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第十八章 生徒の村田とイケメン教師

イケメン教師、村田に父親について聞かれる

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「父親って、どんな感じなんだろう?」
村田が聞いてきた。
「俺、父親の記憶がなくってさ、どう対応したらいいか、わかんないんだよね。一般的にさ、どういう感じなんだろう?」

 村田の問いに、小坂は、
「さあ、僕も知らない」
と、ぼんやり答えた。ガラス窓から夕暮れの空が見えた。

「えっ、そうなの?」
村田が驚いたように小坂の顔を見る。
 まるで、教師なら、何でも知っていて何でも答えられると思っているかのように。残念だな。教師にも知らないこと、答えられないことがたくさんある。難しい教科の質問なら、いくらでも答えられるが、自分のプライベートについてなど一番答えたくない質問だ。

「実の父親のことは、よく覚えていない」
村田の熱意ある眼差しに負けて小坂は仕方なく答えた。

「どうして?」
村田は、授業中にそんな態度だったらいいのに、と思うような熱心さで問う。

「父親が失踪したから、ほとんど知らない」
小坂は、夕焼け雲の赤黒い縁を目でなぞりながら答えた。

「しっそう? いなくなったってこと?」
村田が聞き返す。

「そうみたいだね」
小坂は人ごとのように答える。

「そうなんだ? だから、校長と仲いいんだ?」
村田が聞く。

「え?」
なぜ、そうなるのか。論理に飛躍がある。
「いや」
神崎先生は関係ない。
「校長先生は僕が高校生だった時、担任の先生だったんだよ」
と小坂は説明した。

 けれど、村田は、小坂の説明には耳を貸さない。
「なんか納得した。なんで、校長なんかと仲いいのかなーって、ずっと思ってた」
などと一人で頷いていた。
「で、先生の彼氏ってどんな人?」
また懲りずに、村田が、小坂の恋人について詮索してきた。
 村田は、どうしても小坂の私生活が気になるらしい。「彼氏などいない」と答えるのは、かえって良くないだろうか。
 小坂が答えを迷っていると、
「もしかして、校長先生?」
と村田は聞いてきた。

「えっ?」
小坂は不意をつかれた。
 恋人はいるのかと聞かれて、麓戸のことを言おうか言うまいかと迷っていた。
 なのに校長か。神崎先生を恋人と間違われるようになったとは。
 片想いだった長の年月を思い起こすと感慨深かった。

「何びっくりしてんの?」
村田は笑った。
「そっか。校長先生が彼氏なわけないよねぇ。いくらなんでも年の差ありすぎでしょ」

 村田に言われて、
「そうだな」
と小坂も認めた。
 校長との関係について、村田がどこまで知っているのかよくわからない。いずれにせよ、校長との関係を詳しく聞かれると困ったことになる。

「俺と小坂だって、十歳差で、年の差あるなって思ってたけど、小坂と校長先生の年の差って、ヤバくない?」
村田は、そう言って笑う。
「なんで、あんなオヤジが好きなわけ?」
 確かに、麓戸とならまだしも、校長とは年齢の差がありすぎる。親子ほども離れている。
「俺のが良くね?」
気づいた時には村田の身体が近くにあった。
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