と野菜のたっぷり入ったスープに、重くてかたい乾いたパンをひたして柔らかくして食べた。
ストーブで部屋があたたまってきた。
潤が、まだ羽織っていたマントを椅子の背にかけると、男は立ち上がってそれをコート掛けに掛けた。
スープを食べ終わると、潤はストーブのそばで裸になって、男に、湯で身体を拭いてもらった。
髪も洗ってもらった。
それから布でくるまれて、髪を乾かし……いつまでも幸せに暮らしました。終わり。
「えー!? 早いよぉ」
「だって、瑤が、エッチぃバージョンを話したがってると思ってはしょったんだよ」
「潤は、マッチ売りはやめたんだ?」
「そうだよ。売春だからね」
「潤と男は寝ないの?」
「一つのベッドで抱き合って裸で眠るんだけど、エッチなことはしないの」
「それ我慢大会? マゾ大会? 拷問だねぇ」
「やっぱ無理かなあ?」
「裸で一つベッドは無理じゃない? いくら男同士とはいえ」
「でも今、裸で一つベッドなんですけど。しかも俺のアナル拡張されてますから、ディルド抜けば、すぐ入れられます」
「お、ってことは、期せずして、今、潤の理想の状態なんじゃない?」
「アナルに何も入ってなければね」
「そうだね」
「で、瑤のバージョンは?」
「もういいよぉ。恥ずかしいし。だって、潤が、また犯される話ぃ? って言うもん」
「いいよ。瑤が、俺のこと好きなんだなって思うことにするから」
「うん……ただエッチなわけじゃなくて、切ないんだよ? せっかく現実の潤を反映させて作っていたのに」
「そっか。わかった。聞くから」
「いったんやめると、うまく話せないかも」
と断って、僕は切ないエッチバージョンの続きを語ることにした。
13
男は潤を手放したくないようだったが、恐妻家の男は、潤に、男に似て不器量な娘のお古をありったけ着せた。
寒くなる季節だったからだ。
男は、潤に籠にマッチを入れて売るように言った。
わずかな売り上げだが、食べ物が買えた。
男はこっそり、潤に寝る場所を与えた。
そしてこっそり潤の身体を触った。
マッチだけでなく、潤を買いたがる者がいることを潤は知った。
豪勢な食事や、豪華な宿や、きれいな服を与えられることもあった。
けれどクリスマスシーズンになると、家族が集まるために、潤は邪魔にされた。
客たちは、妖しい小さな愛人を家族に知られるわけにはいかなかったからだ。
それで潤は、その日、寒さに凍えていた。
家には、癇癪もちの、おかみさんがいて、潤を追い出した。
男は潤を手放したくないようだったが、恐妻家の男は、潤に、男に似て不器量な娘のお古をありったけ着せた。
寒くなる季節だったからだ。
男は、潤に籠にマッチを入れて売るように言った。
わずかな売り上げだが、食べ物が買えた。
男はこっそり、潤に寝る場所を与えた。
そしてこっそり潤の身体を触った。
マッチだけでなく、潤を買いたがる者がいることを潤は知った。
豪勢な食事や、豪華な宿や、きれいな服を与えられることもあった。
けれどクリスマスシーズンになると、家族が集まるために、潤は邪魔にされた。
客たちは、妖しい小さな愛人を家族に知られるわけにはいかなかったからだ。
それで潤は、その日、寒さに凍えていた。
でもどうやら、これで宿にも食事にもありつけそうだ。
あのまま路上で凍えていたら命も危なかっただろう。
潤は、口髭のある大柄な男に腰を抱かれて建物の石段を上がった。
路の脇に、除けられた雪が積み上がっていた。
雪が凍って石造りの建物の入り口もつるつるしていた。
滑らないよう足を垂直におろして、潤は進んだ。
石段を上がった潤は、男の部屋に連れて行かれた。
男の部屋は階段をいくつか登った先にあって、部屋は、慎ましかった。
9
男は部屋に入ると、コートと帽子、手袋をはずして、入り口のコート掛けにかけた。
男は、ストーブに火を起こした。
薄暗い部屋に、あたたかいストーブの火が、明るくチロチロと揺れた。
その内に、ストーブにかけたやかんがシュンシュンと音をたてはじめた。
男は、ストーブで沸かしたお湯を器に注いで、小さな四角い木目の浮き出た古びたテーブルに置いた。
男は、潤に椅子に座って白湯を飲むようすすめた。
潤は、無骨な革の手袋を取って、長い指を露わにした。
潤の手が丸い陶製の器を包み込むと、かじかんだ指先からじんじんとあたたかさが伝わってきた。
男は優しく潤の髪を撫でた。
男の顔は、いつの間にか、潤の叔父である、大洗竹春の顔になっていた。
「寒かっただろう?」
男は、大柄な体躯を折って、質素な小さな木のテーブルについている潤の片手を取った。
男の両手が潤の右手を包み込んで、はさんだ。
男は、愛おしそうに潤の手の甲に口づけした。
「君は、男の子なんだね?」
「ダメですか?」
潤は、おそるおそる聞いた。
「いいや、かまわないよ」
男は、潤の被っている赤いマントの、首のところのボタンとリボンをはずした。
