潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十三章 潤の記憶

瑶と勉強

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 潤が記憶から現実に戻ってくると、ちょうど瑶がテラスでの昼食を食べ終わっていた。
「ごちそう様」
瑶が言った。
「今度、家に泊まりにきて」
瑶が、潤に言った。
「うん……」
潤は、あまり、友達の家に遊びに行くということがなかったので戸惑った。
 潤と瑶は、食卓を片付けて、皿を洗い、洗面所に行って歯を磨いた。洗面所に、自分と瑶の脱いだ服が集められてあったので、拾って洗濯機に入れた。潤は、瑶の手をとって部屋に戻った。
「宿題やろう」
潤が言い出して、潤は自分の机で、瑶はテーブルを使って勉強した。
「全然わからない、瑶、教えて」
数学の問題を前にして潤は、すぐに音を上げた。
「うーん、待って。まず自分の片付けちゃうから」
 潤と瑶は、数学のクラスが違った。潤の方が成績の悪いクラスだったので、宿題も違った。瑶が言った。
「潤、自分で解かないと、できるようにならないよ?」
「全然、わからないんだもん」
潤が言った。
 英語のクラスは、かろうじて今期は同じだったので、潤は、瑶のテーブルに行って瑶の解答を写した。
「ちょっと、潤。写すだけじゃなくて、潤も単語調べてよ」
「うん……ごめん」
潤は、しょんぼりした。
「あ、ごめん、潤、泣かないでよ」
「泣いてないよ」
「泣きそうな顔だよ?」
瑶が、言った。
「あとちょっとだから頑張って宿題しよう? それと予習」
潤は、いつも予習が全然間に合っていなかった。
「わかった。もう写すだけでもいいから」
潤のしょげ具合に同情したのか瑶が言った。
「ほんと?」
「うん」
潤は、やっと瑶から離れて、自分でなんとか解答を作成した。
「潤、自分で解いてるの?」
「うん。エッチなことしかできない奴じゃないし」
「そんなこと誰も言ってないよ」
瑶が笑った。
 それから二、三時間集中して勉強したので、潤には珍しく宿題は全部終わった。
「予習、一週間分ためてしといた方がいいよ。宿題で大変になるから」
言われて潤は、瑶の数学のノートを借りて、せっせと写した。瑶は、潤の古典のノートを借りて写した。英語は協力して主要教科ほぼ一週間分の予習を確保した。
「できた」
瑶が晴れ晴れした顔で言った。
「全然理解してないけど写した」
潤が暗いトーンで言った。
「潤、そうなの?」
「うん。言ったじゃないか。俺の成績悲惨だって」
「そっか。じゃあ、毎日いっしょに宿題やらない?」
「いいの?」
「うん。協力した方が早いし」
「俺が瑶の足を引っ張っているとしか思えないけど」
「いいの。潤の力になりたいし」
「わかった。ありがとう」
進学校の生徒にとって、勉強は第一義というか、できて当然のことで、理解できないと、情け容赦なく置いていかれた。
 補習や追試もあることにはあって、潤もことごとく引っかかっていたが、それは留年防止対策であって、それで成績があがるような類の救済ではなかった。留年したり脱落する者は、毎年一人二人いた。毎年一人二人なので、卒業する頃には三~四人の生徒が、必ず学年にいなくなっているのだった。
 びっしりのカリキュラムの上にさらに、学校行事や部活、友達づきあい、上級生との上下関係、などの、こなさなければいけない業務が目白押しだった。潤は、もう全く、お手上げだった。
 なので、瑶の申し出は、命を救われたようにありがたかったのだ。
「あのさ」
潤は、言った。
「何?」
「瑶の家に、ほんとに泊まりに行っていいの?」
「もちろん」
瑶が嬉しそうに答えた。
「僕、一人っ子だから、嬉しいよ」
「そうなんだ?」
「あと、差し出がましいかもしれないけど」
「何?」
「前言ったかもしれないけど、うち、父が弁護士で母が臨床心理士なんだ。だから、もし言ってくれれば、潤のこと助けられるかも」
瑶が言ったが、潤には、なんのことか、全くわからなかった。
「俺を助けるって何を?」
「悩みとか、相談ごととかあったら、助けられるってこと」
「ああ、悩みが出てきたらね」
瑶は、そう答えた潤の顔を、じっと見ていた。
「何? 」
何か言いたげな瑶に、潤は尋ねた。
「潤は、悩んでないんだ?」
「俺が変だって言いたいんだろ」
潤は警戒した。
「潤が、助けてほしいって思ったら、言ってほしいんだ」
瑶の真摯な様子を見て、
「思うよ」
と用心深く潤は答えた。
「よかった……」
瑶が、ほっとしたように言った。
「そう言ってもらえないと何もできないから」
「今まで数えきれないほどSOSを出し続けてきたけど、誰も反応なしか逆にひどいめにあわされた」
「そうだったんだ?」

 勉強を終えると、もう夕方になっていた。
「礼拝堂行こう? 約束だから」
潤は言って、クローゼットから二人分の衣類一式をまた取り出した。
「今度は、汚さないようにしないと」
潤が言った。
「いつも着替えても、すぐ行為で汚れるし、脱いでしまうから、意味ないんだよね」
「それで、いつも裸なの?」
「うん。瑶が来てるから、一応、服着てるけど。その方がセクシーだよって言われて。あ、いけない。こんな話すると、また、したくなるよね?」
瑶の下半身を見たら、時すでに遅しだった。
「礼拝堂で、しようか?」
潤が提案した。
「だめだよ、そんな神聖な場所で」
瑶が潤を非難した。
「だって、いつも叔父様や譲と、礼拝堂でしてるよ」
「ええっ?」
「叔父様は特に、あの場所に行くと激しくしてくれるんだ。鞭で打って、俺の叫び声が響くのが、いいみたい」
「そんなのだめだよ」
瑶が言った。
「どうして? 気持ちいいよ? 瑶も、してみない?」
「僕は、今日は、もうしたくないよ」
「俺は、したい。一週間分したい」
「一週間分しなくても、潤、毎日してるじゃない?」
「少しでいいから」
「しないよ」
潤と瑶は、白シャツと黒ズボンに着替えた。
「制服っぽいね」
「どうせ、また脱ぐけどね」
「脱がないよ」
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