潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

文字の大きさ
上 下
332 / 366
第三章

マッチ売りの潤 8

しおりを挟む
家には、癇癪もちの、おかみさんがいて、潤を追い出した。

男は潤を手放したくないようだったが、恐妻家の男は、潤に、男に似て不器量な娘のお古をありったけ着せた。

寒くなる季節だったからだ。

男は、潤に籠にマッチを入れて売るように言った。

わずかな売り上げだが、食べ物が買えた。

男はこっそり、潤に寝る場所を与えた。

そしてこっそり潤の身体を触った。

マッチだけでなく、潤を買いたがる者がいることを潤は知った。

豪勢な食事や、豪華な宿や、きれいな服を与えられることもあった。

けれどクリスマスシーズンになると、家族が集まるために、潤は邪魔にされた。

客たちは、妖しい小さな愛人を家族に知られるわけにはいかなかったからだ。

それで潤は、その日、寒さに凍えていた。




家には、癇癪もちの、おかみさんがいて、潤を追い出した。

男は潤を手放したくないようだったが、恐妻家の男は、潤に、男に似て不器量な娘のお古をありったけ着せた。

寒くなる季節だったからだ。

男は、潤に籠にマッチを入れて売るように言った。

わずかな売り上げだが、食べ物が買えた。

男はこっそり、潤に寝る場所を与えた。

そしてこっそり潤の身体を触った。

マッチだけでなく、潤を買いたがる者がいることを潤は知った。

豪勢な食事や、豪華な宿や、きれいな服を与えられることもあった。

けれどクリスマスシーズンになると、家族が集まるために、潤は邪魔にされた。

客たちは、妖しい小さな愛人を家族に知られるわけにはいかなかったからだ。

それで潤は、その日、寒さに凍えていた。

でもどうやら、これで宿にも食事にもありつけそうだ。

あのまま路上で凍えていたら命も危なかっただろう。

潤は、口髭のある大柄な男に腰を抱かれて建物の石段を上がった。

路の脇に、除けられた雪が積み上がっていた。

雪が凍って石造りの建物の入り口もつるつるしていた。

滑らないよう足を垂直におろして、潤は進んだ。

石段を上がった潤は、男の部屋に連れて行かれた。

男の部屋は階段をいくつか登った先にあって、部屋は、慎ましかった。

9


男は部屋に入ると、コートと帽子、手袋をはずして、入り口のコート掛けにかけた。

男は、ストーブに火を起こした。

薄暗い部屋に、あたたかいストーブの火が、明るくチロチロと揺れた。

その内に、ストーブにかけたやかんがシュンシュンと音をたてはじめた。

男は、ストーブで沸かしたお湯を器に注いで、小さな四角い木目の浮き出た古びたテーブルに置いた。

男は、潤に椅子に座って白湯を飲むようすすめた。

潤は、無骨な革の手袋を取って、長い指を露わにした。

潤の手が丸い陶製の器を包み込むと、かじかんだ指先からじんじんとあたたかさが伝わってきた。

男は優しく潤の髪を撫でた。

男の顔は、いつの間にか、潤の叔父である、大洗竹春の顔になっていた。

「寒かっただろう?」

男は、大柄な体躯を折って、質素な小さな木のテーブルについている潤の片手を取った。

男の両手が潤の右手を包み込んで、はさんだ。

男は、愛おしそうに潤の手の甲に口づけした。

「君は、男の子なんだね?」

「ダメですか?」

潤は、おそるおそる聞いた。

「いいや、かまわないよ」

男は、潤の被っている赤いマントの、首のところのボタンとリボンをはずした。

潤の頭から頭巾を取ると、男は、感嘆したように言った。

「君は、とても美しいよ」

10


潤は、そう褒められて、ぼうっとした。

男は、潤の髪に鼻をつけて、臭ってから言った。

「あとで身体を拭いてあげよう」

潤は、そして抱かれるのかな、と思った。

きっと潤の身体が臭いから、今すぐには抱きたくないのだろう、と思った。

そんな風におあずけされると、少し反射的にペニスが疼いた。

「その前に、何かお腹に入れた方がいいだろう」

男は、台所の小さな鍋の蓋を取って覗いた。

「スープでいいかい?  あたたまるよ」

男は、ストーブからやかんをおろして、代わりに鍋をかけた。

しばらくすると、コトコト、クツクツと鍋の中で、具材が踊る音がしてきた。

具が入っているスープらしい。

しかも、いい匂いがしてきた。

「お腹が空いただろう?  外は寒かったから。ずっと、街頭に立っていたの?」

潤は男の問いに頷いた。

「ひもじいのは、つらいだろう。どうだ、よかったら、ここに、私と住まないかい?」

潤は、黙っていた。

願っても無いことだったけれど、まだ、どんな人物かわからなかったから。

とても悪い人かもしれないし。

「ああ、返事は急がないから。でも、もし行くところがないのだったら、と思って。クリスマスシーズンを一人で過ごすのは、お互い寂しいじゃないか、と思ってね」

男は、寂しげに微笑んで言った。


潤は、男を見て、今はいない父のことを思い出した。

潤の目に涙があふれ、頬に涙が伝った。

心に灯がともったように。



「ちょっと、潤、そういう話なの?」

僕は遮った。

途中から、潤が話を引き継いでいたのだ。

どこからかというと、男の顔が大洗竹春になった、ちょっと前あたりだ。

それまでは、僕が潤に妄想を語っていたのに。

潤は、本当に涙を流していたが、それはそれでいい話だったが、僕には僕の構想があったのだ。

「感動してるんだから、邪魔するなよ、瑤」

「僕は、エッチぃ展開を用意してたのに」

「どうせまた、俺が犯される話だろう?」

「いいでしょ!」

「まったく、瑤も好きだなぁ」

「うぅぅ。だってぇ……」

「俺は、純愛物にするつもりなんだから」

「潤が純愛って想像できない」

「俺も想像できないんだけどさ。そもそも、純愛ストーリーって、どういうのを言うの?  エッチしないってことかと思ったんだけど、俺はそのつもりなんだけど、そうでもないみたいだね」

「僕もよく知らない」

「純愛でない愛ってあるの?  不純な愛だったら愛じゃないんじゃない?」

「潤が言い出したんじゃないかぁ」

「前から疑問だったから。愛から出ていないものは全て罪、という説もあるからさ。愛か、罪かの二択とは言わないけど、そこまで厳しいことは言わないけど、愛か、愛でないか、だよね?」

「潤、白黒思考じゃない?  それ。愛の原理主義者」

「せめて理想主義と言ってよ」

「で、どういう展開なの?  ざっと説明してよ」

「説明はできないよ。マッチ売りの潤と男は、いっしょに暮らすんだよ」

「まあいいや、少しだけ時間あげるから」

潤は、続きを語った。

12


潤と男は、肉と野菜のたっぷり入ったスープに、重くてかたい乾いたパンをひたして柔らかくして食べた。

ストーブで部屋があたたまってきた。

潤が、まだ羽織っていたマントを椅子の背にかけると、男は立ち上がってそれをコート掛けに掛けた。

スープを食べ終わると、潤はストーブのそばで裸になって、男に、湯で身体を拭いてもらった。

髪も洗ってもらった。

それから布でくるまれて、髪を乾かし……いつまでも幸せに暮らしました。終わり。



「えー!?  早いよぉ」

「だって、瑤が、エッチぃバージョンを話したがってると思ってはしょったんだよ」

「潤は、マッチ売りはやめたんだ?」

「そうだよ。売春だからね」

「潤と男は寝ないの?」

「一つのベッドで抱き合って裸で眠るんだけど、エッチなことはしないの」

「それ我慢大会?  マゾ大会?  拷問だねぇ」

「やっぱ無理かなあ?」

「裸で一つベッドは無理じゃない?  いくら男同士とはいえ」

「でも今、裸で一つベッドなんですけど。しかも俺のアナル拡張されてますから、ディルド抜けば、すぐ入れられます」

「お、ってことは、期せずして、今、潤の理想の状態なんじゃない?」

「アナルに何も入ってなければね」

「そうだね」

「で、瑤のバージョンは?」

「もういいよぉ。恥ずかしいし。だって、潤が、また犯される話ぃ?  って言うもん」

「いいよ。瑤が、俺のこと好きなんだなって思うことにするから」

「うん……ただエッチなわけじゃなくて、切ないんだよ?  せっかく現実の潤を反映させて作っていたのに」

「そっか。わかった。聞くから」

「いったんやめると、うまく話せないかも」

と断って、僕は切ないエッチバージョンの続きを語ることにした。

13






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

学園の卒業パーティーで卒業生全員の筆下ろしを終わらせるまで帰れない保険医

ミクリ21
BL
学園の卒業パーティーで、卒業生達の筆下ろしをすることになった保険医の話。 筆下ろしが終わるまで、保険医は帰れません。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...