潤の頭から頭巾を取ると、男は、感嘆したように言った。
「君は、とても美しいよ」
10
潤は、そう褒められて、ぼうっとした。
男は、潤の髪に鼻をつけて、臭ってから言った。
「あとで身体を拭いてあげよう」
潤は、そして抱かれるのかな、と思った。
きっと潤の身体が臭いから、今すぐには抱きたくないのだろう、と思った。
そんな風におあずけされると、少し反射的にペニスが疼いた。
「その前に、何かお腹に入れた方がいいだろう」
男は、台所の小さな鍋の蓋を取って覗いた。
「スープでいいかい? あたたまるよ」
男は、ストーブからやかんをおろして、代わりに鍋をかけた。
しばらくすると、コトコト、クツクツと鍋の中で、具材が踊る音がしてきた。
具が入っているスープらしい。
しかも、いい匂いがしてきた。
「お腹が空いただろう? 外は寒かったから。ずっと、街頭に立っていたの?」
潤は男の問いに頷いた。
「ひもじいのは、つらいだろう。どうだ、よかったら、ここに、私と住まないかい?」
潤は、黙っていた。
願っても無いことだったけれど、まだ、どんな人物かわからなかったから。
とても悪い人かもしれないし。
「ああ、返事は急がないから。でも、もし行くところがないのだったら、と思って。クリスマスシーズンを一人で過ごすのは、お互い寂しいじゃないか、と思ってね」
男は、寂しげに微笑んで言った。
潤は、男を見て、今はいない父のことを思い出した。
潤の目に涙があふれ、頬に涙が伝った。
心に灯がともったように。
「ちょっと、潤、そういう話なの?」
僕は遮った。
途中から、潤が話を引き継いでいたのだ。
どこからかというと、男の顔が大洗竹春になった、ちょっと前あたりだ。
それまでは、僕が潤に妄想を語っていたのに。
潤は、本当に涙を流していたが、それはそれでいい話だったが、僕には僕の構想があったのだ。
「感動してるんだから、邪魔するなよ、瑤」
「僕は、エッチぃ展開を用意してたのに」
「どうせまた、俺が犯される話だろう?」
「いいでしょ!」
「まったく、瑤も好きだなぁ」
「うぅぅ。だってぇ……」
「俺は、純愛物にするつもりなんだから」
「潤が純愛って想像できない」
「俺も想像できないんだけどさ。そもそも、純愛ストーリーって、どういうのを言うの? エッチしないってことかと思ったんだけど、俺はそのつもりなんだけど、そうでもないみたいだね」
「僕もよく知らない」
「純愛でない愛ってあるの? 不純な愛だったら愛じゃないんじゃない?」
「潤が言い出したんじゃないかぁ」
「前から疑問だったから。愛から出ていないものは全て罪、という説もあるからさ。愛か、罪かの二択とは言わないけど、そこまで厳しいことは言わないけど、愛か、愛でないか、だよね?」
「潤、白黒思考じゃない? それ。愛の原理主義者」
「せめて理想主義と言ってよ」
「で、どういう展開なの? ざっと説明してよ」
「説明はできないよ。マッチ売りの潤と男は、いっしょに暮らすんだよ」
「まあいいや、少しだけ時間あげるから」
潤は、続きを語った。
12
潤と男は、肉と野菜のたっぷり入ったスープに、重くてかたい乾いたパンをひたして柔らかくして食べた。
ストーブで部屋があたたまってきた。
潤が、まだ羽織っていたマントを椅子の背にかけると、男は立ち上がってそれをコート掛けに掛けた。
スープを食べ終わると、潤はストーブのそばで裸になって、男に、湯で身体を拭いてもらった。
髪も洗ってもらった。
それから布でくるまれて、髪を乾かし……いつまでも幸せに暮らしました。終わり。
「えー!? 早いよぉ」
「だって、瑤が、エッチぃバージョンを話したがってると思ってはしょったんだよ」
「潤は、マッチ売りはやめたんだ?」
「そうだよ。売春だからね」
「潤と男は寝ないの?」
「一つのベッドで抱き合って裸で眠るんだけど、エッチなことはしないの」
「それ我慢大会? マゾ大会? 拷問だねぇ」
「やっぱ無理かなあ?」
「裸で一つベッドは無理じゃない? いくら男同士とはいえ」
「でも今、裸で一つベッドなんですけど。しかも俺のアナル拡張されてますから、ディルド抜けば、すぐ入れられます」
「お、ってことは、期せずして、今、潤の理想の状態なんじゃない?」
「アナルに何も入ってなければね」
「そうだね」
「で、瑤のバージョンは?」
「もういいよぉ。恥ずかしいし。だって、潤が、また犯される話ぃ? って言うもん」
「いいよ。瑤が、俺のこと好きなんだなって思うことにするから」
「うん……ただエッチなわけじゃなくて、切ないんだよ? せっかく現実の潤を反映させて作っていたのに」
「そっか。わかった。聞くから」
「いったんやめると、うまく話せないかも」
と断って、僕は切ないエッチバージョンの続きを語ることにした。
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