パスコリの庭

リリーブルー

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後日譚

白薔薇の花束(4)

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「墓参りに行ったら、自分と同じような花束が供えてあったので、きっと貴方だと思って」
弓弦の弟らしき、花束を抱えた青年は、そう説明した。
「それで、その花は……?」
自分が供えたものと、そっくりだが、違うものらしい。
「貴方にさしあげようと思って」
花は、昼間の熱にあたったせいか、少しくたびれて、しおれていた。
 全く同じような花束を選ぶだなんて。
「弓弦さんのイメージだったから」
千蔭は言った。
「ええ、とても好きだと思います」
弓弦の弟は答えた。
 弓弦の家族が、自分のことを覚えていてくれて、そしてわざわざ訪ねてきてくれるなんて思いがけなかった。家族なんて、もう、できないものと、この先ずっと一人ぼっちで生きていくのだと、千蔭はあきらめていたから。そう決めてしまえば、迷いも焦りも消えるように思えた。が、やっぱり心の底の方では、そのことを残念に思いもした。
 疲れて仕事から帰ってくると、または休みの日など、ぽっかりと空いた時間の中で、いったい自分は、なんのために生きているのだろう……と思うのだった。一人の時間は好きだった。けれど、一人でいたいわけでもなかった。
 弓弦を失ってから、何度も妙齢の女性を紹介すると職場や知人から言われもしたが、いざとなると、やはり、気がすすまなかった。あれほど愛したのが、ウソになる気がして、自分には、ムリだと思った。もう二度と誰かをあれほど愛することなんてできない。そんなことができるのなら、あの気持ちはウソになる。弓弦を失ったけれど、ほんとうの意味で、失ってしまいたくはなかった。千蔭の心の中で、弓弦は永遠にあの日のまま、生きていたのだ。少しやつれて、悲しそうに微笑んで。
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