117 / 396
第九章 第三の問題
イケメン教師、生徒会室に連行される
しおりを挟む
小坂は、乱れた服装のまま、校長室から出た。トイレに行こうと思ったとき、宮本に出くわした。
「先生」
と宮本に声をかけられた。乱れた姿を見られたくなかった。だが、呼びとめられて、歩みをとめないわけにもいかなかった。と、柱の陰から、眼鏡の風紀委員長が顔を出した。その姿を見るだけで、小坂の胸はきゅっとなった。
「昨日のお約束通り、お迎えにあがりました」
風紀委員長は、言葉だけ丁寧に小坂に告げた。小坂は大人しく連行された。昨日の行為を思い出し、内心ドキドキしていた。
風紀委員長は、小坂の手首を強く握り、ぐいぐい引っ張りながら大またで廊下を闊歩した。
「手を放してくれ」
小坂が言うと、風紀委員長は、歩をとめた。
「逃げやしないから」
小坂は静かに言った。
風紀委員長は、小坂の横顔を見て、ほうとため息をつき、指をゆるめた。風紀委員長の手が、すうっと小坂の手の内にすべり落ちた。風紀委員長は、小坂の横顔をじっと見つめた。
「小坂先生……」
風紀委員長が、切羽詰まった表情で、何か言おうとしている。何を言おうとしているかはわかった。
「やめなさい。こんなところで」
小坂は、風紀委員長をたしなめた。
「風紀委員長が風紀を乱してどうするんだ」
すると風紀委員長は、
「そうですね……。貴方を見ていると、おかしくなってしまうんです……」
と、つぶやいた。
「僕を見ていると? 生徒会長を見ていると、の間違いじゃないのか?」
と小坂は、あしらった。風紀委員長は、つむじを曲げたように、プイと小坂の手を放し、小坂たちの先に立って歩き始めた。
胸が苦しかった。本当は、彼の言葉を聞きたかった。そして受け入れられたら。少しは自分も、まともになれるかもしれない。いや、そうはいかないだろう。彼は生徒なのだ。巻きこんではいけない。負担になってはいけない。僕になど、関わってはいけないのだ。彼は将来のある生徒だ。
心配そうに見ていた宮本が近づいてきて、小坂の反対側の手をとった。
「先生?」
宮本が小坂を見上げた。
「大丈夫ですか?」
三年生の風紀委員長は大人だ。宮本のように子どもではない。だから、率直に告白などしてこない。あんな風に牽制してしまったら、もう二度と言ってくることは、ないだろう。彼はプライドの高い男だ。プライドを傷つけられて、さぞかし怒っているだろう。もう二度と、さっきのような、あんなチャンスは巡ってこないのだ。僕は、彼に救ってもらえたかもしれないのに。でも、それは、だめなんだ。彼を巻きこんではいけない。
「先生、ごめんなさい」
宮本が歩きながら言った。
「謝るくらいなら、なぜこんなことをする」
小坂は、腹立たしかった。宮本は、いつから、こんなことをするようになったのだ。腐りきった学校のせいだ。いや、自分もその一部なのだ。こんな無垢な生徒を、こんなに堕落させてしまった。
「仕方ないんです。生徒会長の命令ですから」
と宮本は言った。
「君の意思じゃないというのか」
それなら、多少、希望はある。だが、宮本は答えた。
「多少は僕の意思です」
小坂は、それを聞いて、ため息をついた。すっかり反抗的になって。それもまた、致し方ない。
放課後の生徒会室は、喧騒の外にあった。校庭では運動部が運動場を周回する声がする。
書類の積まれた古い書棚。古い合皮のソファー。テーブルの上のモニター。木の大きな机。
窓のカーテンは開けられているが、とめずに端に寄せられているだけだ。クリーム色のカーテンの襞がたまって黄色味を帯びている。
午後の褪色した日射しが倦んだ空気を醸している。
傷だらけの古い木の机に、生徒会長が足をのせていた。
生徒会室に連れてこられたとき、小坂は、まずネクタイをはずされた。
「村田が、小坂先生に、言ったそうじゃないですか、『校長の犬』とね」
生徒会長が、美しい顔に、シニカルな笑いを浮かべた。そう言って、小坂のネクタイを引っ張った。
「ネクタイは、公僕の象徴ですが、これからは正しく『生徒会の犬』になっていただくわけです」
何を言っているんだ。この時点では、まだ小坂にも余裕があった。小坂は、ネクタイをはずされた。
「ネクタイをしめている時、あなたは教師ですが、これからは、僕たちに飼われるわけですから、これから、ここでは……」
風紀委員長が、生徒会長に黒い革製のものを手渡した。
「これをつけていただきます」
生徒会長に突きつけられたものは革製の首輪だった。
それを見て、生徒会長の言葉が比喩ではないことを知った。小坂は絶句した。
