15 / 15
二年後。
しおりを挟む
それから二年二ヶ月経った。
研修先の病院から帰ろうとした矢先のことだった。病院の廊下をよぎる人影の中に、ひときわ背の高い青年の姿を認めて、僕は歩を止めた。
僕は、あたりを見回し、青年を小部屋に引き込んだ。
「隼人さん!」
すっかり青年になった譲が言った。
しかし、すがりつくようなその情熱的な目は変わらぬ少年のものだった。
譲は僕を壁に押しつけた。
首を絞めて殺されるのかもしれない。譲は怒っているだろう。あんな風に高校生を一度だけもてあそんで冷たく捨てた鬼畜だと。
「いいよ、譲君の気のすむようにして」
僕は首を差し出した。
譲は、泣きながら何かわけのわからない言葉を口走りながら、僕の口に唇を押しつけた。譲との初めてのキスは涙の味がした。
「許せないんです。貴方が」
と譲は言った。
「おかしいよね。自分で断っておきながら、いまさら君を呼びとめるなんて。君は、当然怒っているだろうに」
僕は答えた。
「でも無理です、貴方を憎めない……」
と、譲は僕を抱きしめた。
僕は、許された、とは思わなかった。
「あの日、君の気持ちを聞かなかったら、知らないでいられたのに、知ってしまった。それから、ずっと、どうしたらいいのか、わからなくて」
そうじゃない。僕は、また、言い訳してる。
「僕はいい兄の自分を手放したくなかったんだ。愛を与えてくれたのは君の方だったのに。素直じゃなかったのは僕の方だったんだ」
「もう何も言わないで。俺は貴方が俺のもとに帰ってきてくれれば、それでいいんです」
晩春の花ほころびて、卒業の残しし傷を今癒しなむ
(完)
研修先の病院から帰ろうとした矢先のことだった。病院の廊下をよぎる人影の中に、ひときわ背の高い青年の姿を認めて、僕は歩を止めた。
僕は、あたりを見回し、青年を小部屋に引き込んだ。
「隼人さん!」
すっかり青年になった譲が言った。
しかし、すがりつくようなその情熱的な目は変わらぬ少年のものだった。
譲は僕を壁に押しつけた。
首を絞めて殺されるのかもしれない。譲は怒っているだろう。あんな風に高校生を一度だけもてあそんで冷たく捨てた鬼畜だと。
「いいよ、譲君の気のすむようにして」
僕は首を差し出した。
譲は、泣きながら何かわけのわからない言葉を口走りながら、僕の口に唇を押しつけた。譲との初めてのキスは涙の味がした。
「許せないんです。貴方が」
と譲は言った。
「おかしいよね。自分で断っておきながら、いまさら君を呼びとめるなんて。君は、当然怒っているだろうに」
僕は答えた。
「でも無理です、貴方を憎めない……」
と、譲は僕を抱きしめた。
僕は、許された、とは思わなかった。
「あの日、君の気持ちを聞かなかったら、知らないでいられたのに、知ってしまった。それから、ずっと、どうしたらいいのか、わからなくて」
そうじゃない。僕は、また、言い訳してる。
「僕はいい兄の自分を手放したくなかったんだ。愛を与えてくれたのは君の方だったのに。素直じゃなかったのは僕の方だったんだ」
「もう何も言わないで。俺は貴方が俺のもとに帰ってきてくれれば、それでいいんです」
晩春の花ほころびて、卒業の残しし傷を今癒しなむ
(完)
10
お気に入りに追加
80
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
忍ぶれど… 兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人
志生帆 海
BL
忍ぶれど…(翠・流編 完全版)
兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人
あらすじ
以前投稿した『忍ぶれど』と『色は匂へど』を1本にまとめ『完全版』として、加筆しながら再連載していきます。(旧バージョンの『忍ぶれど』と『色は匂へど』は掲載を終了しています)
****
俺には二つ年上の兄がいる。
実の兄なのに、憧れを通り越した愛を秘かに抱いている。
俺だけの兄だ。
どこにも誰にもやりたくなかったのに
どうして行ってしまうんだ?
明日から更に報われない切なる想いを抱いて、生きていく。
一体いつまで待てばいいのか…
「俺の翠」
そう呼べる日が果たして来るのだろうか。
****
しっとりと実の兄弟のもどかしい恋心を描いています。
幼少期から始まるので、かなり焦れったい展開です。
※『重なる月』https://www.alphapolis.co.jp/novel/492454226/179205590のスピンオフ小説になります。
こちらは『重なる月』の攻、張矢丈の兄達の物語になります。
単独でも読めます。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる