潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十六章

問わず語り 9

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僕は、受け入れて言った。

「わかったよ。それで潤の気が済んだの?」

「気が済んだよ。それから、みんな、俺が学校でしたくなったら、手伝ってくれるようになった」

「そんなの……それはちょっと、前向き過ぎる解釈じゃない?」

手伝ってくれるだなんてお人好し過ぎる解釈だと思った。

みんな、きれいな潤が、エロエロモードになっちゃってているのを、やれるチャンスと思って、寄ってきているだけなんじゃないか、と思った。

「それに、学校ではしてないって言ってたのに」

僕は、本当のことを言ってくれなかったことについて、恨みがましく言った。

「今は、してないよ」

潤は、嘘は言ってない、という顔つきで言い返してきた。

「あの時は本当におかしくなってて。狂ったみたいにしたくて、我慢できなかったから」

それでも、自分のした行為は後ろめたいのか、潤は、僕の顔色を上目遣いでうかがった。

「僕以外の同級生ともしてたってことだね」

僕は、自分を大事にしない潤の行動を非難する気持ちと、そこばくの嫉妬から潤を糾弾した。

「瑤と出会う前のことだから、しょうがないだろ?」

潤は、僕から目をそらして言った。

「それに、してたのは、身体だけ。瑤みたいに、そんなに俺に踏み込んでくる人っていなかったよ」

潤は、僕の怒りを恐れるように、ちらちらと僕の顔色を伺いながら言った。

「ほんと?」

僕は、希望の綱にすがる気持ちで聞いた。

「ほんとだから、そんなにすねないで?」

潤は、僕の顔を見た。

「すねてないよ、心配してるんだよ」

僕は泣きそうになった。

「ごめんね。だって、どうしようもなかったんだもの」

潤は、うつむいた。

「僕に謝らないで、自分に謝ってよ」

僕の声は、少し怒りに震えた。

「潤、ごめん。潤は悪い子でした。潤を虐めてごめんなさい」

潤の謝罪は、僕の意図からずれて、おじ様とSMをしてる時に、潤が口走る言葉と化していた。

まるで小さな子供みたいになって。

僕は、立ち上がって、潤の座っている椅子の脇に寄った。

「悪い子じゃないよ、潤」

僕は、椅子に座っている潤の肩と頭を横から抱いた。

「僕こそごめんね。潤のことなんにもわかってない、なんにもしてあげられない、なんにもできそうにないよ」

僕は自分の力のなさを嘆いた。

「潤を嫌いにならないで」

潤は、僕に応答せず、また退行していた。

「嫌いにならないよ」

僕は潤の頭を、僕の胸にぎゅっと押し付けた。

僕の腕がゆるむと潤は、

「見捨てないで?」

と僕の胸から顔を離して、僕の顔色を伺った。

「見捨ててないよ」

と僕が言って、もう一度潤を抱き、潤の肩や背中を撫でると、潤は、少しほっとしたようだった。

潤の肩から力が抜けた。

「でも潤って、近寄られるの、嫌がる時あるでしょ?」

「うん、一人でいたい時もあるから」

「一人の時間って大事だもんね。自分に向き合う時間だから。自分の気持ちを聞ける時間っていうか。自分で自分を大事にする時間だもんね」

僕は言った。

「自分を大事にするということが、よくわからないけど」

「えっと、自分の気持ちの通りにしてあげるってことじゃないかな?」

「自分の気持ちが、よくわからない。あるんだろうけど、他のいろんな声でかき消されて、聞こえなくなる」

「他の声に邪魔されてるんだね」

「そうかも」

「他の声の力って、大きいんだね」

僕は、無力感に泣きたくなった。

「泣かないでよ。他の声の邪魔をとってくださいって、言ってみるから」

潤は言った。

僕は頷いた。

潤は、さらに述べた。

「それに、もう、おかしかった時のようなことには、俺もなりたくないから。あの時は、どうしても、そうしたかったんだ。自分が、やられるだけの弱い人間じゃないって、証明したかったんだ。いやいややられたんじゃなくて、自分で積極的にやってやったんだって」

「わかったよ」

僕は、泣きたい気持ちを、ぐっとこらえて、唇を噛み締めた。
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