潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十一章 午前の庭にて

テラスへ

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「おい、親父、何やってんだよ!」
テラスの方から、譲のよく響く、張りのある大きな声が聞こえた。おじ様が顔を、テラスの方へ振り向けた。
「飯ができた」
譲の声が言った。
 日輪が天の頂きに上っていた。まだ五月だというのに、すっかり夏のような陽気だ。裸でも肌寒いとは思わない。興奮して、体温が上がりっぱなしだったからかもしれないが。
「さあ、昼食をとろう」
おじ様は、言って、潤の頬にキスした。潤は、やっと、おじ様から離れた。おじ様は、クローバーの絨毯上に重ねて置いてあった脱いだ衣服を再び着けようとした。
「いや」
潤が、おじ様を止めた。
「服を着ないで」
おじ様は、振り返って、微笑んだ。
「その方がいいのか?」
「うん」
「君のお客様がいるのに?」
瑶の方を見て言った。
「瑤は、大丈夫だよ。なんでも受け入れてくれるから。俺のこと噂したり、言いふらしたり、しないんだ」
潤が言った。ああ、そうか、僕のそういった性質が見込まれたってわけか、と瑶は思った。潤が、瑶を実家に連れてくるほどの扱いをする理由は、それもあったか、と思った。
「譲がいるのに?」
譲と、おじ様は、さすがに、実の親子であるし、譲が成人しているせいもあるのか、互いの性的側面をさらけ出すのは、控えているようだった。常識的な多くの家では当たり前のことだ。
「いいよ、譲は、瑤に夢中だから」
潤が答えた。
「そうなのかい?」
「そうだよ。譲ったら、瑤に、俺の幼い頃のビデオ見せたんだって」
え? あの、いやらしいビデオの存在をおじ様も、知っているの?
「ああ、潤の可愛いビデオかい?」
あ、なんだ。きっと何か健全な思い出ビデオと勘違いしているのだろう、と思った。
「バナナを舐めているのだよ」
「ああ、あれは、可愛いね。譲の友達としている所だろう?」
「そこまで見たか知らないけど」
潤が、瑶の方を色っぽい上目遣いで見た。
「潤は、いつも、それを見て、失禁してしまうんだろう?」
「いつもじゃないよ。お漏らしさせられたことがあったってだけの話」
いや違う、やはり瑶が見た、あの幼い潤が、バナナをいやらしい表情で舐めさせられていたビデオのことだ。しかも、譲が言っていたように、あれには、続きがあったらしい。
 そして、譲も嬉しそうに語っていたけれど、その続きを見ながら、潤は、興奮のあまり、失禁させられてしまうらしい。
 そんなことまで、全部叔父や父に筒抜けなのか。
 悪事なのだから知っているのは、いいとして、知っていながら悪事を放置しているんだ?  と驚いた。
 あまつさえ、そのビデオを見ながら、息子たちが、セックスしてるというのに、それを楽しそうに語り、もっとやれと煽るかのような態度なのは、びっくりだった。
 おじ様は、衣服を片手に持ち、片手を潤に差し出した。潤が、その手を握った。ああ、そうか。なんだ。潤が、瑶によく手を差し出すのは、瑶と手をつなぎたがるのは、おじ様とそうしていたからか、と瑶は、軽い失望を覚えた。僕が特別ってわけじゃなかったんだ、と思った。潤が、瑶に特別に心を許して甘えているんだと思っていたのに、単なる習慣だったのか、とがっかりした。
 当たり前だよな、瑶は、自分を慰めるように思った。誰だって、自分が保護者からされたようにしか、人を愛せない。
 特に、潤は、もとの頭脳も賢くて、心も素直だから、より忠実に、習い覚えた行為を再現してしまうんだろう。
 手をつなぐのは、違法でも非常識でもないのだから、よかったけれど、他のいろんな習慣の違いが、ストレスになっているだろうなと想像した。
 それでも、まだ学生だから、少しくらい非常識なところがあっても、当たり前と許されるけれど、だんだん、年齢が上がるにつれて、ごまかしがきかなくなり、周囲の目も厳しくなり、どうにもならなくなっていくんだろうな、と推測された。
 潤が、一生懸命、生きるために習い覚えたことが、全て、社会の非常識だということに気づいた時、いったい潤は、どうなるんだろうと危ぶんだ。
 暑い五月の昼の、長閑な庭を、横切って、裸の三人は、テラスへ向かった。
 クローバーの群生が、裸足に心地よかった。足の裏をくすぐられて、笑いだしたい気持ちだった。
 青い空に、陽気な天気、緑と花の、いい匂い。
 好きな友達の家にいる高揚感。瑶は愉快な気持ちだった。
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