「先生」
と宮本に声をかけられた。乱れた姿を見られたくなかった。だが、呼びとめられて、歩みをとめないわけにもいかなかった。と、柱の陰から、眼鏡の風紀委員長が顔を出した。その姿を見るだけで、小坂の胸はきゅっとなった。
「昨日のお約束通り、お迎えにあがりました」
風紀委員長は、言葉だけ丁寧に小坂に告げた。小坂は大人しく連行された。昨日の行為を思い出し、内心ドキドキしていた。
風紀委員長は、小坂の手首を強く握り、ぐいぐい引っ張りながら大またで廊下を闊歩した。
「手を放してくれ」
小坂が言うと、風紀委員長は、歩をとめた。
「逃げやしないから」
小坂は静かに言った。
風紀委員長は、小坂の横顔を見て、ほうとため息をつき、指をゆるめた。風紀委員長の手が、すうっと小坂の手の内にすべり落ちた。風紀委員長は、小坂の横顔をじっと見つめた。
「小坂先生……」
風紀委員長が、切羽詰まった表情で、何か言おうとしている。何を言おうとしているかはわかった。
「やめなさい。こんなところで」
小坂は、風紀委員長をたしなめた。
「風紀委員長が風紀を乱してどうするんだ」
すると風紀委員長は、
「そうですね……。貴方を見ていると、おかしくなってしまうんです……」
と、つぶやいた。
「僕を見ていると? 生徒会長を見ていると、の間違いじゃないのか?」
と小坂は、あしらった。風紀委員長は、つむじを曲げたように、プイと小坂の手を放し、小坂たちの先に立って歩き始めた。
胸が苦しかった。本当は、彼の言葉を聞きたかった。そして受け入れられたら。少しは自分も、まともになれるかもしれない。いや、そうはいかないだろう。彼は生徒なのだ。巻きこんではいけない。負担になってはいけない。僕になど、関わってはいけないのだ。彼は将来のある生徒だ。
心配そうに見ていた宮本が近づいてきて、小坂の反対側の手をとった。
「先生?」
宮本が小坂を見上げた。
「大丈夫ですか?」
三年生の風紀委員長は大人だ。宮本のように子どもではない。だから、率直に告白などしてこない。あんな風に牽制してしまったら、もう二度と言ってくることは、ないだろう。彼はプライドの高い男だ。プライドを傷つけられて、さぞかし怒っているだろう。もう二度と、さっきのような、あんなチャンスは巡ってこないのだ。僕は、彼に救ってもらえたかもしれないのに。でも、それは、だめなんだ。彼を巻きこんではいけない。
「先生、ごめんなさい」
宮本が歩きながら言った。
「謝るくらいなら、なぜこんなことをする」
小坂は、腹立たしかった。宮本は、いつから、こんなことをするようになったのだ。腐りきった学校のせいだ。いや、自分もその一部なのだ。こんな無垢な生徒を、こんなに堕落させてしまった。
「仕方ないんです。生徒会長の命令ですから」
と宮本は言った。
「君の意思じゃないというのか」
それなら、多少、希望はある。だが、宮本は答えた。
「多少は僕の意思です」
小坂は、それを聞いて、ため息をついた。すっかり反抗的になって。それもまた、致し方ない。
放課後の生徒会室は、喧騒の外にあった。校庭では運動部が運動場を周回する声がする。
書類の積まれた古い書棚。古い合皮のソファー。テーブルの上のモニター。木の大きな机。
窓のカーテンは開けられているが、とめずに端に寄せられているだけだ。クリーム色のカーテンの襞がたまって黄色味を帯びている。
午後の褪色した日射しが倦んだ空気を醸している。
傷だらけの古い木の机に、生徒会長が足をのせていた。
生徒会室に連れてこられたとき、小坂は、まずネクタイをはずされた。
「村田が、小坂先生に、言ったそうじゃないですか、『校長の犬』とね」
生徒会長が、美しい顔に、シニカルな笑いを浮かべた。そう言って、小坂のネクタイを引っ張った。
「ネクタイは、公僕の象徴ですが、これからは正しく『生徒会の犬』になっていただくわけです」
何を言っているんだ。この時点では、まだ小坂にも余裕があった。小坂は、ネクタイをはずされた。
「ネクタイをしめている時、あなたは教師ですが、これからは、僕たちに飼われるわけですから、これから、ここでは……」
風紀委員長が、生徒会長に黒い革製のものを手渡した。
「これをつけていただきます」
生徒会長に突きつけられたものは革製の首輪だった。
それを見て、生徒会長の言葉が比喩ではないことを知った。小坂は絶句した。
0
お気に入りに追加
2,468
あなたにおすすめの小説
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる