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第十二章
三度めに
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何度もかけ直したが、一度も通じない。次の日も通じない。次の日も通じない。僕は、狂ったように、何十回も、何百回も、かけ直した。
僕は訴える先が金子しか思いつかなかった。
「あの人に、電話が通じないんだ」
「回りくどいな。はっきり、やりたいって言えよ」
金子は嘲笑った。
金子は僕をいたぶりながら言った。
「おまえ、やっぱり我慢できなくなったんだな」
「違う」
「こんなになってて、どこが違うっていうんだよ」
閉め切った部屋は蒸し暑い。芯まで熱い。
「早く、やりたくて仕方なかったって、本当のこと言えよ」
どこかで鍵の回る音がした。何かにぶつかる音。転がりこんで来た人影。ゆっくりと、その人のうつむいた顔が上がった。それは、あのなつかしい弓弦さんの面影だった。
「千蔭……」
弓弦さんが僕の名を呼んだ。
振り返った金子は、青くなって言った。
「俺、帰るわ」
すばやく服を着て、部屋から出ようとした。すると、弓弦さんが、その前に立ちはだかり、静かに言った。
「謝りなさい」
「……何で俺が」
「君は木下君に悪いと思っていないのか」
金子は、ちらっと僕を見て、また弓弦さんの方を見た。その様子は、気圧されているという風だった。僕は無表情でいたが、内心は震えていた。
「……御免なさい」
「俺に向かって言ってどうする。あっちだろう、木下君に言いなさい」
「……御免なさい」
「もっとしっかり頭を下げて」
「御免なさい」
僕は表情を見せないで居た。
「二度と木下君に近付くな」
金子は、後ずさりした。
「返事は」
「はい」
金子は、十分な距離を得るまで下がると、踝を返した。玄関のドアが閉まる音がした。
僕は訴える先が金子しか思いつかなかった。
「あの人に、電話が通じないんだ」
「回りくどいな。はっきり、やりたいって言えよ」
金子は嘲笑った。
金子は僕をいたぶりながら言った。
「おまえ、やっぱり我慢できなくなったんだな」
「違う」
「こんなになってて、どこが違うっていうんだよ」
閉め切った部屋は蒸し暑い。芯まで熱い。
「早く、やりたくて仕方なかったって、本当のこと言えよ」
どこかで鍵の回る音がした。何かにぶつかる音。転がりこんで来た人影。ゆっくりと、その人のうつむいた顔が上がった。それは、あのなつかしい弓弦さんの面影だった。
「千蔭……」
弓弦さんが僕の名を呼んだ。
振り返った金子は、青くなって言った。
「俺、帰るわ」
すばやく服を着て、部屋から出ようとした。すると、弓弦さんが、その前に立ちはだかり、静かに言った。
「謝りなさい」
「……何で俺が」
「君は木下君に悪いと思っていないのか」
金子は、ちらっと僕を見て、また弓弦さんの方を見た。その様子は、気圧されているという風だった。僕は無表情でいたが、内心は震えていた。
「……御免なさい」
「俺に向かって言ってどうする。あっちだろう、木下君に言いなさい」
「……御免なさい」
「もっとしっかり頭を下げて」
「御免なさい」
僕は表情を見せないで居た。
「二度と木下君に近付くな」
金子は、後ずさりした。
「返事は」
「はい」
金子は、十分な距離を得るまで下がると、踝を返した。玄関のドアが閉まる音がした。
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