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二年後。

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 それから二年二ヶ月経った。

 研修先の病院から帰ろうとした矢先のことだった。病院の廊下をよぎる人影の中に、ひときわ背の高い青年の姿を認めて、僕は歩を止めた。
 僕は、あたりを見回し、青年を小部屋に引き込んだ。

「隼人さん!」

すっかり青年になった譲が言った。
 しかし、すがりつくようなその情熱的な目は変わらぬ少年のものだった。
 譲は僕を壁に押しつけた。

 首を絞めて殺されるのかもしれない。譲は怒っているだろう。あんな風に高校生を一度だけもてあそんで冷たく捨てた鬼畜だと。

「いいよ、譲君の気のすむようにして」

僕は首を差し出した。



 譲は、泣きながら何かわけのわからない言葉を口走りながら、僕の口に唇を押しつけた。譲との初めてのキスは涙の味がした。

「許せないんです。貴方が」

と譲は言った。



「おかしいよね。自分で断っておきながら、いまさら君を呼びとめるなんて。君は、当然怒っているだろうに」

僕は答えた。



「でも無理です、貴方を憎めない……」

と、譲は僕を抱きしめた。


 僕は、許された、とは思わなかった。

「あの日、君の気持ちを聞かなかったら、知らないでいられたのに、知ってしまった。それから、ずっと、どうしたらいいのか、わからなくて」

そうじゃない。僕は、また、言い訳してる。

「僕はいい兄の自分を手放したくなかったんだ。愛を与えてくれたのは君の方だったのに。素直じゃなかったのは僕の方だったんだ」



「もう何も言わないで。俺は貴方が俺のもとに帰ってきてくれれば、それでいいんです」

 晩春の花ほころびて、卒業の残しし傷を今癒しなむ

(完)
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